第19話 女の子のパンツを見たら、そりゃ謝らなきゃいけません

「ごめん」


「ふぇ、ど、どうして!?」


 真摯に、土下座をした。


「俺がちゃんと結夢の下半身にも注意していれば、恥ずかしい気持ちを味合わせることは無かった。さっきだって、ずぶ濡れになった時に胸が透けている事に気付いていれば、ダメージは最小限で済んだかもしれない。上着の前を閉めるのに全力だったはずだ」


「そ、それは……」


「……俺は歳上として、ましてや結夢の先生でもある以上、そういう所には迂闊な所は作ってはいけなかった……意外とまだこういう事態には弱いって事だな。ごめん。不安でずっと結夢の顔ばかり見てた」

 

「……ずっと、私の顔だけ……見てた……?」


「だって全身ずぶ濡れだし、気絶してたらとてもパンツどころじゃないって……」


 いや。それは言い訳だ。

 まずは結夢に、全力で謝罪しなければ。


「もっと配慮するべきだった。とんでもなく恥ずかしい事だよな。くそっ、本当にごめん」


 先生失格だ。

 男性失格だ。

 人間失格だ。

 穴があったら入りたい。

 ビンタするならしてくれ。そんな子じゃなかったのにとか言わないから。

 よくあるアニメの展開なら、間違いなく一発受けてからの流血シーンだろう? こんなの。


「もう、礼人さん……本当に優しいです……どうして、どうしてこんなに優しいんですか……?」


 触れた掌は、暴力の為のモノではなかった。

 傷を癒す様な、魔法のような何かを感じ取れた。

 見上げると、涙目になりながらも聖母のような結夢の微笑みがあった。

 

「俺が、優しい?」

「分かってます……礼人さんにた、他意はなかった事……礼人さんが私の為に、こんなに頑張ってくれてる事……」


 俺の手を取ってきた。

 今度は結夢の方から、俺の手を取ってきた。

 土下座した時に、土塗れになったにも関わらず、多分そこで結夢は迷わなかった。

 ただ、恥ずかしさだけと戦っていた顔が映っていた。

 そして掌は、相変わらず温かった。


「……礼人さんはいつだって……誰かのために、本気で行動できる人で……私は、今日も、そして子供の時も、す、凄い助けられてきました」

「そんな事は……」

「だから、その行動の結果なんだから……必死に私を助けようとしてくれたんだから……パンツの一つや二つ……、な、なんぼの、もんじゃい、ってものです……!」


 やっぱり水色の下着を見られたのは恥ずかしかったらしい。

 なんぼのもんじゃいとか、照れ隠しでしか使わないだろ。

 

「助けてくれた人に、恩を仇で返す様な人に、私はなりたくないです……」

「……俺からすりゃ、結夢の方がよっぽど他人の為に行動できる人だよ」

「そうですか?」


 こういうの、本人は気づかないもんなんかね。

 必ず、誰かの役に立つ事ばかりを考える。

 塾で疲れてる時に、肩を揉んでお菓子をプレゼントして、手紙で励ましてくる。

 家に来れば必ず何かしら作ってる。

 今日だって弁当持ってきて、本当ならこの秘密基地で一緒に食べるつもりだ。

 

 これは、昨日今日始まった話じゃない。

 彼女は多分、生まれた時から天使だった。

 

「菜々緒の為にも、更には他の同級生や親の為にも、いつも全力で何かやってんじゃん。菜々緒も同じことを持ってる。菜々緒が結夢の話をするときは、基本ポジティブな話ばかりだ」

「……いつも、私の事、見ててくれてたんですか?」


 信じられない、嬉しい、が同居した表情だった。


「にへ、にへ、にへへへへへ……嬉しいです。本当に、良かったです」

「……でも、辛かったら辛いって言ってくれよ。パンツ見られて恥ずかしかったも、言ってくれていいんだよ。俺は結夢に、もっと本音で言ってほしいんだ」

「本音ですよ」


 とろけてるような顔で、そう返してくる。

 

「本音です……そりゃちょっと恥ずかしかったのは、あります……お見苦しいものを見せちゃった、という後悔もあります……でも、その代わりに沢山嬉しくなれたのも、本当に、本当なんです……」

「それならいい……、じゃあその濡れた体が冷える前に着替えるか」

「き、着替える!?」


 俺は服を脱いだ。

 白いシャツを脱ぐと同時に、ハンカチを渡す。

 だが結夢の両手は目を隠す事に必死で、ハンカチを受け取ってくれない。


「れ、礼人さん! そ、そんな、急に!」

「ん? 別にいいだろう?」


 黒いタンクトップ姿の俺を直視できないらしい。

 まあ、下着には代わりにないかもしれないけれど、芸人とか下手すりゃ全裸でメディアに映ってるんだから、もう少し耐性つけてもらわないと……。

 

「ほい」


 俺はシャツとハンカチを結夢に投げ渡す。

 ぴんと来なかったのか、結夢が首をかしげていた。


「これは……?」

「上は一旦脱いで、ハンカチで拭いたらそれを着ろ。勿論服着ている間は、他の人が来ないか監視しておくから」

「ふえっ!?」


 外で誰にも見られていないとはいえ、一度は下着姿になるのが恥ずかしいのか?

 だけど、こうでもしないと結夢はいつまでも濡れたままだ。

 

「礼人さん、何を着るんですか? そのままだと、風邪引いちゃいます!」


 そっちですか。

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