第113話 魔導船、発進!
塔の内部はすぐに行き止まりになっていた。しかし床全体がほのかに光っているため、部屋の中を見渡すことができた。壁にはまたしてもタッチパネルがあった。これはアレだな、エレベーターだな。それに気がつくとすぐにリリアに耳打ちした。
と言っても、身長差がある。リリアの裾をチョイチョイと引っ張り、かがんでもらった。
「リリア、エレベーターだ。あのタッチパネルを操作することで一気に下まで降りられるはずだ」
「エレベーター? 何それ」
おっと、この世界では知られていなかったか。リリアが困惑した表情でこちらを見ている。アベルとマリアは塔の中を慎重に探索していた。
「部屋か床がそのまま上下に移動するんだよ。少しの浮遊感があるはずだ」
「どんな仕組みなのよ。それで、どうすればいいの?」
分かったような、分からなかったような複雑な表情を浮かべていたが、覚悟を決めたのか最後は真剣な面持ちになった。
「何のことはない。二人を近くに寄せておいてくれ。何があるか分からないからな」
一つうなずきを返すと、リリアはすぐにアベルとマリアを呼び寄せた。それを確認すると、タッチパネルに手を当てた。
「それじゃ下に移動するぞ。準備はいいな?」
「いいわよ」
「いいって、リリア、俺たちは何のことだかサッパリ分からないよ!?」
珍しく慌て出したが、多分説明しても分からないだろう。体験してもらった方が早い。それに、二度目はないだろうからな。
タッチパネルに魔力を流すと、入り口の扉が閉まり、フワリとした感触を得た。
「ちょ、落ちてる!?」
マリアはそう言うとリリアにしがみついた。反対側ではアベルがリリアにしがみついている。何が起こるのか分かっていたリリアだが顔色はあまり良くない。安心させるべくリリアのそばに近づくと、すぐにしがみついてきた。
待つことしばし。チーン、という聞き慣れた音が鳴ったかと思うと、先ほど閉まった扉が開いた。その先には真っ暗な通路が続いている。照明のスイッチは……これだな。通路のスイッチを押すと、周囲に明かりがともった。
「うわあ、何これ!」
「これが魔導船。もっと大きいかと思っていたよ」
明かりによって照らされた通路の先には、目指す魔導船が鎮座していた。大きさは小型船舶ほどであり、四人なら十分に余裕を持って乗れそうである。
「これが本当に空を飛ぶの?」
「ああ、そうだ。飛ぶぞ」
リリアは半信半疑のようであったが、『ワールドマニュアル(門外不出)』はウソをつかない。これに飛ぶと書いてあったら飛ぶのだ。俺は慎重に機体の確認を行い、問題がないことを確認していく。
その間に残りの三人は船内を探索しているようだった。遠くからマリアの「すごいすごい」が聞こえている。
語彙力! マリアにはもう少しお勉強をさせておく必要があるのかも知れない。このままでは母親になったときに残念なママンになってしまう。マリアの父親として、それだけはいただけないな。
そんなことを思いながらも設備の確認ができた。問題なし。いつでも飛び立てるようになっていた。
古代エルフの文明は一体どうなっているんだ? どのくらいの年月がたっているか分からないのに、そのまま使うことができるとか、オーパーツってレベルじゃねぇぞ、これ。
エネルギーはどうやらこの魔晶石と呼ばれるものらしい。コイツはどうやら外から魔力をチャージすることができる代物であるようだ。魔石を取り替える必要がなくて便利だな。それに随分と馬力もあるらしい。
俺がその魔晶石にチャージを完了するころ、リリアがやってきた。
「ダナイ、部屋はマジックバッグに似た構造になっているみたいよ。見た目以上に中が広いわ。キッチンにトイレ、お風呂もあるみたい」
「おお、至れり尽くせりだな。新しく作る手間が省けて良かったぜ。こっちは準備OKだ。いつでも飛び立てるぜ」
ニヤリと笑ったが、リリアの顔は引きつっていた。どうやら空を飛ぶことに抵抗感があるらしい。それもそうか。空を飛ぶなんてことはしたことがないだろうしな。最初は怖いのも当然か。
「大丈夫だよ。怖いのは最初だけさ。すぐに慣れる」
そう言ってリリアを抱きしめた。リリアは抵抗することもなく抱きしめ返してくれた。ひとまずはお茶の時間にしよう。心の準備は必要だろうからな。俺はリリアに連れられてリビングルームへと向かった。
「ここに住めば家はいらないよね?」
早速気に入ったマリアはここに住むつもりのようである。しかし、魔導船は目立つ。それは無理だろう。
「ダメだよ、マリア。魔導船を他の人に見られたら、多分取り上げられるよ」
「う、それもそうか」
だが諦めきれないのか、物欲しそうな目で船内を見ていた。さすがに今の家を手放すつもりはないが、秘密基地をこの部屋のように模様替えするくらいはできるだろう。この部屋にある意味不明な魔道具も、解析すれば再現することができるかも知れない。
「休憩が終わったら、まずは特殊迷彩の確認だな。どれくらい見えにくくなるのか確認しておいた方が良いだろうからな」
「特殊迷彩? それで見えなくなるの?」
「ああ、そうだ。だがどのくらいの性能なのかはやってみないと分からないな」
その後もああだこうだと使い方を説明して休憩時間は終わった。俺は甲板にある操縦室に向かい、残りの三人には一端外に出てもらって確認をしてもらう。リンクコンテナを作っておいて良かったぜ。
「あーあー、それでは特殊迷彩を起動します」
「あーあー、いつでもOKです」
マリアが俺のまねをして返事した。苦笑いしつつも装置を起動する。その瞬間、驚きの声が聞こえてきた。
「何これ! 向こうが透けて見えてるの?」
「うーん、どうやら鏡のように周囲の風景を映しているみたいね」
「うん、これならすぐには分からないんじゃないかな?」
どうやら大丈夫のようである。問題なく飛び立っても良さそうだ。特殊迷彩をオフにして、船外へと出た。
「大丈夫そうだな。それじゃ、持って帰るとするか。リリア、マジックバッグに収納してくれ」
「分かったわ」
シュルリとマジックバッグの中に魔導船が入って行った。相変わらずのすごい収納能力だ。どれだけ入るのか想像もつかないが、マジックバッグもかなりヤバい代物なのは確かだな。
「早く外に出ようよ!」
上機嫌でマリアがせかしてきた。何だ、もしかして、自分のものにするつもりか? 動かせないからさすがにそれは無理だろう。あきれていたのは俺だけではなかったようで、リリアもアベルもあきれた表情をしていた。気がついていないのはマリアだけのようである。
塔の外に出た俺たちは少し開けた場所まで移動した。都合が良いことに遺構がある丘の隣にちょうど良い広さの空き地があったのだ。おそらくはここで乗り降りしていたのだろう。不自然なほど平らな地面が続いていた。
リリアに頼んで魔導船を出してもらう。どんな機構なのかは分からないが、魔導船は地面から数センチ浮かんでいた。船体のタッチパネルを操作すると、入り口の扉が開いた。三人は先ほどのリビングルームに、俺は甲板の操縦席へと向かった。
リビングルームと操縦席は離れているため、ちょっと寂しい。しかし館内放送が使えるようで、お互いに会話する分には何の問題もなかった。
「それじゃ、出発するぞ」
「わ、分かったわ」
代表してリリアが答えたが、その声は震えていた。アベルとマリアはリリアにひっついているのかも知れん。うらやましい。俺は特殊迷彩を起動すると、操縦桿を倒した。魔導船はそのまま垂直に上昇する。コイツはすごいな。一体どんな機構をしているのか見当もつかない。
ある程度の高さを保つと、足下のペダルを踏んだ。ゆっくりと魔導船がスピードを上げて前進していく。
まさかこんな日が来るとはな。そのまま魔導船は空を滑るように飛行した。
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