第21話ソニア
団長のソニアが少し話をしてみたいという事で、面接室のような部屋に入っていた。
対面式の二人掛けの椅子に大理石のテーブルがあり、それだけで部屋が埋まる程のスペースだが、窓があるので狭さはそこまで感じない。
窓から差し込む夕陽がソニアを照らす。
初対面の美人とこんな狭い空間に二人きりは緊張するな。
「推薦状を読ませてもらった。
スーレの村ではうちの団員が迷惑をかけて、大変申し訳なかった。
この手紙には君への感謝と、クランへ勧誘したい熱い思いがびっしりと書いてある。
随分と気に入られたようだな」
え?そうなの?
おっさんに気に入られても困るんだけど。
「軽く紹介しておこう。
我がクラン【
死んだ父から団長を受け継いだ私は、このクランを本当の家族だと思っている。
もし君に入る気があるなら、みんなを家族だと思ってくれ」
うーむ。
アットホームという言葉に騙されていいように使われる事例はよくある。
長年続いているクランなら信頼度も高いよ!と思わせておいて、古い考えや風習に縛られ腐敗してる組織も少なくない。
そもそも、
だがそんな悲観的感情すら一瞬で搔き消す圧倒的な説得力を、この団長は胸に二基備えている。
冷たくすら感じるクールな瞳に、反比例する包容力たっぷりな母性の膨らみがひたすら暖かい。
あったけぇよぉ。
「ありがとうございます。
ですが、今回の依頼次第じゃ迷惑をかけるかもしれません」
「ああ、依頼の事はラーチェから聞いている。
今日ギルドに初めて来た君が、沢山ある捜索依頼の中から、
心当たりがあるなら聞かせて欲しい」
どうしよう。
貴族と魔族 、どちらも敬遠したいキーワードだろうが、正直に全部言ってもいいものか?
それとも、まだ魔族の仕業と確定した訳でもないし、そこまで言う必要もないか?
こいつは迷う!迷う!
「私の知人の仲間が、何者かに攫われたので探し出したいんです」
「君は分かりやすいな。
私に気を遣っている。
犯人の目星は付いているんだろう?」
「すいません。
では、お言葉に甘えて言わせてもらいますが、犯人はもしかしたら貴族かもしれないんです」
「貴族……か」
なんでバレたか分からないが正直に言ってみると、やっぱりというか団長は顔を顰めた。
「やはり厳しいですか?
団長さんには依頼を受けていただくだけでもいいんです。
私一人でやりますので」
「いや、違うんだ。
貴族の悪い噂はどこにだってあるさ。
ただ、あいつらは尻尾をなかなか掴ませない。
ようやくチャンスが来て嬉しいんだよ。
それに依頼として、ギルドに要請されているのならば断る理由はない」
「は、はぁ」
「いいだろう、君には借りがある。
依頼は私が受け、情報収集は空いてる団員に頼もう。
明日の昼過ぎにでも、またギルドに来てくれ。
こちらで調査しておく」
「分かりました。
ありがとうございます」
トントン拍子で話がまとまってしまった。
こんな簡単でいいのか?
ソニアはではまた明日、と言って早々に席を立った。
おっと、
【解析】
ソニア
年齢:21
LV:51
HP:2500
MP:120
レベル50で
雪山にいたアイアンウィングくらいの強さか。
あの鳥さん強かったんだな。
それよりも団長、俺より年下だったのか。
だからと言って年下でもお姉さん属性がある事に間違いは無い。
用事が終わったので、ギルド一階へ戻ろう。
一階に戻ると、テーブル席に座っているリリィを見つけた。
というか【探知】で、どこにいるかすぐに分かってしまうんだが。
ん?周りに男性冒険者が数人いるが、まさかナンパされているのか?
「待たせたな」
「あっ、テツオ!」
連れがいる事が分かったからか、男達は舌打ちしながら去っていった。
よかったな、お前ら。
こいつ、お前らの倍以上は強いぞ。
「メシ食いに行くか」
「うん!」
ギルドを出るとすっかり暗くなっていた。
スーレの村と違い、街灯で通りを明るく照らしている。
街灯?
電気もガスも使われてないこの世界で、何が燃料なんだろうか。
中世建築を照らす綺麗な淡い光を眺めながら、異国情緒溢れるテーマパークを歩いてるような気分に浸る。
ほんの数分ばかり歩くと、一際賑やかな酒場に到着した。
中を覗くと多数の冒険者で混雑していた。
「騒々しくないか?
お姫様はもっと落ち着いた高級店で食べたいだろ?」
「こういう店に一度入ってみたかったの。
スーレの村に行く前に通ったんだけど、一人じゃ入りづらくて」
「そうなんだ。
じゃあ、ここにするか」
「いいの?やったぁ」
嬉しそうに破顔するリリィが一際可愛く見えてしまう。
実際可愛いんだから当然といえば当然だが。
参ったな。
——バッファローテリー
街一番の大きさと美味しさを自負する大衆酒場。
夜になる前から連日盛況で、冒険者と同じく定休日は存在しない。
店の真ん中に調理場があり、巨漢の店主テリーが調理し、露出度高めのウェイトレス達が、酒や料理を運ぶ。
商店街、ギルド、酒場、この街はどこも人が多過ぎる。
俺たち二人は、少しでも目立ちたくない理由から、端の席でのんびり食事をしていた。
何故か最初の一杯ですでにリリィが酔っている。
酒弱いな、こいつ。
そういえば何才なんだ?
【解析】
スカーレット
年齢:16
LV:67
HP:2100
MP:220
待て待て待て、16才て!
未成年やん!
「お、おい!そういえばリリィって何才なんだ?」
「え?私、16よ」
「酒とかまだ早いんじゃないのか?」
「えー、何言ってるの?
とっくに13才で成人してるんだから」
「は?
あ、いや、そうなんだ」
まぁ確かに、その国その時代で成人する年齢はバラバラだ。
自分の基準に当て嵌めてはいけない。
郷に入らば郷に従え、だ。
この世界の基準、常識、法律についても識っていかねばならないな。
「それより頼んでたモノはあったのか?」
「ああ、これね」
リリィから何枚かの羊皮紙を受け取る。
依頼要請書だ。
俺が
よく揃えてくれたもんだ。
「おお!ありがとうな」
「えっ?
えへへ……役にたったかな?」
「ああ」
「ねぇ、ちゃんと褒めてよー」
「酔ってるのか?お前」
酔っぱらいを無視して、ちょうど運ばれてきた出来立ての料理を食べる。
ここの料理はどれもが美味しくて酒が進む。
特に豆と果実と獣肉の包み焼きなんかはあまりの美味さにお代わりしたくらいだ。
勧められた果実酒に切り替えてからは、アルコール度数が高かったのかリリィが完全に酔ってしまい、俺にもたれ掛かっている。
ついつい胸元に目がいってしまう。
「そういやお前結構強いんだな。
さっき会った団長よりお前の方が強かったぞ」
「えー、その団長って女ー?」
やばいな、絡み酒か?
肩をぐいぐい押し当てて俺の顔をじっと見ている。
「おい、お二人さん。
ここは乳繰り合う場所じゃねぇぞ!」
髭面のゴツいおっさんがガコン!とジョッキをテーブルに叩き付ける。
あー、出たよ。
これが嫌だから酒場避けたかったんだよねー。
「ぐわぁっ!」
おっさんが一瞬で店外に吹き飛ぶ。
俺は何もしてないぞ?
恐ろしく早い手刀。
おっさんは倒れたまま微動だにしない。
生きてるよね?
「ったく、邪魔しないでよねー」
酔って凶暴になっている。
おっさんにそっと【回復魔法】を掛けておいた。
いやしかし、まさかこうやって女性と二人で酒場で飲めるなんて、この世界に来てよかったと素直に思えるな。
おっさんが吹っ飛んでからは誰も近寄らず、その後落ち着いて過ごせた。
気になっていた街灯の燃料が聞きたかったが、リリィが完全に酔っ払った為、結局分からずじまいだった。
酒場を出て、リリィをおぶって宿に向かう。
こいつを寝かせたら、ようやく俺のお楽しみの時間だ。
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