第2話
VMW部は贅沢にも二つの部屋を保有している。一つは管のようなものがたくさん通っている30脚の椅子で埋め尽くされており、何かの実験室のようで、正直言って不気味だ。
「ぱっと見だと人体実験してる部屋にしか見えないんだよな。…部室をピンクに染めれば人も来やすくなるかな。」
…もっと猟奇的になるな。もう一つの部室はコンピュータールームとなっており、仮想世界内の映像を見ることが出来たり、戦いの細かい設定などができる。
「…といっても、1人じゃ模擬戦も出来ないからなぁ…。自主練するか。」
ため息をつきつつ、沢山あるうちの真ん中の椅子に座り、管の先にあるリングを手と足に通す。頭部にヘッドセットを装着し、これで準備はOKだ。原理はよくわからないが、これでVR世界へと赴ける。
視界は真っ暗だが、装着ししばらくすると、頭部にさわさわと撫でられているような感触がし、腕と足のリングが締まっていき、しっかりと固定される。
「…ふぅ。」
目を瞑り大きく深呼吸をする。数秒後、目を開けると四角い白い部屋へと招かれる。
『Welcome to Virtual Magic War!!使用するステージ、天候を選んでください。』
無機質な女性の声。iPhoneのSiriっぽい感じだ。
「えー…森林、快晴で。」
『現在ステージを構成しています。しばらくお待ちください。』
真っ白だったはずの空間に徐々に色がつき始める。色が前後、左右、上下と広がる。世界が、創られる。
『完了しました。それでは、Good luck!』
チキチキ、と小鳥がさえずっている。木々に囲まれており、風がそよそよと頬を撫でる。どこからどう見ても森のど真ん中。VMWのステージの一つである、森林へ転送完了だ。
手をグー、パーと動かし、腿上げの要領で軽く足を動かす。
「っし。異常なしっと。相変わらず現実と大差ないなぁ。」
毎度のように現実さながらの世界に惚れ惚れする。聴覚や視覚はもちろん、触覚や嗅覚なんかもしっかりと再現できている。ためしたことはないが味覚も再現できているだろう。
「っし、こっちの方だったよな。」
ひょいひょい、と木に登り、木々をジャンプで渡り、自主練場(僕が勝手に言っているだが)に向かう。VMWはプレイヤー同士の戦闘時、ド派手なアクションができるように、身体能力が現実世界より大幅に強化されている。全員が全員室伏広治と思ってもらうと分かりやすいだろう。
…分かりやすいか?この例え。ハンマー投げ選手の室伏さんだが、30メートル走ならボルトよりも速く、野球の始球式では130キロ(左投げの上に女投げのような形で)をたたき出している。控えめに言って日本最強だと思う。
そのため、
「っと!」
木への着地をミスり足を滑らせ落下しそうになるも、片腕を伸ばして枝を掴み、地面への激突を回避、なんてこともできる。
「危ない危ない…結構落ち着いて対処できたな。」
身体能力が平均程度の僕でもこれくらいの所業簡単にこなせるので、運動が苦手でもそんなに気にする必要はない。
さてと、そろそろ目的地に到着かな。木からくるりと一回転し、地面に着地。そこそこな高さだけれども、こちらの世界では痛覚がかなり軽減されている。
生身で魔法をまともに喰らうと痛いなんてもんじゃないはずだ。痛覚を軽減されていないと誰もVMWをプレイしないだろう。
少し着地をミスした気がするけれどこの程度痛くもなんともない。
「っても、痛みがゼロになるわけじゃないから注意しないとね。」
いつだったか、今と同じように木の上を跳躍しながら移動していたら、気を抜いていたようで枝が腹部に突き刺さってしまった。それでもあの時は注射を打たれたような痛みだったけど、痛いことに変わりはない。戦闘中その痛みがずっと続くわけだから普通に辛い。
「さて、今日も始めますか。」
ぽんぽん、と腕を軽く叩くと半透明なウィンドウが出現する。そこには仮想世界での僕のステータスが表示される。
「…あ。ステータスオープン!」
なろう小説なら一度は言っておきたいよね、これ。
『中山大志 男性 16歳
属性魔法 風
MP 100/100
HP 96/100
状態異常 なし
身体の損傷 足に軽度の捻挫』
HP、つまりヒットポイントと、MP、マジックポイント。これは選手が保有している魔力で、MPを消費し魔法を放つことができる。
試合ではHPが0になると戦闘不能となり、強制的にVMW内の待機室へと戻される。待機室では巨大なモニターで試合の様子は観れるが、再度戦闘に参加することはできない。
僕は先ほどの着地で少しダメージを負ってしまったようだ。
HPは自然に回復しないので、こういう小さなダメージが重なっていつのまにかHPが0に、なんてこともあるらしい。
ちなみに、ダメージを負った部分は動かしづらくなる。今回は軽い捻挫だったのであまり変化がないが、過激な戦闘により大きく損傷した場合はまったくと言っていいほど動かなくなる。例えば片足を大きく損傷すると、歩くことすら困難になってしまう。
この辺は現実に従事してるかな。痛みをあまり感じないだけで、身動きは取れなくなってしまう。
しかし、一度怪我をすると二度と回復をすることができない、というわけではない。
「『ヒール』」
負傷した足に手をかざし、詠唱を唱える。淡い光が放たれ、みるみる怪我が治っていく。
『中山大志 男性 16歳
属性魔法 風
MP 92/100
HP 100/100
状態異常 なし
身体の損傷 なし』
ステータスが更新される。回復魔法を唱えることによって、HPや損傷を治すことができる。しかし、通常魔法を使うよりも多くMPを消費するので、実戦では傷を治し、敵を倒し、傷を治し、また敵を倒すと言った、いわゆるゾンビアタックを繰り返すことは難しい。
「そんじゃ、やりますか。」
眼前にある大木を前に、僕の口角はいつのまにか上がっていた。
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