『タコのおかあさん』
沙波羅 或珂
『タコのおかあさん』
タコのおかあさんは たまごをうみました
とうめいなまくにつつまれた たくさんのちいさなたま
ふわふわとうみにうかんで きらきらひかり まるでほうせきのようです
ああ やっと うまれてくれた
おはよう わたしの かわいいぼうやたち
わたしがママよ
なにもしゃべらないたまごたちを
おかあさんはおおきなはっぽんのあしで
たいせつにかかえこみ
そのすべすべしたかおにほおずりしました
なにもしゃべらないけれど
こどもたちがよろこんでいると
おかあさんにはわかりました
そのひからおかあさんはなにもたべず
たくさんのたまごをかかえたまま
ずっとそこにいました
おなかがすきましたが たまごにほおずりして
こどもたちがすこしずつおおきくなっているとわかると
きにもなりません
まいにちまいにち そのおおきなはっぽんのあしで
こどもたちをいっぱいにかかえこみ
みずをふきかけて きれいにしました
きらきらひかるたからものは
もっときらきらひかるようになったと
おかあさんはおもいました
ときには そのだいじなたからものをたべようと
ほかのさかながよってきます
おかあさんは だいじなこどもたちをまもろうと
いっしょうけんめいたたかいました
うみのらんぼうものの うつぼもやってきましたが
おかあさんはけっしてまけませんでした
けっきょく おかあさんのあしを
2ほんもうつぼにもっていかれてしまいましたが
おかあさんは いたくもかなしくもありません
それよりもたいせつなたからものが こんなにたくさんあるからです
ながいじかんが ながれました
うみのけしきは なにもかわっていないのに
おかあさんはもう うごけません
おおきくふとかったあしも やせてきずだらけです
でもすこしだけうごくくちで おみずをすいこみ
たまごにふきかけて きれいにしつづけました
やがて そのうちのひとつが かすかにふるえて
なかから とうめいなきらきらしたものが とびだしました
ちいさい とてもとてもちいさいですが
すがたかたちは おかあさんにそっくりです
すみをはく くちもあります
あしもちゃんと はっぽんあります
でもじぶんより もっとずっとりっぱだと
おかあさんはおもいました
そうして つぎつぎにうまれる たくさんのこどもたち
やせてうごけなくなった おかあさんのまわりを
げんきいっぱいにおよぎまわり
ざらざらになったおかあさんのかおに ほおずりします
おかあさんのめから つめたいうみのみずとはちがう
あたたかいなみだが たくさんたくさんあふれました
わたしの たからもの わたしの ぼうや
こんなにげんきに うまれてくれた
こんなにきれいに そだってくれた
かみさま ありがとうございます
ありがとうございます かみさま
やがて さいごまではなれなかった
あまえんぼうのぼうやを やさしくおくりだし
まわりに だあれもいなくなると
おかあさんは ながいねむりに つきました
にどとさめることのない えいえんのねむりに
でもすこしも さびしくはありません
おかあさんのこころは
それよりもずっとあたたかいナニカに
つつまれていたからです
ほおら うみのうえを みあげてごらんなさい
おかあさんの たからものが
あんなにたくさん ひかっていますよ
≪おしまい≫
『タコのおかあさん』 沙波羅 或珂 @alucasunahara
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