第23回 チームLemoneとの出会い

 2016年9月10日の土曜日。新宿歌舞伎町の入り口にあるルノアールで、私はコーヒーを飲んでいた。予定よりも早くに着いてしまったので、そこで時間を潰していたのである。

 気分は高揚していた。新しい人達との出会いはいつだって刺激的なものだ。それも、漫画を描くという、自分には出来ないスキルを持った人達だ。どんな話が聞けるのか、期待と興奮でワクワクしていた。


 やがて時間が来たので、店へと向かった。すでに全員集まっている、との連絡も入っていた。


 飲み屋に入り、予約者の名前を告げ、座席まで案内してもらう。


 掘りごたつ式の座敷席に、柊えんさんを始め、六、七人のメンバーが集い、すでに酒とつまみを楽しんでいた。


「どうも初めまして。おーみです」

「ようこそ! どうぞどうぞ、座ってください」


 若干緊張しながら挨拶する自分を、皆は温かく迎え入れてくれた。


 まずは生ビールを頼み、乾杯する。いつもは道場で子供達の指導をしている時間に、堂々と酒を飲める、というのがたまらなく幸せだった。


 それからお互いの自己紹介に入っていった。まずは、後に同人誌の表紙絵をお願いすることになる「うめじそ」さんや、プロ漫画家を目差し奮闘中の「マルオ」さん。この二人とは、いまでも一緒に遊びに行ったりする関係だ。

 そして、斉藤敦士さん(この当時は絵描きとしての名義「紙パレット」さんとして紹介された)。後に、個人制作で3Dアドベンチャーゲーム『ジラフとアンニカ』を開発して世に出すこととなる努力の人である。

 他にもいまだ交流のある人達が何人かいたと思うが、記憶が定かではないので、具体名を挙げるのはこれぐらいにしておく。


 この日の飲みは、コミティアで出す漫画合同誌の打ち合わせの会でもあった。サークル名は「チームLemone」。活気溢れるやり取りを横から聞いていて、いいなあ、と皆さんのことがうらやましく感じた。自分にも、こんな風に共に活動できる仲間がいたら、どんなにか心強いだろうか、と思えた。


 すると、うめじそさんから声をかけられた。


「よかったら逢巳先生も寄稿してみませんか?」


 え、いいんですか、と思った。

 漫画の合同誌に小説で乗り込むというのは、アリなのだろうか。しかも打ち切り作家の自分なんかが寄稿して、どれだけの価値があるのだろう、という迷いもあった。

 だけど、書いてみたい、という思いが強くなってきた。

 もはや商業で作品を出すことが絶望的だった自分にとっては、これは、数少ない発表の場の一つであった。


「よろしければ、ぜひ」

「おお、やった!」


 今回の合同誌の取りまとめ役であるうめじそさんは、私の返事を聞いて、喜びを露わにしていた。何でも、短編小説が一本入っているだけでも、合同誌のテイストがまた格別なものへと変わるので、寄稿してもらえるのは非常に嬉しい、とのことだった。


 自分の小説が求められている――それは、とてもありがたいことだった。

 二作続けて打ち切りとなったことで、自分が書く文章には価値がないのだと気落ちしていたところに、思わぬ救いがもたらされた。


「そうしたら、よろしくお願いします。今回の合同誌のテーマは『嘘』ですので、そのテーマに沿った内容で書いてもらえれば」


 暗くどんよりとしていた自分の心に、再び彩りが戻ってきた。


(書こう。書くぞ!)


 この時を境に、自分の新しい執筆ライフがスタートしたのである。

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