第33話 トーナメント準決勝
控室のモニターでは女子フライ級Aクラストーナメント初戦の麗衣の試合が映し出されていた。
麗衣は
「流石麗衣だね。フライ級に上げても全然問題なさそうだね」
「寧ろ攻撃のキレが増しているように見えるよね」
「悪いな勝子。出来れば近くで応援したかっただろ?」
「それはそうだけど、麗衣ちゃんは私の応援なんかなくても優勝するから心配していないよ。寧ろ手間のかかる弟子の方が心配だしね」
「頼りない弟子ですいませんね師匠」
間髪入れず勝子に小突かれた。
「だから師匠は止めてって言っているでしょ? それよりか予想通り、堀田選手が上がって来たね。対策をおさらいするわよ」
伝統派空手のスピードに真正面からやり合っても勝ち目はない。
俺も伝統派空手の刻み突きに似た練習をしたとは言え、その道のプロとスピードで勝負したら相手にならないだろう。
勝敗のカギはセコンドを巻き込んで如何に相手を騙すかだった。
◇
「只今よりバンタム級Cクラストーナメント準決勝を行います。青コーナーActive-Network八皇子ジム所属、小碓武!」
「「「「武先輩頑張って!」」」」
中学生チームは相変わらず声援を送ってくれる。
本当に俺みたいな奴には勿体ない限りだ。
「赤コーナー拳真キックボクシングジム所属、堀田共示!」
「「「「堀田! 優勝だあっ!」」」」
優勝候補と目される堀田選手の声援は俺に対する応援よりも遥かに多かった。
だが、この選手を倒せば二連続KO中の俺がまぐれではなく本物だと認められるだろうから美味しい相手だ。
「ラウンドワン……ファイト!」
試合開始とともに互いに距離を詰める。
互いの手が届きそうな距離から、俺が更に間を詰めようとすると、スッと引いて間を切って来た。
やはり勝子から聞いていた事前の情報通り、堀田選手は下がるタイプだ。
立ち技格闘技において選手のタイプは概ね三種類に分けられる。
一つは間合いを詰めて来て自分から積極的に攻めてくるタイプ。
もう一つは自分から攻めたり引いたりせず、待つタイプ。
こちらの攻撃を待ってカウンターを取るのが得意なタイプだ。
最後の一つは相手が攻めようとすると下がるタイプだ。
このタイプは下がりながら相手を引き込み、出てきた瞬間に合わせて技を出すタイプで、よく伝統派空手の選手に見られるタイプだ。
この下がるタイプに対しては間を空けられてしまうと相手にペースを握られやすい。
間を詰めずに攻撃をするとカウンターを喰らってしまうのだ。
俺は間を空けられない様に詰めていくと、それを嫌ったのか? 堀田選手は足を軽く上げて蹴りのフェイントをかけてきた。
相手からすればこちらがフェイントで警戒して、間を切るのが狙いなのだろうが、俺は勇気をもって間を切らず、右の奥足からステップして、その後左の前足でステップして間を詰めた。
これはメキシカンのボクサーがよく使うステップで普通のステップよりも距離が伸びる。
後ろ足からステップする事でそのタイミングは相手に気付かれずに接近出来るので、相手の反応が遅れるのだ。
「シュッ! シュッ!」
間を詰めた俺は声を上げながらワンツーを放つと、反応が遅れた堀田選手にワンツーが綺麗に決まり、足がぐらついた。
俺はワンツーの打ち終わりにしっかりと体勢を戻すと、堀田選手の太腿に強くローキックを放った。
攻撃の時は声を出すように意識させて無言で足を蹴る。
声もフェイントにして堀田選手を翻弄したのだ。
「良いよっ! 正面に立たないですぐに廻ってロー狙って!」
勝子から指示が飛んだ。
堀田選手はやはり伝統派空手時代の癖が抜けていないのだろう。
ボクシングの様に爪先を内側に向けた伝統派空手の構えをしている堀田選手の太腿はローキックを当てやすい。
寸止め空手などと言われながら胴への強い蹴りは許可されている伝統派空手出身の選手にミドルキックでダメージは与えづらそうだが、下段廻し蹴りが許可されていないルールなのでローキックは有効だろうと勝子は睨んでいたがその通りであった。
正面に立てば遠い距離から飛んでくる刻み突きの餌食になるから、まずは堀田選手の正面に立たない様に注意しながら斜めに踏み込んでローキックで着実にポイントを取る作戦を取った。
スピードこそあるが、まだ伝統派空手の直線的な攻撃から抜け切れていない堀田選手の側面に俺はステップを駆使して回り込み、太腿に次々とローキックを当てる。
レッグガードを装備しているから大したダメージは無いが、このままではポイント負けするという焦りを誘った。
勝子は正面に立つなと声を上げ続ける。
この声は堀田選手の耳にも当然届いており、俺が正面からやり合うのを恐れているであろうと思い込むだろう。
そろそろ頃合いだな。
俺は堀田選手の正面に立った。
「せいっ!」
俺が正面に立った刹那、チャンスと見たのか堀田選手は刻み突きのような高速ジャブで反撃をしてきた。
だが、これは勝子の声を含め俺の誘いだった。
前足を横に開くようにして踏み込み、堀田選手のジャブをいなすと、身体を横に開きながら右のスウィングで顎を打ち抜いた。
これは亮磨先輩がスパーリングで俺をダウンさせたカウンターで、身を以てその威力を知っていたので、当たった瞬間、俺は勝利を確信していた。
パンチが見えなかったであろう、堀田選手は後転するかのように倒れるとマットに頭をぶつけ、大の字になりピクリとも動かなくなった。
1分16秒。
俺は優勝候補の一角をKO勝ちで仕留めた。
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