鈴とナナ、墓参りに行く(4)

 鈴の相談事とは、鈴の過去の話から始まった。この話は、鈴の両親と早川副院長に大きくかかわった事件、といっても警察沙汰という事件ではない。


 一人っ子だった鈴は幼い頃、この家には2匹の猫が飼われ、両親ともに獣医師。動物に囲まれた環境だった。しかし、鈴は動物にまった興味がなく、両親の背中は見ずにテレビばかり見ていた。

 そんなある日、鈴はいつものようにテレビを見ていると、オリンピックの模様が放送され、鈴は食い入るように水泳選手の泳ぐ姿を見て。

「わたし、すいえいのせんしゅになって、オリンピックにでる」


 これが鈴の夢となり。小学生の時は、出る大会は全て1位を取り、負け知らず。

 鈴の周りでは、オリンピック選手になれる、金メダルも取れると騒がれ。鈴が中学生になってもとどまることを知らない、まるで負けなしの人生のように見える。そして、周りから天才スイマーと言われ、ちやほやされ、いい気になっていた。


 そんな中、鈴の父親は、この動物病院を継いでもらいたいと心の片隅で思っていた。しかし、成長して行く娘は、オリンピックに出ること、金メダルを取ることを夢見ている。その姿に、父親は跡継ぎを諦め。母親は娘が生まれた時から、好きなようにさせると決めていた。

 そんな時、鈴が中学3年になった頃、鈴の父親の親友である松岡俊介が、お互い仕事が忙しい中、半年ぶりに鈴の自宅を訪ねていた。その松岡の右手には、猫用キャリーバッグを持っている。この松岡は、東京都内でも有名な松岡病院の院長として名を馳せていた。


 本日、松岡院長がここに訪ねて訳は。3日前、鈴の父親の携帯電話に松岡院長からメールが届き、メール内容を見ると。


 最近、3匹この子猫が生まれ、2匹は雄猫、もう1匹は雌猫。その中の雌猫だけが、どういう訳か、育児放棄状態で困っている。雌猫だったからなのか、そんなことはないと思うが育児放棄の理由がわからない。

 頼む、お前のところでこの子猫を引き取ってくれないか。お前のところなら安心して預けられる、よろしく頼む。

 メール内容は以上だった。


 鈴の父親はそのメールに、了解したと返信し。この日から新たに家族が増え。動物にまった興味がなかった鈴が、自ら面倒を見ると言い出し。鈴の両親は驚いたが、鈴に任すことにした。

 鈴は、その子猫に凛とした姿を感じ、名前はリンと決め。心のどかで妹が欲しかったのか、リンを実の妹のように可愛がり。リンと一緒にいたい想いが溢れ、水泳の練習はさぼるようになり。父親が練習はと聞くと、私天才だから大丈夫と言い。

 いつもなら水泳の練習がない時は、早川の自宅に遊びに行っていたが、今は遊びに行かない。かといって、早川をないがしろにしているわけではない。ただ、リンがその上を行っていただけだった。


 中学を卒業した鈴と早川は。4月から高校1年生となり、2人は同じ高校に行くことになった。

 その高校は、水泳の強豪校として知られていて、鈴は推薦入学。早川は鈴と一緒の高校がいいと言うだけでその高校を選んだ。

 早川の夢は獣医師になり、木村動物病院いで働くこと。そして、鈴の父親を大尊敬し、あんな獣医師になりたいと。


 リンが鈴の家に来て1年が経ち、リンは1歳。人間でいえば、17歳。

 鈴は高校に入学し、水泳部に入り。有名人の鈴に、水泳部の顧問の先生も期待していた。 しかし、練習をさぼったせいで思うようにタイム伸びず、大会では5位止まり。周りの期待を裏切る形になった。


 鈴は、勘が鈍っただけで、少し練習すれば取り戻すと言っていたが、月日が経つにつれ、他の水泳部員に追い越されたまま。練習は頑張っているのに、一向にその差を縮めることはできない。挙句の果ては、過度の練習で肩を痛め、初めて挫折を味わった鈴だった。


 この頃から鈴は、私は天才なのになんでと、思うようになってしまい。肩は治っているのに治っていないふりをし、部活は休み。挙句の果てに、リンを部屋から追い出し、エサも与えなくなり。

「どうせ私なんか、オリンピック選手にはなれない。どうせ私は、もうダメなんだ」

 鈴は、ついに1番嫌いな言葉を口にした。「どうせ」、この言葉が1番嫌いだったはずなのに。


 リンの面倒は、全て鈴が見ていた。ただ、鈴が学校に行っている時は、両親が面倒をみていた。

 この日を境に、鈴は部屋に引きこもり、学校にも行かなくなり、携帯電話の電源も切り、部屋から出てこない。両親が話しかけるが、聞く耳を持たず。早川が部屋の前で話しかけるが、やはり鈴は聞く耳を持っていない。


 そこで、しばらく鈴をそっとしておくことにした。

 そんな中、鈴の父親は、鈴の部屋の前で不思議な現象を目の当たりにし、こんな猫もいるのかと驚いていた。

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