封印されし賢者の快方

半熟たまこ

1. Dark Side

闇夜の様な衣を纏い、邪悪な雰囲気を醸し出す【魔王】が惑星ほしに降臨する。絶望に満ちた惑星ほしに響き渡る魔王の声は、人々からさらに生きる希望を奪う。


「無力な貴様らに最後の機会を与えよう。この試練を乗り越える者が現れないのなら、貴様らの命は無いものと思え」


 荒廃した惑星に辟易としていた人々は、魔王のさらなる暴虐に、もはや成すすべもない。……はずだったのだが、一人の【勇者】が声を上げる。


「受けて立とう。俺たちはお前に決して屈しない!」


 勇者が放った一言は、全てを諦めていた人々にわずかな希望を与えたのだが、魔王はそれを一蹴する。


「笑わせるな勇者よ。最弱の貴様に何ができる……。貴様が我を倒すことなど万に一つもないだろうが、仮に私を倒せたとしても第二、第三の魔王が貴様の前に立ちはだかるであろう!」

「くそっ! 俺にもっと力があれば……! まだ修行が足りなかったというのか……!」


 勇者は魔王のたった一言で心が折れ、自らの未熟さを悔いることしかできない。そんな些末な事など気にも留めない魔王には、攻撃を止める気配が一切見受けられず、ついに人々に最後の試練を与える。


「この世界に二本の†槍†ダークランスとデーモンスピアを降らせよう。槍は互いに交わり、また、地に突き刺さる」


 試練を告げる魔王に対し、勇者は


「畜生……再び結界を張ったというのか!?」


と、語気を強めて迫る。それを聞いた魔王は自らの結界を見破った勇者に関心する。


「ほう、よくぞ見破ったな勇者よ。だが本番はこれからだ!」


 薄気味悪い笑みを浮かべる魔王は、試練の通告を続ける。


「世界に舞い降りた二本の†槍†ダークランスとデーモンスピアが融合する地から、いかずちが地上に降り注がん」


 突如、謎の詠唱をはじめた魔王は、天から地に向かっていかずちを描く。


「な、なんだこの術は!?」


 魔王の不意打ちにただ戸惑うことしかできない勇者。


「まだ終わりではない」


 狼狽する勇者の事などもはや取るに足りないといわんばかりの魔王は、粛々と儀式を続け、仕上げる。


「このいかずちを中心とした結界は輪廻のごとく振る舞い、新たな世界を形成する。……さぁ、愚民共よ、この結界を解くが良い」


 試練を与えた魔王は、儀式中にすでに永眠してしまった有象無象を見下ろし、呆れ果てる。


「この平行世界パラレルワールドも終わったか……。運命さだめは変えられないというのか……」


 勇者もいつの間にか石化し、惑星ほしはすでに終焉を迎えたかのようだ。終わりを悟った魔王が全てを無に帰そうとしたその時であった。


「3分の8π」


 このたった一言で、惑星ほしに活気が戻り始める。


「貴様は……【賢者】か。長きにわたる封印から覚めたというのか……。あの不治の病も癒えただと……!?」


 本来なら存在しないはずの賢者は、いともたやすく結界の解除に成功するが、魔王は簡単には引き下がらない。


「貴様には物足りなかったであろう。では、これならどうだ。いかずちを地平線に変え、再び結界を張ってやろう」


 不敵な笑みを浮かべながら賢者を見つめる魔王。


「魔王! 卑怯だぞ! 話が違うではないか!!」


 いつの間にか石化が解けた勇者は魔王を強く罵るが、賢者は勇者には目もくれず、


「3分の16π」


と、一瞬で魔王の新たな結界を解除する。


「貴様がこの惑星ほしを導けるかどうか、試させてもらおう」


 魔王は賢者がこの惑星ほしの指導者に値する存在であるかに興味をもち、尋ねる。賢者は黙って立ち上がり、魔王が改変した世界を正し、人々に世界のことわりを説く。


「……よかろう。この惑星ほしは賢者によって救われた。愚民共よ、賢者に感謝することだな」


 全てを見届け、魔界に帰ろうとした魔王は最期に、


「しかし勇者。貴様にはまだ使命が残されている。我と共に逝くのだ」


 と言い、勇者を異世界に道連れにしたのだった……。  【終】

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