第114話南の森の主③


「我が魂の真名は、ラズヴェンラズース。

 これより、其方に永遠の忠誠を誓い、支配下に降ろうぞ」


 緑竜は頭を低くし、巨大な身体を折り畳んで伏せている格好だ。

 どうやら、本当に忠誠を誓うらしい。


「いや、もう俺、前に古代竜の主人になっちゃってんだよね?」


「分かっておる。

 その龍神バハムートは我の古い友であり、互いに真名をも知る仲だ」


「あ、そうなんだ。いや、そいつと契約した時、結構、心臓に負担が掛かったからなぁ。

 二体も背負い込むなんて危険じゃない?」


「そうか、心臓か…………、フッ、心底惚れ込まれたものだな。

 契約印を刻む箇所には、その竜の覚悟と、引き出せる力量が関わってくる。

 心臓とは、魂との繋がり。それ即ち、主の為なら死しても構わぬという決意の表われである。

 そして其方は、アルドゥヴァインの全てを引き出せるという事だ。

 無論、我は既に忠誠を誓った身、心臓でも構わぬぞ」


 驚愕の事実!

 契約する事で、龍神の力を引き出せるらしい。

 アルドゥヴァインは、そんな事全然教えてくれなかった。いや、あの時は興奮して、そのまま犯して気絶させたんだっけか?

 そして、身体のどこに契約印を刻むかで、引き出せる力量が変化するらしい。

 簡単に言えば、身体の大事な場所であればあるほど、竜の生命力、能力を存分に引き出せるようだが、人体ってだいたいどこも大事じゃないか?

 悩むな…………

 竜の甚大な生命力、その少しでも引き出せるのなら、俺自身、死ぬ回数もぐんと減りそうだが。


 急いては事を仕損じる。

 ここは、熟考が必要な場面だ。


 目を閉じ黙って待っているファブニールが、たまに片目を開け、こちらを睨んでくる。

 心臓に刻印するって結構、いや相当痛かったんだよなぁ…………


「…………まだ決まらぬのか?存外、決断の遅い男のようだな」


 悩ましい…………

 ちなみに、各臓器で何割の力を引き出せるものなのか、細かく聞いていく。

 内臓だけでなく、手足や目鼻口でも、突き詰めれば指一本でも何とかいけるようだった。

 指一本くらいでは、引き出せる力などたかが知れていて一割にも満たないらしいが、竜の一割といっても相当なものだろう。


「いい加減にせぬか…………」


 ちなみに、歯一本の場合って、どうなるんだろう?

 ちょっと聞いてみたかったが、結構イライラしてるし、怒られそうだからやめておこう。

 まったく、短気な奴だ。


 逆に、主人のレベルによっては、引き出せる力にも限界があるようで、レベルが低いうちは少し無理してでも、より強く引き出せる場所へ契約印を刻んだ方が良いらしい。

 つまりは、心臓…………

 あの握り潰される程の痛みを、また体験しなきゃいけないのか、と思うと腰が引ける。


「ふぅ、まだまだ掛かりそうだな。

 決まったら教えてくれ。

 我は三百年経った現世が、どのように変わったか見て参る故」


 なんだよ、アルドゥヴァインと違って面倒見悪いな。

 俺を置いて、今からどっか行くってのかよ。

 まぁ、森は頂いたし、目的は果たしたから、こんな臭い竜の契約なんてどうでもいいんだけど…………


「おっと、この姿形では人間を怖がらせてしまうかも知れぬな」


 なんだ、分かってんじゃん。

 こんなデカい図体した竜が、突然現れたら大事件だぞ。

 どうするの?空彼方から覗き見するんか?オイ。


「久方振りに変身するか」


 突如、ファブニールの巨体が消えた。

 そして、いきなり目の前に褐色の女性が出現した!

 身長175センチくらい、腰まである長い深緑のウェーブヘア、髪と同じ色の鱗の鎧を装備し、黒いブーツを履いている。

 腰の位置が俺より高く、脚が長い。


「え?誰、ですか?」


「何を言っておる?」


 女性が振り返り、靡く緑髪の隙間から、透き通ったサファイアの瞳が俺を射抜く。

 細い黒目は爬虫類特有のものだが、その周りを神秘的な煌めきが迸っている。

 その瞳に吸い込まれ、心臓を鷲掴みにされた。


「これが、ラズヴェンラズースの人型ぞ」


「ラズヴェンラズース…………」


「ぬっ?真名を呼んだな!」


「ガハッ!」


 心臓を握り潰される程の激痛に、再び襲われる。


「ぎぎぎ…………、痛過ぎ…………る」


 真名契約システム、改善できないのかよぉ…………、はぁ、はぁ、辛い。


 翻筋斗うって転げ回る俺を、緑竜の女が抱え込み、竜言語で何か唱え始めた。

 すると、次第に胸の痛みが和らいでいき、呼吸がし易くなっていった。


「其方の痛みの半分を引き取った。

 なるほど、これは思ったより…………効くのぅ」


「最初からこうしろよ」


「知らぬわ!だが、これにて無事、契約成立である。ハッーハッハッハ!」


 そう言った竜女は、目を潤ませて笑っている。

 プライドと同じくらい高く尖った鼻、鋭い眉、少し離れた大きい吊り目、八重歯に見えなくもない鋭い牙。

 格別美女では無いが、可愛く見えてくるのは、何故なのか…………


 それとなく光を感じ、視線を落とすと、少し屈んでいる竜女の、鎖骨少し下にある鎧の隙間から見える胸部分に、竜紋が浮かび上がっていた。


「竜言語の契約印か、少し見せてくれ。二、三確認しておきたい」


 実は、竜紋なんてどうでもいい。気になるのは、胸の形や大きさだ。

 美乳なら良し、巨乳ならなお良し。

 これはどうしても気になる。


「見せる…………のか?」


 ラズヴェンラズースが鎧の胸当て部分を少しずらし、谷間がさっきより見え、文字がちょっと見えた。

 肝心の先っちょが見えない。

 これは、どうしたことか。まさかこの竜め、既にチラリズムを体得しているとでもいうのか?


「おい、その胸当てごと取り外せよ」


「バッ、バカか!それだと胸が丸見えになってしまうではないか!」


 は?こいつ、何言ってるの?

 丸っと見せんかい。


「さっきまで裸だっただろ!なんで、人型になった途端恥ずかしがるんだよっ!おかしいだろ!俺はご主人様だぞっ!最初の命令だ!脱ーげ!脱ーげ!はい、脱ーげ!」


 正論連発!はい論破!

 ジリジリと詰め寄ると、追い詰め過ぎたのか俯いてしまった。

 え?俺が悪いの?


「恥ずかしい…………」


「えっ?」


「なんだこの感情は…………何故か、恥ずかしい…………のだ」


 馬鹿な!は、恥じらうだと!

 頬を赤らめるだと!


「至高の存在である古代竜には、性別など無い。無論、人型であっても、だ。

 ところが、其方と契約し変身すると、強制的に女型の姿となったのだ。

 主人となった其方の願いが、反映されてしまったのであろう」


 初めて女性となった事に戸惑っているのか、まるで自分へ言い聞かせるように、話している。

 流石は、叡智を誇る竜種。物分かりがいい。


「じゃあ、俺の願い通り、胸当てを外そうねぇ。心配しなくていいよ。恥ずかしいのは最初だけだからねぇ。なぁに、慣れたら平気だよー」


 にこにこしながら、ゆっくりと胸当てをずらそうと手を掛ける。

 オラ、ワクワクすっぞ。


「止めろ!」


「ギャッ!」


 いきなり視界が真っ白になり、背中に衝撃が走った。

 突き飛ばされ、デビルプラントに衝突したようだ。

 肋骨何本か折れてやがる。それに、脚から下の感覚が無い。


「ああっ、マスターよ!」


 地面へ落ちる前に竜女が駆けつけ、ボロ雑巾となった俺を受け止める。

 規格外の膂力の前に人は無力だ。


「うう…………、痛いよう。ひどいよう」


「ど、どうしたらいい?」


 竜女はおろおろし、優しく話しかけてくる。

 これは、チャンスだ。


「脚の感覚が戻らないんだよう。ここをさすっておくれよう」


「こ、こうか?」


「もっと優しくだよう。また折れちゃうよう。あと、直に握っておくれよう」


「こ、こうか?」


「もっとリズミカルにだよう。あと、寒いから顔を胸で直に温めておくれよう」


「そ、それなら仕方ない…………のか?」


「早くしろよう。死んじゃうよう」


「くっ、やむを得ぬ!」


 混乱している竜女は、とうとう胸当てを自ら外し、テツオの顔へ胸を押し付けた。


「どうだ!暖まるか?」


「うひっ、暖かいよう」


 ふむ、思ったより巨乳だし、ちょっと褐色気味ではあるが、肌はきめ細かい。

 先っちょは綺麗なピンク色だ。

 褐色がそのピンクをより際立てている。

 思わず吸い付いてしまった。やり過ぎたか?


「ああっ、そこはっ!」


「ちゅぱっ、舐めてると痛みが治まっていくよう。レロレロレロレロレロレロレロレロ」


「そ、そうなのか?くぅ、はぁ、はぁ」


 胸を執拗に舐る事、数分。

 竜といえど女体。仕組みは人のそれと大した違いはあるまいて。ウヒヒ。


「はぁはぁ、もう挿れたいよう。ここに挿れたら完治するような気がするよう」


 竜女の脚の間に手を突っ込み、股を指でさすってみる。


「それは、…………違うだろう」


「ヒィッ!」


 ドスの効いた声に、思わず身が竦む。明らかに怒気が含まれている。


「我を騙して、交配しようとしてるな!」


 くっ、こえぇ!殺される!

 だが、ここまで来たら、あとは押し切るのみ。

 何故なら、俺はご主人様なのだから!


「先っちょ、先っちょだけ!先っちょだけ中であっためてよう!」


「駄目だといったら駄目だ!

 身体はどうやら其方に反応しているようだが、我が心、未だ追い付いておらぬ。

 まずは、女というものを学びたい。

 先っちょとやらは、その後にして貰えぬか?」


 竜女は、俺の首を片手で持ち上げ、締め付けながら、頬を赤らめつつ、そんな戯言を宣っている。

 意識が混濁する中、死にたく無い一心で、俺は竜女の願いを受け入れていた。


「分かってくれてよかった。

 其方は我の主となった。

 そうだ!我をラズラズと呼称する事を赦そうぞ」


「…………ラズ、首…………死…………ぬ」


 テツオはそこで意識を失った。


 【危険地帯デッドゾーン制覇クリア

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