第14話 嫉妬
間違いだった。でも、もう後には引けない。
佐藤エリが、佐藤ミタカと結婚して思った事だ。
旧姓、葉山エリ。一般家庭に産まれ、父親は大企業の部長、母親は専業主婦、2つ上の姉がいる姉妹の次女の末っ子として何不自由なく育った。
学生時代から、友人にも彼氏も途切れる事なく恵まれ一般的な女性としては幸せな毎日だった。佐藤ミタカと会うまでは。
大学3年の就職活動がなかなか上手くいかず、大学のゼミの数人の女友達と愚痴を大学の講堂で話していた時だった。
「佐藤ミタカって言う新入生、知ってる?もう働いてほとんど自立してるんだって」
その言葉に、もともと飽きっぽいミーハーなエリは惹かれる。
同じ大学に就職先が決まった彼氏はいたが、姉に呆れられる程、エリは彼氏をとっかえひっかえだった。
「何っ、誰それ?」
すぐに話に食い付いてきたエリに、友人達も呆れ顔だったが、エリの性格をよく知ってる。
「うちの大学では有名だよ、大学とバイトの往復だけで、首席で卒業するんじゃないかって噂がある程の優秀な新入生」
その話を聞いた1週間後、佐藤ミタカに近付いた。
エリから見た佐藤ミタカの第一印象は、寡黙で、優秀そうだが地味な顔をしているが目の鋭い長身の男だった。
エリのタイプではない。でも先の見えない就職活動の苛立ちと今の彼氏への飽きもあり、好奇心がエリの中では、勝っていた。
「佐藤ミタカ君?」
ミタカが専攻していた講義の終わりを教室前で待ち、エリは声をかけた。
一番軽めの甘い香水をつけ、化粧はナチュラルメイクにおさえ、服はエリの苦手なシックなワンピースにした。
最初は、相手の好みに合わせるのがエリだったが、それでもミタカにぎょっとした顔で見られた。
イラッとはきたが、佐藤ミタカと付き合いたいエリは笑顔で気持ちを隠した。
「私、この大学の違う科の3年の葉山エリ。友達からミタカ君の話を聞いて、楽しそうだなって思ったの。まだ、大学の事はよく知らないでしょ?いろんな場所、教えようかなって」
エリは、出来るだけ警戒心をとくように話したつもりだ。
「すいません。これからバイトなんで。それに・・・」
口ごもったミタカにイライラしつつ、エリは上目遣いでミタカをじっと見た。
「好きな人が、いるんです。葉山さん、男性関係の噂で新入生では有名です」
ミタカのその言葉に、エリは逆に火がついた。落としたい。好きなタイプではないが何がなんでも、と。
今まで、エリの誘いや告白を断った男は1人もいなかった。
エリは、そのミタカの好きな女への嫉妬と今まで何も不自由してこなかった人生で、初めて傷つけられたプライドを何がなんでも取り返したかった。
佐藤ミタカの生活から性格、趣味やバイトまで知りつくし、つまらないと思う話でもエリは知り、話を聞いた。
その数ヶ月後、ミタカから「エリさんは、最初の噂ともイメージとも違う人だった」と言われ付き合う事になった。
エリの承認欲求は満たされてしまったが、ミタカの真面目さと今の彼氏より優秀でスペックが高い事で、あっさり彼氏とは別れ、ミタカと付き合った。
就職先が決まらないエリに、一緒に暮らして将来結婚したいと付き合い始めからミタカから言われたのには驚いたエリだったが、友人達からも羨ましがられ、元カレからは嫉妬される自分にエリは酔いしれ、承諾した。
その後、エリも就職は決まり、20歳になったミタカと結婚しミタカが卒業するまで働き、ミタカの大学卒業と就職と同時に、エリは寿退社する。
順風満帆とエリは満足していたが、なかなか実家の話をしたがらないミタカから実家の話を聞いて、愕然とした。
両親は、再婚で血の繋がらない妹がいる。エリに最初に好きだと言ったのは、その妹のさやかだということ。
実母は離婚から不安定になり入院しているが、退院の見通しがあり、いずれエリにも紹介したいとミタカに告げられる。
「さやかの事は、エリと結婚して妹としてやっと見れるようになったよ」
新居も決まり、実家と実母の話を聞いてからエリはミタカに対して気持ちは冷めていたが、優秀で、よく働き真面目なミタカを両親も姉も気に入ってくれ、早い結婚には驚かれたが、まだ結婚していない姉より先に孫の顔が見れると喜ぶ両親をエリは、がっかりさせたくなかった。
しかし、一つだけエリの嫉妬を再燃させた。
ミタカの血の繋がらない妹、さやかだ。
ミタカは、妹として見られるようになった。と言っていたが、義理の実母の家に帰る度に、さやかを見るミタカの瞳がキラキラと輝くのをエリは、知っている。
エリがますます気にくわないのは、そんなさやかが自分より先に華を産んだ事だった。
今まで、望んでは両親から姉から友人から彼氏達から全てもらったエリが、唯一手に入れられないものを、さやかは2つも手にしている。
それは、ミタカの心とエリが望む子供だ。
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