第28話 エロスの神が与えてくださった勝利のご褒美?

「武先輩! どうして試合に呼んでくれなかったんですかあっ!」


 香織から電話がかかってきて、開口一番文句を言われた。


「いや……たかがビギナーズリーグの試合で呼ぶのも恥ずかしかったからね」


「もおっ! 最近は女子会にも参加してくれないし、エッチな武先輩の為に少しきつめのブルマを準備しておいたのにいっ!」


 エッチな武先輩ってなんじゃい?


 いや、その通りだから否定しないけど。


 そンな事よりかはるかに重要な聞き逃せない台詞がアレだ。


 少しきつめのブルマってアレか?


 昭和生まれの少年ならば誰もが目にしたと言われている伝説の絶景、ハミパンをお目にかかるチャンスだったという事か!


 それは無念だ……無念すぎるぞおおおっ!


「もう、暫くはブルマ履いてあげませんからねっ!」


「そっ……それは残念……ゲホゴホ。じゃなくて、三週間後にまた大会に出る予定なんだよ。だから、練習は暫くジムの練習に絞るから女子会には出れないね」


「ええっ! 試合終わったばかりなのにまた大会があるんですか!」


「何か、俺のデビュー戦やった大会って本当はもっと前に行われる予定だったのが延期になったらしくてね。次の大会と日程が近づいちゃったらしいんだ」


 アマチュアの大会は多い時で年に五回程なので、大体二~三か月毎に試合が行われるものだが、異例ともいえるほど試合間隔が詰まっている。


「そう言うことでしたら承知しました。でも、次は絶対に応援に行きますからね!」


「ありがとう。そうしてくれると嬉しいよ」


「ハイ! ところで、前回の試合で疲れとか怪我とかないですか?」


「まぁ試合自体は直ぐに終わらせたから何ともないけれど、初めての経験だったし気疲れとかは少しあるかもね」


「そうですかぁ~ふふふっ。じゃあ元気の素は要りますか?」


 元気の素? 何だろうそれは?


「まぁ、そんなものがあるんなら欲しいかもね」


「分かりました! 直ぐに送りますから! では失礼します!」


 香織は嬉しそうな声を残し、電話を切った。


「彼女からの電話は終わったか?」


 俺がスマホをポケットにしまっていると、勝子に足を抑えられながら腹筋をしている麗衣は俺にそんな事を聞いてきた。


 腹筋をしている麗衣よりも何故か勝子の方が荒い息を吐いている。


「彼女って……、何で俺が香織と付き合っている事になっているんだよ?」


「ん? お前らまだ付き合ってねーの?」


「付き合っている訳ないじゃん!」


「ふーん……ヤルんなら卒業するまで待てって、あたしの言っている事を律儀に守っているのかな?」


「何の事だよ?」


「いや。何でもねぇよ」


 麗衣が何を言っているのかよく分からなかったが、尚も食い下がる様に変な事を言い出した。


「一応注意しておくけど中学生相手にエロいことはすんなよ? もしヤルんならあと一ケ月の辛抱だぞ?」


「付き合っても居ないのにする訳ないだろ……全く。どうしたんだ今日の麗衣は?」


 様子が変な麗衣に俺が尋ねると、返事をする前に勝子が大きな声で言った。


「あっ! そうだ! 御免なさい麗衣ちゃん……。今日昼休みの空手部のミーティングに私も参加するの忘れていた!」


 勝子は中学時代にボクシングで全日本アンダージュニア優勝の実績があるだけでなく、空手も強い事で有名だったので、空手部の部員に指導を頼まれたらしい。


 勝子が何故空手部の指導を了承したのか理由がわからないが、ジムのサブトレーナーの仕事が無い時はよく空手部に顔を出しているそうだ。


 そのお陰で空手部から防具やキックミットを借りられて学校でも練習出来るから助かる。


「そうか。じゃあ、早く行って来い」


「うん。御免ね! また昼休み中に戻れたら戻ってくるから!」


 勝子は軽く麗衣に頭を下げるとぱたぱたと走りながら屋上から出て行った。


「人間嫌いぶっている割には勝子って結構面倒見良いよね。空手部に友達でも居るのかな?」


「同学年じゃ見た事ねぇけどな。ただ、空手部の先輩からは結構可愛がられているみたいだな」


「ふーん……。アイツがねぇ」


 そう言えば姫野先輩の妹、織戸橘環先輩も勝子の事を嫌っていると言う割には随分気にかけている感じがする。


 あの取っつきづらそうな性格も年上から見れば、可愛い物に見えるのか、結構好かれやすいのかな?


「空手部から誰か強い人が麗に入ってくれないかな?」


「どーだろうな? 強化指定部らしいからそれなりに強豪みてーだし、部の主力クラスが入ってくれりゃ心強いけど、無理に誘うのも気が引けるしな……。そうそう。空手部と言えば、澪がスポーツ推薦でウチに来るらしいな」


「それなら俺も聞いたよ。空手の推薦だってね」


 これで勝子の他にも澪という空手部とのパイプが出来る。

 

 何とか一人ぐらい麗の戦力になりそうな人を連れて来てくれないだろうか。


「あと、香月と静江、香織もウチに合格したらしいな」


「らしいね。四人とも同じ高校に入るなんて珍しいよね」


「そうだよな。一応ウチみたいのでも学区内三位の進学校だからな。志望したからって四人が四人同じ学校に入るなんて難しいんだけどな。特に香織は教師から無理だって言われていたらしいけど結構頑張ったらしいぜ。やっぱり愛の力か?」


 ニヤニヤしながら麗衣はそんな事を聞いてきた。


「だから付き合ってないって言っているだろ……」


「となるとやっぱり本命は勝子なのか?」


「勘弁してくれよ。もっとあり得ないだろ……」


「ふーん……。まぁ、誰が本命なのかは今度じっくり聞くとして、筋トレ手伝えや」


 麗衣は自分の足を指さした。


「腹筋中断しちまったしな。足掴んでいてくれ」


「あっ……ああ。分かったよ」


 体育倉庫からかっぱらってきたマットの上で、麗衣は膝を折りたたみ、仰向けの姿勢で両手を後頭部に当てていた。


 俺は麗衣のつま先側に回り見下ろした先には、ソックスを履いていない素足が覗く艶っぽい膝は僅かに開かれ、清潔感のある紫のストライプ柄の下着が覗いていた。


 おお……神よ


 きっとエロスの神が与えてくださった勝利のご褒美なのだろう。


 勝子が興奮して息が荒くなっていた気持ちが凄くすごくすごーっくわかるぞおっ!


 麗衣は腹筋に集中して俺の視線に気づいていない。


「九十九……百……ふうっ……。もういいぜ武」


 麗衣が腹筋百回終わるまで、俺は至福の時間を堪能し続ける事が出来たが、ここで終わったら勿体ない。


「どうせなら、あと百回やれば? 何なら千回でも押さえておいてあげるよ」


「オイオイ、あと千回ってなんだよ……。勝子にも押さえてもらって合計二百回やってるんだから無茶言うなって。それよりかお前もやらねーか? 押さえておいてやるから」


 あまりやりたくないけど、麗衣に体力がある事もアピールもしないと駄目だしな。


「じゃあ、俺も腹筋やるよ」


 俺が腹筋の体制を取り、麗衣がつま先を押さえてくれた。


「じゃあ、イーチ……」


 上体を起こすと、膝の間から俺の足を押さえる為に麗衣は体育座りの格好で股間を開いている姿が目に入った。


 そして、前かがみの姿勢の為、ラフに着崩しているワイシャツの胸元から僅かにブラジャーが覗いていた。


 そうか! この手があったか!


 これならば怪しまれることなく、ごく自然に麗衣の下着を覗くことが出来る!


 勝子の奴め……最近よく麗衣と筋トレしているかと思えばこんな狙いがあったとは!


 俺に教えもせず一人で楽しむとは、けしからん奴だ!


 少しでも長くこの時間を過ごしたい俺の腹筋のペースは自然とゆっくりなものになっていた。


 当然普通の腹筋より負荷が大きくかかり、百回麗衣のパンツを覗き終わった時には倒れ込む様にして両手を広げた。


 その弾みにポケットに入れたスマホが勢いよく飛び出した事に俺は気付かなかった。


「お疲れー。随分気合が入った腹筋だったじゃん……ってスマホが落ちたぞ? 取りに行ってやるよ」


 寝っ転がる俺の横を麗衣が通っていく。


 ストライブ柄に布地のしわの様な筋のようなものまで丸見えだが麗衣はスマホに気を取られ、俺の視線に気づいた様子もない。


 俺はこの光景をウォーキングメモリーにしっかりと刻み込んだ。


 麗衣は俺のスマホを拾ったその瞬間、バイブ機能でスマホの振動を起こしていた。


 びっくりしたようで、思わず麗衣は俺のスマホの画面を見つめた。


「あっ……画面開いちまった……ってオイオイ。ロックかけてねーの? 覗いてくれって言ってるようなもんだぜ? エロ画像でも人に見られたらどうするんだよ?」


「まぁスマホには別にみられて困るものもないしね……」


「ふーん……そうかい。じゃあ姉貴分として情操教育に悪いものがねーか、しっかりとチェックしねーとなぁ~」


 情操教育に悪いのはパンツ丸見えのお前の格好だろうがと心の中でツッコミを入れつつ、麗衣に見られても都合が悪いようなものは無いはずなので見られても構わないと判断して、麗衣のしたいようにやらせた。


 エロサイトならしっかり家のPCで観ているし、その手の画像はスマホには入れていないから大丈夫!


 ……のはずであるが、俺のスマホの画面を見た麗衣は殺気立ち、赤黒いオーラが沸き立ち、風も無いのにスカートが靡き髪の毛がざわっと逆立つように見えた。


「香織からのメールが来てるぜ……テメーこれどういう事だ?」


「へ? 香織から?」


 俺は麗衣に突き付けられたスマホを見た瞬間、冷や汗でシャワーを浴びたように全身がびしょ濡れになった。


[初勝利おめでとうございます! お祝いに先輩のご要望通り元気の素送ります♪]


 短い祝福の言葉とともにメールに添付された画像には紺色のブルマを履いた香織が片目をウィンクし、可愛らしくペロッと小さな舌を出しながら腹筋の姿勢で指を襟首にかけて胸チラせんばかりのポーズをしていた。


「いっ……いや。こっ……これは香織が送ってきたもので……」


「メールに『先輩のご要望通り』って書いてあるだろ? テメーは中防にエロ画像撮って送らせてるのか? ああん?」


「たっ……確かに元気の素送ってくれとは言ったけれど、こんな画像送ってくるとは思わなかったんだよ……ヒイッ!」


 びしっ! 


 という音と共に麗衣が強く踏みしめたコンクリートにひびが入っていた。


 アハハハッ……まさかね? 多分元々ひび割れていたところだよね?


「テメーに警察に突き出されるか、ノーガードであたしのハイキックを受けてみるか、選ばせてやるよ……三秒時間やる。さぁ、どっちにするんだ?」


「おっ……落ち着け麗衣……ぎやああああっ!」


 きっちり三秒後、脳が激しく揺さぶられる衝撃で俺の意識は暗闇へと落ちて行った。


 麗衣によって香織のブルマ画像を消されるとともに、俺のウォーキングメモリーに記憶された麗衣のパンツも消去された事は言うまでもない。

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