鈴とナナ、墓参りに行く(10)

 自宅から15分、鈴の車は予定通りに目的地のお寺に着くと。駐車場には、車が1台も停まっておらず、がら空き状態。

 鈴は、適当な場所に車を停め、ナナをキャリーバッグの中に入れて、手に持ち。いつものように住職に挨拶をして、鈴の先祖の墓に向かった。

 ナナは、キャリーバッグの小窓から、外の景色を見ていると、実物のお墓を見たのはこれが始めてで、たくさんの墓が立ち、誰ともすれ違わずに、鈴の先祖の墓の前に着いた2人。

 鈴は、キャリーバッグを地面に置き、お墓の手入れをし、花を立て、線香をあげ、手を合わせた。

「リンちゃん、ごめんね、心配ばかりかけて。私は、大丈夫だから。ナナは必ず私が守ります。でも、なんで私じゃなくて、ナナなの? 猫は猫同士ってことなの?」

「そういうことみたいだよ、リンちゃんが言うには」

「だったら、リンちゃんに言っといて、私たちを見守ってねって」

「……それ、猫の私に言う!? だって」

「いつあっちに行くの?」

「……えっ!? そうなの? 今から? そういう世界があるとは聞いてたけど、本当にあるのね。お姉ちゃん、今から行くみたいだよ、あの世に」

「そっか、気をつけてね。御先祖様に迷惑をかけないでよ」

「それは、こっちのセリフ、だって」

「あっ、そう。私、幸せよ、リンちゃん、ありがとね」

「……こちらそ、ありがとうだって……えっ!? 最後にそれ言うの!?」

「どうかしたの?」

「……わかった。言えばいいんでしょ、言えば……お姉ちゃん、あまり調子に乗らないでよね、だって」

「はぁ!? 最後に言う言葉がそれ? それは昔の話であって……わかりました! これでいい?」

「それでいいよ、だって」


 ナナ、ありがとね。お姉ちゃんのこと、よろしく頼みます。あなたは喋れるだから。リンはそう言い、あの世とやらに行き。2人は、なんとも奇妙な体験をした墓参りだった。

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