第34話リリィ


 ——ホーム・団長室


 執務室奥のソニアの私室に通された。

 執務室と同じく質素で、最低限の生活用家具しか無く。

 机、椅子、タンス、ベッド以上。

 雑貨も飾り気も無く、女の子として育ってきてないのが気の毒に感じてしまう。


 話があると言われ、ここまで来てしまったが、一団員が団長の私室まで入って良かったのだろうか?

 そこまでの内密な話があるのか?

 ソニアの顔は酒のせいで赤いが、挙動を見るに酔ってはいないようだ。

 ちょっと色っぽく見える。


「好きに座ってくれ」


 え?

 ソニアが自分の椅子に座ってしまったせいで、椅子はもうこの部屋には無い。

 他に座る場所といえば、……ベッドか。

 いや、床?

 そういうプレイ?


「あ、すまない。

 この椅子に座ってくれ」


 団長が急ぎ立ち上がり、俺に椅子を進める。


「あ、いや、団長が座って下さい。

 俺は立ったままでいいですよ」


 チラリと時計を覗き見する。

 時間的にそろそろ戻らないと、リリィが待っている筈だ。


「私は何をやっているんだろうな……」


「え?」


 俺に背を向けたまま、よく聞こえない声でボソボソ何か喋ったと思ったら、不意に団長の足元にバサッと白い布が落ちる。

 目を上げると団長の綺麗な引き締まった背中があった。


「だ、団長!

 何やってるんです?」


 どこかにそんなフラグあったっけ?

 今ちょっと、頭ん中がハーレム候補三十六人やリリィとエルメスで頭がいっぱいで、まさかこの角度でくるかぁ!という驚きが先行している。

 まずはどういうつもりかハッキリさせよう。


 ソニアがゆっくり振り返る。

 見事にシェイプされた身体に、あの反則級ロケット砲が二基、俺に向かって照準を合わせている。

 す、すごい。


「男はこれ、好きなんだろう?」


 団長が自分のミサイルを見ながら俺に問う。

 はい、大好物です。

 いや、待て。

 理性を保つんだ。


「俺の事、からかってます?

 それとも、夜の相手が欲しいだけですか?」


 ちょい強めの台詞でけしかけてみる。

 すると、団長は口をキュッとつぐんで俺に向かって突進してきた。

 壁に強く押し付けられ、肺に衝撃が走る。


 ソニアは更に手で両肩を抑えつけたまま、俺の口に唇を強く押し当ててきた。

 痛い痛い。

 もしかして、キスか?コレ。

 背面の壁がミシミシ悲鳴を上げている。

 息ぐるじい……


「ぷはぁっ!

 待って、団長。

 落ち着いて!」


 土俵際でうっちゃりをかます力士の様に、横のベッドへドサッと投げ落とす。

 立場逆転、俺が上に乗るマウントポジションの形になった。

 全盛期のヒクソンも真っ青。


「落ち着いてるさ。

 テツオが私にくれた物の大きさを考えると、礼はこれ以外に思い浮かばなかったんだ」


「……親父さんの仇」


 ソニアは横を向いてコクリと頷いた。


「父が死んでから十年間ずっと男として生きてきた。

 なぁ、テツオ……私には女としての魅力はないか?」


 このミサイルの破壊力こそが魅力だ。

 いや、顔も切れ長の強い目も魅力的だ。


「団長は可愛いですよ」


 団長が横を向いたまま、恥じらう表情を浮かべた。

 女やん。

 あんた、立派な女やでぇ!


 えぇい、今後どう展開していくかは分からないが、ここまできて我慢出来る訳がない。

 最悪、記憶を消そう。

 おっと、失言だった。

 とりあえず、早くこの山を征服したい!


「ソニア、俺の方を見て」


 優しくゆっくりキスをした。

 団長はされるがままに身を委ねている。

 とても手のひらに収まりきらない。

 すごい肉厚だが柔らかく、鍛えられた胸筋により仰向けでも形をキープしている。

 素晴らしい張りだ。

 ソニアから吐息が漏れ始めた。

 全身を解すべく身体中隈無くマッサージする。


「テツオ、……もう」


 みなまで言うな。

 ソニアに本格的なマッサージを開始する。


「くぅぅ……」


 目に涙を浮かべ痛みに耐えている。

 辛そうだ。

 紳士は痛みを与えない。


「【回復魔法】を」


「いや、このまま……、テツオを感じたい……」


 むう?

 痛みの記憶こそが俺との証だと?

 男冥利に尽きるわい。


 腰を掴み、線が入った固い腹筋を感じながらガンガンマッサージする。

 大きく揺れるマッサージボールが、遊園地の遊具コーヒーカップの様に暴れ回る。

 あれ?コーヒーカップ?

 記憶が曖昧だ。


「くはぁっ!」


 我慢していた熱い吐息が俺の首を湿らす。

 ギュッと力強く抱き締めてきたので逃げようもなく、俺もそのままマッサージをフィニッシュ!

 ソニアも限界を迎えたのか、肩でハァハァ息をしている。


「女にはこんな幸せがあるんだな……」


 いそいそと服を着ていたら、なんか言いだした。

 いきなり、夫婦になれとか言わないよね?


 すると突如、ドンドンとノックがして、ガチャッと執務室の扉が開いた。


「失礼しまーす。

 団長ー!団長いますかー?」


 ヤバい!

 二人でいるところがバレると色々不味い。

 小声で団長に話しかける。


「俺、窓から出ますね」


「あ、ああ」


 窓を開けて出ようとすると、服を着終えた団長が、


「任務じゃなければ、大体夜はここにいる。

 いつでも来てくれて構わない。

 いや、その、来て……欲しい」


 恥ずかしさで俯向く団長に萌える。

 今夜はいいものが見れた。


「じゃあ、また来ます」


 そう言い残し、テツオは窓から一瞬で飛び去る。

 強く冷たい風が、熱く火照ったソニアの顔を撫でた。


 ——デカスドーム・テツオホーム


 リリィに会う前に、ソニアの匂いを落とそうと思い、さくっと風呂に入りにきた。


 手っ取り早く裸で【転移】して、直で湯船に浸かる。

 掛け湯無しだが、許してたもれ。


「ふぅ〜、癒される」


 湯気が少しずつ晴れていくと、何か人の気配を感じる。


 なんと!数人の女性達が入浴中だった!


「テ、テツオ様っ!?」


「いつの間に、そちらに?」


 驚く女性達。

 六人いたようだが、全員が身体を隠そうとする気配がない。


「すまん!すぐ出て行く」


 ザバッと立ち上がり出ようとすると、後ろから肩を抑えられ湯の中に戻された。

 後ろにも居たのか。

 周りを円で取り囲まれている。


「ここはテツオ様の御屋敷。

 もし出て行くとしたら私達の方ですわ」


「ご主人様はゆっくりとお寛ぎ下さいませ」


 などと言いつつ全員がにじり寄ってくる。

 え?なんだこの教育された対応は?


「お身体洗いましょうか?」


「それとも、マッサージ致しましょうか?」


 俺に身体を擦り寄せてくる。

 最初は緊張と恥じらいの中、ゆっくり関係を育んで行きたかったのに!

 たった数時間で何があった?


「いやいやいや、待った待った。

 誰がそんなことをしろって言ったんだ?」


 該当者は二人いるが。


「メイド長のメルロス様です。

 ご主人様は世界の脅威と戦うお忙しいお方だと言われました」


「なので、ご主人様がいらっしゃったら全力で癒して差し上げるよう言付かっております」


 メルロスか。

 メイド長ってなんだよ!


「いや、大丈夫だ。

 とりあえず今夜はゆっくり休んでくれ!

 俺はもう出るから」


 俺の言う事を無視して、全員が俺とまぐわろうと密着してくる。

 もう、駄目だ!

【転移】して逃げた。


「あら?ご主人様?」


 今度、メルロスとは話し合いが必要だな。

 いや、しかし。

 ハーレムってすごい。



 ——サルサーレの街・宿屋


 高級レストランで食事を終え、宿屋のリリィの部屋に入った途端、リリィが抱きついてきた。


 一時間前、宿に着くと、リリィはドレスアップして待っていた。

 俺に少しでも気に入ってもらえるように、色んな服屋を回ったらしい。

 白のフリルやらが付いた肩の出た服にミニスート。

 どうやら露出しとけば良いと店員に言われたようだ。

 幅広い黒革ベルトでウエストをキュッと締め、白のニーハイタイツにヒールを履いていた。

 流石はお姫様。

 素材がいいからめちゃくちゃ可愛い。


 貴族御用達の高級宿屋に行こうとしたが、街の宿屋でいいとの事で戻ってきたという訳だ。

 シャツとベルトを脱がすと、白く綺麗な肌が露わになった。


「凄くドキドキしてる……

 テツオ、恥ずかしい…………」


 一度マッサージしてしまってるが、その後回復させた初めての証がちゃんと復活しているのか確認出来るチャンスがやってきた。


 マッサージ器を少しずつ入れていく我がテツオ軍。


「い、いた……あ、ああ、嬉しい」


 リリィの目から涙が流れた。

 痛みなのか、嬉しさなのか分からないが、問答無用で【回復魔法】で痛みを取り除く。

 やはりちゃんと初めてに戻っていた。


 痛みの記憶はあるんだから、もう我慢する必要はない。

 回復させた後、リリィのマッサージ器を思う存分堪能した。

 ニーハイ履いたままで一回、脱がして一回、お代わり一回の計三回、連続でマッサージしてしまった。

 リリィのマッサージ器が凄く馴染む、というか気持ち良すぎる。

 人間では、現一位といってよい。


「やっぱり、私の身体、貴方を覚えてるみたい。

 山で、私の事を」


 ド、ドキィッ!

 嘘だろ?

 俺の魔法は完璧だった。

 もしかして、細胞レベルで覚えてるって事なのか?

 そんなん反則だよー。


「助けて風呂に入れたら、我慢出来なくなって」


 なんだ、この言い訳。

 まるっきり犯罪者やんけ。

 なんとかうまく言い包めたい。

 被害を、怒りを、最小限に抑えたい。

 だ、誰か、オラにいい台詞分けてくれー!


「いいのよ、テツオになら。

 ただ、覚えておきたかったなぁ、て」


 へ?お咎めなし?

 九死に一生を得た?

 しかし、ううむ。

 魔法で思い出させる事は簡単なんだが、意識の無い人間をマッサージする映像は、犯罪臭しかない。

 駄目駄目駄目駄目駄目、君は思い出しちゃあいけないんだ。


「テツオ、一つ言っておくけど、私は貴方が好きで許したの。

 私が王族だからって何か余計な気遣いしなくていいのよ。

 貴方は自由な冒険者だし、私は使命のある英雄の一人……。

 将来、貴方と結ばれよう、とか……うっ……思って、ひっぐ……ううう。

 うあああああああん」


 リリィは堰を切ったように泣き出してしまった。

 何をそんな我慢していたのか?

 それとも、使命の重圧か?

 俺の股ぐらに突っ伏してるので、涙や息で下半身が熱くてびっちゃりだ。

 不快感を表に出さないように、青い髪の頭を撫でてやる。


 案外、俺はこいつが好きなようだ。

 こいつの思う付き合い方は出来ないかも知れないが。


 リリィが少し落ち着いてきたとこで、聞こえるように語り出す。


「リリィ、俺には夢がある」


「夢?」


 泣き顔で俺を見る。


「ハーレムだ!

 いつか俺の思う至高のハーレムを作り上げるつもりだ。

 お前がもし王族の身分を捨ててもいいのなら、俺の女にしてやる。」


 リリィは大きい吊り目を、更に大きくして固まってしまった。

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