5文字のビンゴ大会

 友人の結婚式の二次会、たった今からビンゴ大会が始まる。

 他の友人たちやその家族たちに一枚ずつ、5×5の数字が書かれたごく普通のビンゴカードが配られ、マイクを持った司会者の男が合図を出し、みんなステージの上を向く。

 ステージ上にはタオルとか小さな置物などの小物や、ゲーム機やら時計、宝石、車など豪快景品が並んでおり、会場のあちこちから嬉々とした声が上がって、僕も心踊る気分になってきた。 

 そしていよいよビンゴ大会がスタートし、司会者の男が小さなビンゴマシーンを回して、出てきた番号を次々に言っていく。

 すると15回目にしてビンゴカードを持つ手が高く上がり、元気よく大きな声で「そろったー!」と叫ぶ声が聞こえてきて、その方を首を向けると少年の姿があった。

 とてもめでたい事だなぁ。こういうときには僕たちのような大人じゃなくて、ああいうフレッシュな子たちが喜んでくれるのが一番さ。さあ、もちろん景品はゲーム機に違いない、と思ったが、どうやらそういうわけにもいかないらしい。

 どうやらこのビンゴでは、揃った列の数字のシールを剥がして、そこに書かれた文字をつなげたものがもらえるという仕組みだった。どういうことかと思って、試しに自分のビンゴカードの数字をよく見ると、端の部分がめくれるようになっていた。なんと奇妙で誰も得しないルールだなぁ。

 少年はシールをちまちまと5枚剥がして、それをつなげて読み上げると、

 だ・い・や・も・ん 

 と、中途半端に止まった文字列が出来上がり、10万円相当のダイヤモンドを手に入れた。彼の母は喜んでいた様子だが、当てた少年はひどくがっかりしており気の毒に感じた。

 それからさらに20回マシンが回され、次々と当選者が現れてき、残りの毛品もわずかになってきた。僕のビンゴカードは49か23が抜ければビンゴになるダブルリーチで、番号が言われるたびに胸の鼓動が激しくなってくる。

 そしてついに司会者が23と言って斜めビンゴになり、何度も確かめた末にカードを持った手を高く上げて「ビンゴ――!」と自信満々な表情でアピールした。最高の気分である。

 だが心配なのは、この奇妙なビンゴカードの性質上、揃った文字列が必ずしも景品だとは限らないということだ。それにしても今まで一度も景品になかったり、意味をなさない文字列がでなかったことが不思議であり、こんなビンゴカードどこに売っているんだろうと思ったが、まあ、そんなことはどうでもいいので早くシールを剥がすことにした。

 えーっと。


 さ・よ・う・な・ら


 次の瞬間、急に僕は落ちた。底は赤い絨毯が引かれた床だったはずなのに。

 みるみる落ちた穴が小さくなっていき、周囲は真っ暗で何も見えず、大魔王のように低くせせら笑う声が聞こえて恐怖を抱く。

 そして僕は何か得体の知れないものに飲み込まれてしまった。


「わあっ!?」


 僕は布団から飛び起きて、窓から朝日が差し込み鳥がさえずるのを確かめてじから、これが夢だということに気づいてホッとする。

 ああ、昨日宴会でビンゴ大会やったばかりなのに、また夢の中でやるなんて。

 はあ、本当に死ぬかと思った。

 今日は祝日だからもうちょっと寝ようと布団に潜ろうとしたとき、一枚のビンゴカードがシーツの上に置いてあるの気づいて手に取る。昨日使ったやつだろうかと一瞬思ったが、開いている穴がぜんぜん違うし、右斜の列がビンゴになっていた。

 僕は不審に感じよく見てみると、数字はシールになっていて剥がせるようだ。

 まさか。

 息を呑んで一枚ずつゆっくりと剥がしていき、文字をつなげて読んでみると

 

 に・が・さ・な・い

 

 気味が悪くなって、カードを何回も破りゴミ箱の中に突っ込んだ。もう眠気はない。

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