2. Real Side

 黒い背広を着た、機嫌が悪そうな教師が教室に入ってくる。だるそうな生徒たちがいる教室に教師の声が響き渡り、生徒たちの気分はさらに下がる。


「はーい。期末試験で赤点をとった君たちには、補習授業を受けてもらいます。今から問題を出しますが、誰も答えられなかったら全員で夏休みに特別授業も受けてもらいます」


 ただでさえ三日前に学校中の空調が故障してうんざりしているのに、夏休みに登校しないといけないという罰を受ける羽目になってしまった生徒たちであるが、自業自得のため文句は言えない。……はずだったのだが、一人の男子が声を上げる。


「タカハシ先生、その問題解ければいいんですよね? 暑いのに夏休みに学校来たくありませーん!」


 確かに、タカハシの発言によれば、誰か一人でも問題を解くことができれば全員が特別授業免除ということなので、その場にいた補習組は一瞬沸き立ったが、タカハシはそれを一蹴する。


「おいスズキ、お前は最低点とってるんだが大丈夫なのか? それに、これ以外に二科目赤点なんだろ?」

「あ~~~そうだった~~~!! 一夜漬けじゃ駄目だったんだよな~~~!!」


 スズキは三科目赤点という事実を突き付けられ、戦意を失う。中間試験の時にすでに警告しておいたタカハシとしては、当然の報いだな、程度にしか感じられず、とりあえずさっさと終わらせたいと思って問題を出す。


「xy平面上に、『y = x』と『y = -x + 4』の直線を引く。描けば分かるが、この二本の直線は交わる。あとx軸とも交わる」


 数学の一次関数の問題を出し始めたタカハシに対し、スズキは、


「ちくしょー! また線で囲まれてできた三角形がどーのって問題かよ!」


と、文句を垂れる。それを聞いたタカハシは、一応出題形式を覚えているスズキに関心する。


「ほう……全く聞いてなかったわけじゃないんだな。でも、この問題をこうする!」


 にやりとしたタカハシは出題を続ける。


「この二本の直線の交点から、x軸に向かって垂線を引く」


 補習なのに授業で扱っていない問題を出すタカハシは、丁寧に描かれた黒板の図に、新たに上から下に線を引く。


「そ、そんなの習ってないぞ!?」


 タカハシの意地悪に戸惑うことしかできないスズキ。


「まだ終わりじゃないぞ」


 いちいち騒ぐスズキの相手が若干面倒になってきたタカハシは、スズキを放置したまま黒板の図を仕上げる。


「この垂線を軸として、直線で囲まれてできた三角形を回転させると円すいができる。では、この円すいの体積を求めなさい」


 丁寧に図を描いて出題したタカハシは、いつの間にか居眠りしている生徒数人を見つめ、呆れ果てる。


「今年も夏休みに授業か……。毎年やるの正直辛いんだが……」


 さっきまで騒いでいたスズキはすでに放心状態で、結局誰も問題が解けずに夏休みの特別授業の開催が確定したかのようだ。これ以上は時間の無駄だ、と思ったタカハシが授業の日程を伝えようとしたその時である。


「3分の8π」


 このたった一言で、教室に活気が戻り始める。


「君は……サトウか。そういえば、おたふく風邪でしばらく出席停止だったんだよな。それにしても運が悪かったな。試験期間中に……」


 普通に勉強が出来るサトウは普通に答えを言うが、タカハシはそれで終わりにしようとはしない。


「サトウには簡単すぎたよなぁ。じゃあ、これならどうだ。回転軸を垂線ではなくx軸にした場合はどうなる?」


 少しひねった出題をして、にやりとするタカハシ。


「あ! 先生ずるい! もう答えられたんだから夏休みの授業は無し!!」


 夏休みの授業が無くなったと思って元気になったスズキはタカハシに抗議をするが、サトウはそれを無視して


「3分の16π」


と即答する。


「じゃあサトウ、どうやって解いたか説明してみなさい」


 タカハシはサトウに、補習組に解法を説明できるか気になり、尋ねる。サトウは黙って立ち上がり、タカハシが黒板に描いた図に少し書き加えて、説明を始める。


「三角形の頂点の座標は(0, 0)、(2, 2)、(4, 0)。……つまり、底辺の長さと高さがそれぞれ4と2です。三角形をここの垂線を軸として回転させると、底面の半径が2、高さも2の円すいになるので、求める体積は、『半径×半径×π×高さ』に更に3分の1をかけて、3分の8πになります。回転軸をx軸にすると、先ほどの円すいが2個できるので、この場合の体積は3分の16πになります」

「いいだろう。今年の夏休みの特別授業は無しです。君たちはサトウに感謝するように」


 自分の担当の授業が無くなって運が良かったなと思いながら職員室に帰ろうとしたタカハシであったが、ふと思い出して、


「おいスズキ。お前はあと二科目あるんだから帰るんじゃないぞ」


と言い、スズキを異世界別の補習会場に連行したのだった……。  【終】


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

封印されし賢者の快方 半熟たまこ @tamako_hanjuku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画