5-22 サリア
5-22 サリア
「あはあ」
ハートマークが付きそうな声でサリアが剣を振っている。
室内で。
マチルダさんは頭を抱えているし俺は苦笑を禁じ得ない。
「なんでまたあんな無骨な武器を…」
俺がサリアに渡した武器を見てマチルダさんがさらにため息をつく。
「イヤイヤあれでなかなか洗練されているんですよ? 肉厚で重みのある刀身は斧のようなインパクト力を持っていますし、刃に付けられた細かい波は切りにくい柔らかいものも簡単に切りますし、堅いものもあれをとっかかりとして簡単に切れるようになります」
つまり鋸は理論上なんでも切れるというヤツだ。
「刃はヒヒイロカネ製で滅多なことでは欠けませんし自己修復機能もあります。本体はアダマンタイトで極めて強靭。しかも重さもあります。
魔力を通すとヒヒイロカネで作った魔法陣が起動して炎と氷の魔剣になります。
あと冥神メイヤ様の聖印を刻んでありますのでアンデットにもとても有効。
霊体の魔物でも一発です。
非常に洗練された一品です」
「そうです、先生、これは良い物です」
うん、そうだよな。
「あんた達それってもう国宝級じゃない。ってそうじゃなくて…そういうことじゃなくてね、女の子なんだから、姫なんだから、もっと優雅な武器は無かったの? 例えばレイピアとか」
言わんとすることは分かる。
だが反論もある。
「サリアの戦い方でレイピアなんか持たせてもすぐに蛇みたいに曲がっちゃいますよ…忘れちゃいけません。サリアはウチのじじいの高弟です」
「あのクソじじいは救いようがないわね」
同病相哀れむというヤツですか?
「なにか言った?」
「いえ、とくには」
「まあ、サリアが使うにはこれがベストでしょう。殴りつつ切る。これがウチの戦闘スタイルですから」
マチルダさんは諦めたようにまたため息をついた。
俺はちらりとサリアを見る。
実に嬉しそうにひゅんひゅん双剣を振り、舞うように蹴り技や突きを繰り出す。
ウチの流派の戦い方だ。
そうやって感触を確かめ、拳を握って『よしっ』とガッツポーズを決めている。
女の子としてどうかな? と確かに思うが世の中いろいろな人がいる。
中には大だんびらに頬ずりしながら艶めかしいため息をつくようなヤツもいるのだ。
それに比べりゃサリアはまだしもまともと言える。
「はあ、もう良いわ。それよりもそろそろ新入生の迷宮実習が始まるのよ。聞いてる?」
「ええ、ルトナに聞きました。サリアのサポートに付く約束をしていると」
「そうなのよ、悪いけどディアちゃんも参加してくれる?」
「分かりました。ブレーキですね」
「そういうこと。誰かが押さえないとね…あのジジイの系譜が二人並んだらダメでしょ」
ごもっとも。しかもルトナとサリアはものすごく気が合うんだよね。相性が良いというか。
並べると一緒に突っ走る感じ?
もう一人フフルがいるけど…あれは追い風みたいなヤツだから。
「了解しました。サリアの迷宮行の祭は私も同行します」
まあ、俺も迷宮は調べに行かないといけないしね。
俺の返事に満足そうに頷くマチルダさん。そして。
「ではサリアさん。せっかくだからディア・ナガン卿に学園を案内して差し上げて」
「はい、承知しました。行きましょう。兄さま」
「ああ、じゃあお願いしようかな」
俺達はひらひらと手を振るマチルダさんに見送られて部屋を出た。
◆・◆・◆
この学園はだいたい三階級に分けられている。
「初年度生。下級生。上級生の三つですね。私は初年度生で初年度生はだいたい十三才ぐらいから入ってきます。
生き残るための基礎を学ぶ所で、魔法と、武術を教わります。
期間は一年間で、半年ぐらいから迷宮での実戦訓練が始まるんです。私は魔法でも武術でも超優等生ですよ」
「うん、まあ予想は付くよ」
なんと言っても武術に関しては俺達の妹弟子だ。じじいにみっちり仕込まれている。だがそれだけではない。しごかれてへたったところを俺が
そこに持ってきてじじいが『こいつは覚えるのが早い。よい弟子だ!』と調子こいてしごいたからサリアの格闘能力はかなり高い。
王国の騎士でもサリアに勝てるヤツはそうはないはずだ。
そして魔法に関してもおれが出来るだけ正確に原理を教えたのでかなり使えるようになってしまった。
例えば
重さを軽くするというイメージで魔法を使ってもせいぜいが浮く程度。だがサリアは小さいころから俺が調子こいて重力や空間の歪みについていろいろ教えてしまった。物理とか化学とか教えてしまったのだ。また頭が柔軟だった所為かサリアもそれを良く飲み込んでくれたので、今のサリアは自由に空を飛べるぐらいに魔法に通じている。
俺ほどではないが科学知識を持った魔法使いなのだ。
魔法と武術を合わせ戦えばそうそう負けるようなことはないぐらいには実力者である。
だがサリアはそれにあぐらをかくことなく謙虚な子に育った。
幸いなことに周りにいたのがウチの母親とかじじいとかの化け物クラスであったことが奏功したのだ。
ルトナも格闘戦では完全にサリアを圧倒しているし、俺も複合的な戦闘ではサリアを圧倒できる。なので増長するようなこともなく大変よい子に育った。
「兄様こっちです。こっちが修練場です」
そう言ってサリアがぴょんと跳ねる。
オッパイがぷるんと揺れた。
ルトナが変なことを言うからちょっと意識してしまったよ。
まあ確かにサリアは美少女だ。
小柄だがスタイルがよく胸が大きい。
顔立ちも可愛いのでロリ巨乳というカテゴリーだろうか?
だからと言って幼児体型という事ではなく鍛えているのでウエストは細くお尻のラインは女性らしいラインを持っている。ちょっと小尻なところが良い感じだ。
能力が高く、美人。兄貴としてはなかなかに誇らしい。自慢の妹というヤツだな。
ひょっとしたら兄ばかかも知れない。
サリアの案内で校庭などを見て回る。
ここは町の外れにあるのでかなり広い空間が訓練や修練のために割り当てられている。そこではサリアと同年代から二十歳ぐらいまでの若者が武術に魔法にと打ち込んでいる。
その練習風景を見てサリアがぽつりと言った。
「武術の練習は先ず型から入るんですよ? へんですよね?」
「うん、サリア。変なのはウチだから。普通はいきなり実戦でぶっ飛ばされたりしないから」
「そうですか? でもウチのやり方の方がすぐ強くなれるような気がするんですけど」
まあそれはただしい。
日本でも剣術は昔、型を繰り返すことで憶えたらしい。
真剣は論外だし、木刀でも本気で打ち合うことなどできはしないのだ。
型を繰り返すことに奥義がある…と言う話も聞くが剣術のレベルは竹刀が発明されたあとの方が格段にあがったという話もある。
型は型として実戦は必要なのだろう。
ウチは俺が強力な回復魔法を使えたからあのクソじじい木剣で本気でぶちのめしたからな…俺達はもちろんサリアも何回骨折をしたことか…
そもそも俺が意識が無くても魔法が使えるという仕様が問題なんだよなあ…あれでじじいが調子に乗っちゃったんだよ。
おかげでみんな強くなっちゃって…
「さりあさまー」
ちょっと悲哀をかみしめていると遠くから駆けてくる女の子が三人。
全員サリアと同じぐらいの子だな。
「兄様、私のパーティーメンバーです。ご紹介いたしますわ」
うむ、久しぶりに普通の女の子の登場か。
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