第104話 決着

 俺の堂々とした態度でのホラ吹きに、鋭さに定評のあるリリアちゃんは気がついたようである。


「まったく、私たちが勇者が率いるパーティーであることを言っても良かったの? 内緒にしておくつもりじゃなかったの?」


 俺は両手をあげた。もちろん、オーバーリアクションで。


「仕方ないだろう? 偽者の四天王が現れたんだ。偽者とはいえ、野放しにはできないだろう?」

「それもそうね」


 チラリと魔族を見る。自分が言ったウソがバレたことに震えているようである。

 フッフッフ、『ワールドマニュアル(門外不出)』の前では、すべてがお見通しよ!


「ダナイちゃん、あれは偽者の四天王なのね?」

「そうです。根も葉もないウソですね。ただ、アイツが魔族であることは本当のようですね」


 それを聞いて少し安心した様子を見せた。さっきの勇者宣言も効いているようである。ここまではヨシ。このままアイツを放っておくわけにはいかないだろう。どうせまた、良からぬことをたくらんでいるはずだ。


 ここで処分するしかないな。おそらくアベルの剣なら倒せるだろう。無理そうなら俺の忍術で極楽浄土に送るしかないな。いや、この場合は念仏か。


「おい、お前たち、魔法封じの魔道具を解除するんだ。そうすれば、我々も戦うことができる!」


 ベンジャミンがエンシェント・エルフに向かって叫んだ。エンシェント・エルフたちはハッと我に返ったようだが、その返事は鈍いものだった。


「それが、私たちもどうやって魔法封じがなされているかを知らないのだよ」

「何せ長老が仕込んだものだからな。最初からこうするつもりだったのかも知れん」


 どうやら自分たちの悲願が達成されないと分かったこと、自分たちが利用されていたことを知って、しょげてしまっているようである。何の役にも立たないエンシェント・エルフである。


「まったく、こんなことなら破魔矢を持ってくるんだったわ」


 エリザがプンスカと怒りだした。破魔矢なんてものがあるのか。それがあれば、魔族にも攻撃することができるのかな? だが、ないものは仕方がないか。


「リリア、アイツを逃がすわけにはいかない。やるぞ」

「魔族に魔法がどこまで通用するか分からないけど、やってみるわ」


 そう言うとリリアは得意の氷の魔法を放った。

 レベルアップしたのか、これまでの経験で実力をつけたのか、鋭く輝いたいくつもの氷の柱が魔族に襲いかかった。


 魔族はとっさに防御壁のようなものを目の前に作り出したが、その壁を貫いて魔族に突き刺さった。いくつか穴があいているようではあったが、見た感じはダメージはなさそうである。


「さ、さすがは勇者一行。まさか俺の防御シールドを突き破ってくるとはな。あっぱれだ。だが、魔法では四天王の俺にダメージを与えることはできないぞ!」


 どうやらヤツの四天王ムーブは続いているようである。楽しいのかな、あれ。


「ダナイ忍法、木遁、がんじがらめの術!」


 魔族の足下からツルが伸び、魔族を拘束した。さっきのリリアの魔法が魔族に穴をあけていたので、物理的な影響は与えられると判断した。


 どうやらその判断は間違っていなかったらしく、魔族の動きを封じることができた。


「何……だと……まさか植物を操れるとは! クソ、拘束を破ることができない!」

「ま、まさか、木属性の魔法?」

「そんな、まさか……」


 どうやらツルを引きちぎることができないようである。よく分からないけど、ヨシ。

 そして何だが俺の魔法を見て周りが騒がしくなっているが、今はそんなの関係ねぇ。目の前の敵に集中だ。

 

 魔族が動けなくなったことを確認したマリアは、魔法銃を発射した。無色の弾丸が発射されたところを見ると、無属性の弾丸を撃ったのだろう。


「グワァァアア!」


 マリアの弾丸を受けた魔族は、先ほどのリリアの魔法とは違い、苦もんの声をあげた。顔はのっぺらぼうなんで分からないが。


「すごいわ、破魔矢でもないのにダメージが入ったわ。一体どう言うことなのかしら」


 エリザがビックリしてる。得意気に追撃を始めたマリアの弾丸を、魔族は身をよじらせて何とか避けようとしていた。


「ギャアァァア!」


 まぁ、そうなるよな。マリアの狙いは正確だもんな。全弾回避は無理だろう。だが、まだまだ余裕がありそうだな。ここはドカンと一発お見舞いしておくか。


「リリア、無属性の魔法で攻撃するんだ。それならばアイツに攻撃が通るかも知れん!」

「無属性の魔法? そんな魔法ないわよ。そんな非常識な魔法が使えるのは、あなたくらいよ!」


 非常識な魔法とはこれいかに。リリアに面と向かって非常識と言われると、グサッとくるな。だが今は、そんな感傷に浸っている場合じゃない。少しでもあの魔族の注意をこちらに引きつけておく必要があるからな。


「そうか。ならば刮目せよ! ダナイ忍法、無遁、波動弾の術!」


 両手の手のひらを前に突き出したポーズから、バスケットボール大の魔力の弾丸が放たれる。魔族は何とか回避しようと動いたが、これ、誘導弾なんだよね。当たるまでトワに追いかけるんだよね。


 かわしきれずに魔族に当たると、まばゆい光が放たれた。


「ギェピィィイィイ!」


 これまでにないほどの魔族の断末魔の様な声がこだました。当たった箇所は大きく削られている。 しかし、まだまだ原形をとどめている。思ったよりも余裕があるのかも知れない。


「ま、まさか、これほどまでの力を持っているとは。どうだお前たち、俺の取り引きをしないか? 俺の傘下につけば……」


 そこまで言ったときに、ようやく魔族は気がついたらしい。アベルがすぐそこまで接近していることに。

 これまでの俺たちの攻撃は、アベルが接近するまでの時間稼ぎである。ノリでやっていたわけではない。断じて。


 そんな中、アベルは極めて真面目な表情で魔族にミスリルの剣を切りつけた。だが、魔族の方は余裕そうな表情である。


「ファファファ……! 我に物理攻撃などきかギェピィィイィイ!」


 再び断末魔をあげる魔族。バッサリと左半身が切り取られていた。本体から切り離された左腕は、黒い霞となって消失した。


「な……なぜ……? ま、まさか、聖剣か!」


 んなぁこたぁない。俺が作った、ただのミスリルの剣である。ただし、魔を切り裂くことができる「退魔の付与」はついてるけどなぁ。

 自分が施した付与がうまく機能してくれたようで、思わず口角があがる。これはこれで気持ちが良いが、聖剣ではない。決して。


「そのまさかさ! 伝説の鍛冶屋ダナイが作った聖剣さ!」


 アベルがノリノリで叫んだ。めっちゃうれしそうな顔をしている。

 それもそうか。アベルの兄貴が持っていた剣を食い入るように見ていたもんな。本当は欲しかったんだろうな、あの偽物の聖剣。

 ちなみにアベルが手に持っている剣も、偽物の聖剣だぞー。


「分かった、俺の負けだ。今回は見逃してやグワァー!」


 問答無用とばかりにアベルが再び魔族を切り払った。その剣は魔族の頭と体を切り離した。

 そしてどうやらそれが致命傷になったようである。断末魔をあげた魔族は黒い霞となって虚空へと四散していった。後にはまばゆいばかりに輝く、一際大きな魔石が落ちていた。


 グレートだぜ、アベル。そしてやっぱり魔族も魔石を持っているようである。魔がつくヤツらはみんな魔石を持っているのかな? まぁ、使う分には便利なのでありがたいけどね。


 魔族を切り裂いた剣に異常がないことを確認したアベルは、とても大事そうに剣を鞘に収めた。

 いや、アベルさん? それ、本物じゃないからね? 本物はこれから作るつもりだから、そこのところよろしくね?


「す、すっごいよ、アベル!」


 我慢のなさに定評があるマリアが、一目散にアベルに飛びかかった。それを難なく受け止めるアベル。随分と筋力がついているようである。

 俺もリリアにあれをやられたら……ドワーフのパワー的に余裕で受け止められるが、身長差の問題でうまく抱きとめるのは難しいだろう。ちょっと残念。来るべき日に備えて、アベルにコツを聞いておこう。


「やったわね、ダナイ」

「ああ、そうだな」


 と言うか、あまりヤッタ感はないんだけどな。正直なところ、魔族が強かったかどうかも分からん。

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