第50話 国王陛下からの招待状
翌日、いつもより遅い朝食を四人で食べた。お互いに足腰が立たなくなるまではラウンドを重ねていないようで、予定通りに行動を開始した。
アベルとマリアは冒険者ギルドに、ダナイとリリアは鍛冶屋ゴードンで報告をした後に、ソファーを買いに行く。
ライザーク辺境伯からは流行病から領都を救ってくれたお礼として、それなりのお金をもらっていた。そのため懐は暖かく、良いソファーを買おうとリリアは意気込んでいた。
鍛冶屋ゴードンはいつものように店を開いていた。それほど時間が空いたわけでもないのに、どうも懐かしく感じてしまった。
「ダナイです。ただいま帰りました」
「おお、ダナイか。お帰り。無事に帰ってきたみたいだね。安心したよ」
「師匠、これでもウチのパーティーはCランク冒険者揃い何ですよ? そうそう後れは取りませんよ」
そうだったな、と笑いながらゴードンと妻のイザベラが迎えてくれた。
ダナイが買ってきたお菓子のお土産を渡すと、すぐにイザベラがお茶の準備をしてくれた。
「これは領都で有名なやつじゃないか。わざわざありがとうよ。それで、話を聞かせてもらえるかな?」
「もちろんですよ」
ダナイとリリアは代わる代わる領都であった出来事を話した。それをゴードン夫妻は「そうかそうか」とにこやかに聞いていた。話し過ぎて喉がカラカラになったダナイはお茶で喉を潤した。
「師匠のお陰で辺境伯様に名前を売ることができました。ありがとうございます」
「何の何の。私の目に狂いはなかったと言うことだよ。さすがに最初に「鍛冶仕事は初めてだ」と言われたときは面食らったがね」
「いや、お恥ずかしい」
ハハハとその場にいたみんなで笑った。とても楽しく、温かい時間が流れた。
「そう言えば師匠、馬車を設計してみようかと思っているんですよ。どなたか詳しい人を知りませんか?」
「馬車を? 何でまた?」
ダナイはリリアの尻の件は伏せて、ことのあらましを話した。
「うーん、揺れの少ない馬車を作るねぇ。何か考えがあるのかね?」
「ええ、もちろん。バネを仕込もうかと思っているんですよ」
「バネ?」
このときダナイは、この世界にはまだバネというものがそれほど一般的でないことを知った。後で『ワールドマニュアル(門外不出)』で調べてみると、過去には使われていた技術だったが、過去の大戦で失われてしまった技術らしかった。
ダナイの話を聞いたゴードンはすぐに乗り気になった。リリアとイザベラはそんな仕組みがあるのかと驚いていた。
「これは面白い。よしよし、私も一枚噛ませてもらうよ」
「ありがてえ! 師匠がついてくれるなんて、こんな心強いことはないですよ」
こうしてダナイとゴードンの揺れの少ない馬車作りが始まった。
その画期的な馬車が開発されるのはしばらく先のことになる。
無事にソファーを注文し家に戻ると、さっそくライザーク辺境伯に頼まれている小型化した浄化の魔道具作りに手をかけた。その後帰ってきたアベルの話では特に変わったことはなかったよ、とのことだった。
それから数日間は特に変わったことはなく、いつものように鍛冶屋ゴードンに仕事に行き、休みの日は四人で狩りに行く生活が続いていた。そんなある日、冒険者ギルドに顔を出すとギルドマスターのアランに止められた。その顔は何だか渋い顔をしていた。
「ダナイ、またライザーク辺境伯様からの手紙が届いている。後で確認しておいてくれ。それから……お前達、ちゃんとした服は持っているか?」
四人の頭の上に大きなはてなマークが浮かんだ。ちゃんとした服? ダナイにはそんな服が必要になる人物に心当たりがあった。それと同時に何だが嫌な予感がした。
アランが「後で」と言ったのはきっと何か意味があるのだろう。その場ですぐに封を切りたい感情を抑えて、一路、家へと戻った。とてもそんな意味ありげな手紙を持ったまま依頼を受ける気にはならなかったのだ。
家に戻り、リビングの椅子に座ると、ぞんざいに封を開いた。その様子を三人が恐る恐る見ている。ザッと斜めに読み終わると、サッと顔色を変えた。
「招待状だ。それも国王陛下からの……」
その場で「えええ!?」という声が上がったのは言うまでもない。自分もそう叫びたかったが、嫌な予感が的中しただけなので、そこまでには至らなかった。
驚き戸惑っている三人にダナイが声をかけた。
「さて、みんなの服を買いに行かないといけないな」
現実に引き戻された三人は揃って青い顔をしたまま頷いた。
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