第6回 電撃小説大賞への道~その一~

 前回まではモンゴル旅行記を書いていたわけであるが、さて次は何を書こうか、というところでしばらく悩んでいたりした。


 2009年のハイライトはモンゴル旅行なのであるが、2010年もそれなりに劇的な出来事が数多く起こった。ただ、その話は非常にセンシティブな、自分にとってもそうだし、多くの人を巻き込む内容でもあるので、一度noteに掲載したこともあったけれど、結局取り下げたりした。


 ただ、その2010年の話を避けても、これから書く内容はなんとか成り立つので、一気に時をすっ飛ばして、2011年から2012年にかけての思い出話でも語ろうと思う。


 皆さんも、鮮烈に憶えているかと思う。


 2011年3月11日、東日本大震災。


 あの大災害が日本にもたらした影響は、計り知れないものがある。多くの人が価値観や世界観、人生観を大きく変化させられたことだろう。私もまた、自分の今後について見つめ直さざるをえなかった。


 ちょうどその頃、「よさりの兎」というタイトルで、アメブロ上で連載小説を書いていた。内容は、とある高校の拳法部を舞台とした青春ドラマである。


 と聞いて、ピンと来た方は、正解(非常に数は少ないと思うが)。


 「よさりの兎」は、私のデビュー作『ファイティング☆ウィッチ』のプロトタイプとも言える長編だった。


 東日本大震災にショックを受けた私は、いつ何が起こるかわからないこの世の中で、モタモタしている余裕は無い、と考えていた。とにかく書かなければいけない、という思いに駆られていた。


 そうして「よさりの兎」を書き続けている間に、さらなる衝撃が訪れた。


 自分が勤めている会社が、他社と合併する、という話が出てきたのだ。


 表面上は対等合併とのことだったが、内々で、合併後の主導権は相手側にあるということを聞いていたので、実際には吸収合併、自分の会社は吸収される側ということがわかっていた。


 今後自分達の扱いが格段に悪くなるであろうことは容易に想像できた。


 しかも、それまでは東京勤務で済んでいたのが、合併することで全国規模となり、他の支店や、海外関係会社へ転勤を命じられる可能性まで出てきてしまった。


 事前説明会の時、向こうの会社の役員に、うちの会社の誰かが質問した。


「転勤を拒んだら、どうなるんですか?」


 役員は答えた。


「人事の査定には響くでしょうね」


 愕然とした。しかもなぜ転勤をさせるのか、そこに深い理由は無いようだった。ただ「うちの会社では同じ地域にいるのは7年まで、というルールになっているので」という、それだけのことで、この人はこれが得意だからこの支店で、とか、この人はこの外国語が話せるからこの海外関係会社で、とか、そういう納得のいく理由で転勤させるのではない、ということが窺えた。


(このままだと、会社の都合(しかもフワフワした采配)で人生を振り回されることになってしまう。そんなのまっぴらごめんだ!)


 いよいよその時が来た、と思っていた。プロの作家としてデビューし、会社勤めをやめるべき時が。


 でも、自分にはまだその資格が無い。


 プロとして本を出すための資格が無い。


 だから否応なしに何かの文学賞に挑戦するしかなかった。


 時は2012年2月。その時期から書き始めて間に合いそうな文学賞の中から、私は「電撃小説大賞」を選んだ。


 これまでは伊豆文学賞に応募するだけで、「プロになる」という意思のもと動いてこなかった自分だったが、ここに至ってついに、「プロになりたい」という明確な目標を持って動き出したのである。


(続く)

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