第13回 ついに商業デビュー! そして……

 2013年10月12日。


 金沢にある「第7ギョーザの店」という、ホワイト餃子なる餃子で人気のお店で、ちょっとしたパーティが開かれていた。


 「天下統一クロニクル」という47都道府県に分かれて戦い合うソシャゲがあるのだが、自分はその石川県勢力に所属していた。それが縁で知り合った友人達との食事会だった。


 ちなみに、前回話をした十年ぶりに出来た彼女とも、「天下統一クロニクル」がきっかけで知り合い、交際に発展したのである。当然、このホワイト餃子パーティにも参加していた。


 その席で、友人達は『ファイティング☆ウィッチ』を出してきて、サインを求めてきた。この時のためにサインの練習をしていた自分は、みんなにお礼を言いながら、喜んで、次々とサインを書いていった。(なお、本来ならサイン本は、サイン会や抽選等で、出版社が特典として用意するものだから、作家が親しい人達に特別にサインをするというのは、出版社的にはやめてほしいことだそうです。この当時はそういうルールを全然知らなかったのでご容赦ください)


 この時、私は有頂天になっていた。ついに自分も作家の仲間入りだ、と喜んでいた。


 2013年10月10日に、晴れて『ファイティング☆ウィッチ』は発売となり、それから本屋を巡っては、新刊コーナーに平積みになっている自作を見て、ほくほく笑顔で1冊買う、ということを日課のようにこなしていた。


 どれだけの人が買ってくれたのだろうか。買った人は、楽しんでくれているだろうか。一所懸命、心を込めて作ったのだから、きっとその想いは伝わるだろう。そんな風に、プラスのことばかり考えていた。


 ホワイト餃子パーティがお開きになった後、私は宿に戻り、翌日の取材に備えて準備をしていた。


 第二巻のための取材である。


 すでに6月の時点で、担当編集から、第二巻のプロットを出すよう求められていた。そして、その内容にOKが通っており、原稿を書くように依頼されていたので、執筆のために現地取材が必要となっていた。


 第二巻の舞台は、山中温泉にしていた。ヒロインは五人いるが、その内の一人に焦点を当てており、その彼女の生家が山中温泉の老舗旅館という設定だったからだ。他校との交流試合から始まり、最終的に第二巻におけるヴィランとの決戦を山中温泉のあやとり橋上で行う、というシナリオにしていた。だから、どうしても現地を見たかったのである。


 取材に向けて気合いを入れていた自分は、夜寝る前に、エゴサーチをしてみた。


 そろそろ『ファイティング☆ウィッチ』を読んだ人が、感想を書いてくれている頃だろうと思ったからだ。


 そして、感想を見つけた。


 「地雷」と書かれていた。


 一瞬、何を言われているのかわからず、思考がフリーズした。


 最初に見つけた感想は、とにかくメタメタに批判している内容だった。よくこのレベルで商業誌として出せたな、というようなことも書かれていた。そして、結論としては「地雷だから買うな」という形で締めくくっていた。


 感想を読み終わった後、全身がカッと熱くなってきた。好意的な感想は見つからず、二件ほどボロクソにけなしている感想を見つけただけだった。しかし、それだけでもパニックになるには十分だった。


 なぜ? どうして? 自分としては丁寧に仕上げた作品だと思っていたけど、実はとても低レベルなものを作ってしまったのか? だとしたら、とんでもないものを世に送り出してしまったのか?


 悩み、苦しみ、その日はほとんど一睡も出来なかった。


 翌日は取材どころの体調でなかったが、二巻の原稿の締切もあるので、とにかくボロボロの心身に鞭を打って、山中温泉へと出かけた。だけど、ゾンビのように、単純作業で風景の撮影を繰り返すだけで、何も頭には入ってこなかった。


 結論を言うと、『ファイティング☆ウィッチ』の評価は全体的に低いものだった。


 時系列的にはもっと後の話となるが、2chに実名を晒されたこともあるくらいだ。誰か知り合いが自分の個人情報をリークしたのか、SNS等から情報を掴んだのか、とにかく、ここまで来るとイジメではなかろうか、と思うレベルだった。


 これも時系列的には後の方の話だが、Twitterのリプライで、わざわざ絡んでくる人もいた。その人は自身のタイムライン上で、「本当にこの作者は拳法経験者なのか?」とディスった上で、自分に対して「どうして金沢を舞台にしたのですか」と質問をしてきていた。その質問にネガティブな意味が込められていることを察した自分は、「よく通っていて大好きな場所だからです」と簡潔に回答した。


 ただ、一箇所だけ、高評価してくれているブログがあった。好意的な感想の後に、応援メッセージまで載っていて、ズタズタにされた自分の心にはとても心地良く染み込むものだった。今でも執筆を続けられているのは、このブログの感想記事があったからだといっても過言ではない。(この場でブログ名を出してお礼を言いたいくらいぐらいであるが、何かの巻き添えにするのは忍びないので、気持ちだけにとどめておく)


 ともあれ、すっかり自信を無くしていたが、それもこれも二巻をより面白くすることで挽回してみせよう、と決意していた。


 だが、そんな決意も虚しく――


 2013年10月22日。『ファイティング☆ウィッチ』発売からわずか二週間も経っていない、その日の夜。


 担当編集から一本の電話が入ってきた。


 『ファイティング☆ウィッチ』は一巻で打ち切りとなった、という報せだった。

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