第16話

 退院祝いの席でも、家族の話し合いは続いた。

 レベルアップにより、力が増しているので、力加減に注意することを最初に伝えた薫である。


 父親と母親は、当分の間会社を休職することになった。理由は、会社側の都合によるものである。

 当人たちの了承もなく一方的な通知である事に、両親は憤っていた。給与は、全額ではなく3分の2が支払われるらしい。

 両親は良い機会だと退職を決めたようで、相手が先に一方的な事をしてきたことを逆手に取り、引き継ぎも何もせず辞める旨をメールで送った。

 しかし、後輩から何度も連絡を受けた父親は、後日引継ぎ用の資料等をまとめてメールで送ることにした。母親の方は特段何もしなかったようである。


 薫が通う予定の高校からも休校の知らせがメールで届いた。再開時期は未定との事だ。薫に高校生活は来るのだろうか?

 

 やや遅れて、春人の通う中学校からも同様のメールが届いた。


 こんな状況だけど、政府からの発表は今のところない。SNSの情報によれば、多くの国会議員が死亡や行方不明となっているらしい。鵜呑みにはできないけれど、政府のリアクションがないのだから、まるっきり出鱈目とも思えない。



 薫は、金策について家族に教えていた。少なくとも、本を売ってSPを稼げる事を。探せば、もっと効率よく交換できる物もあるだろうと。

 この時点で、ダンジョンコア討伐で10万SPも入手できる事を失念している如月一家であった。一見冷静なようでも、モンスターが出現する異常事態となっているため、さすがに多少の混乱はあるようだ。


 さっそく父の提案で、家にある物で試そうという事になった。

 実際に売らなくても売却価格が分かるので、家中にあるものを家族みんなで試していった。

 その結果、非常食にもなる長期保存の効くインスタント麺や缶詰やお菓子、知識や情報の詰まった本や雑誌は、原価よりも高く売れるのだ。

 情報の点なら、パソコンや携帯端末、音楽・映像データなども高く売れそうなのだが、機械やその付属物などは赤字になる。

 現時点で5割増で売れるのに、赤字なのだから笑うしかない。

 時計やネックレスなどの宝飾品なども、大した利益にはならないそうだ。


 食料品関係は、売るよりも備蓄するべきと、母の強い意見があり、明日家族みんなで買い物に行くことになった。

 売るなら、本となった。


 父親と母親からは、装備を整えようと言う意見が出た。

 日常生活は、布製の防具で目立たないように世間の目を欺き、ダンジョンでは、きちんとした武装をしようというものだ。春人は、両親へ相談しながら楽しんで物色している。


 薫にとっては、出来ればダンジョンに入らずに攻略したいが、両親と弟は、時間的にも金銭的にも余裕が出来たのだから、きっちりダンジョン攻略をしたいらしい。


 安全・簡単・楽にダンジョンを攻略したい薫にとっては、完全なとばっちりである。

 安易なレベルアップと20万SPを手に入れさせてしまった薫の所為でもある。日本円に換算するならば、2千万円相当なのである。なお、両親と春人には大物殺しの称号はあるものの、10万SPのボーナスはなかったそうだ。

 それでも薫は、家族に付き合う事を了承した。自分の知らないところで、大けがや死なれたりしたら嫌だからだ。


 レベルアップやSPゲットのメリットもあるし。


 薫は、【魔道具】と【薬類】から4万SPを消費して、数点の品物を購入した。

 身を守るための物だ、命の値段としては安い買い物である。


 だが本当に安いのだろうか?

 購入したものは、本当なら4千万円相当なのだ。一般人ならかなり高額な買物のはずである。

 どうやら薫の金銭感覚は、少しばかり麻痺している様だ。



 それから、【傭兵】の件についても家族と話をした。

 実際にダンジョン攻略をする気の家族には、出来るだけリスクを減らすべく、【傭兵】を使う事も選択に入れる事になった。


 現状、家族の中で索敵できるのは薫だけ。

 春人が従魔を使役するようになれば、従魔しだいでトラップの発見や解除なども、任せられるようになるだろう。あるいは、新しいスキルをスキルポイントで習得する事もあるかもしれない。


 春人としては、従魔は購入せず自力でゲットする方針のようだ。魔物使いとしてのプライドらしい。


 薫や両親の考えは、せっかく9割引で購入できるのに、活用しないのは勿体無いと伝えたが、春人は譲らなかった。

 春人にとっては、現実というよりもまだゲーム感覚といった感じなのだろう。薫の場合は、モンスターによって傷ついた者や殺される者を見ているので、現実思考で極力危険から遠ざかりたいのだ。




  ◇◇◇


 自分の部屋に戻った薫は、☆☆☆の猫娘と鬼娘と淫魔娘の3体を、ようやく購入することにした。


 購入画面に映し出された娘たちをみて、期待と喜びで興奮しているために、薫の心拍数は自然と上昇する。


「く~~~~っ。ついにこの時が来た。3人とも待たせてしまったけど、今から僕が君たちの主になるからね」


 購入画面に映る従魔候補たちに話しかける薫。相変わらず、独り言がデフォである。


「よし、よし、よしっ! 僕の従魔は、君たちに決めた!」


 興奮している己を更に発奮させるべく、気合いの掛け声を上げた薫は、猫娘と鬼娘に淫魔娘の3体を遂に購入した。


 すると、画面には今しがた購入した3体を何処へ出現させるのかと、出現位置を催促する赤い文字が表示された。


 何処と問われて戸惑う薫。すると、視線を動かした時に、青い光の円が薫の視線に追従して動く事に気が付いた。


 青い光の円は、2mほどの大きさである。


 薫は、自分の傍の床にすべきか、それともベッドにすべきか悩んだ。ベッドで悩んだ薫に、エロい目的はない。相手は従魔とはいえ見目麗しい美少女たちである。やわらかい場所にした方がいいのかなと、薫なりの気遣いであった。


 しかし、やわらかい足場となれば、テンプレのえっちなハプニングが起きる確率が高いと判断した薫は、己の理性を総動員して、従魔たちの出現位置を安全な床の上に決定した。


 青い光の円から同色の光の柱が立ち昇り、薫の部屋を青一色の眩い閃光で染め上げた。強烈な光に薫は両腕を目の前にクロスさせ、その隙間から薄眼を開けて光源を観察した。


 時間にして僅か数秒、光の柱が天井へと消えていくと同時、6つの生足が現れ脛から腿、薄茶色の無地のパンツと言う風に、徐々に姿が浮かび上がって来るではないか。


 薫の脳内とアレは、血流が激しさを増してガンガン痛いほどだ。傍から見れば、瞬きを忘れ限界まで開ききった両眼は血走っており、股間をパンパンに膨らませていて、関わってはいけない危険人物指定を受けること間違いなしの状態である。


 青い光はさらに上昇していき、滑らかな曲線を帯びた肉体を曝け出していく。

 腰から臍、そして胸の膨らみを隠す薄い生地のブラと呼ぶのも憚られる布を見た時点で、薫は両手で鼻を押さえる。興奮しすぎて、鼻血が出てしまったようだ。


「なんてエロい演出なんだよ。誰だか知らないけど、ぐっじょぶ」


 薫はボルテージが上がりすぎて意識が飛びそうになる。


 徐々に現れる女体は、妄想を膨らますには十分過ぎる時間だったようで、薫の思考力と両目から入る刺激が強烈過ぎ、キャパシティを超えてしまいそうだ。


 ここで意識を手放してしまえば、せっかく購入した3体の従魔たちがどうなるのか分らない。よくて逃走、最悪は3体の従魔に殺されるかも知れないのだ。


 その為に、相手を隷属させる高価な魔道具があるし、魔物調教なるスキルもあるのだ。従魔として販売されているが、購入しただけでは主従関係は成り立っていないので、躾ける必要があるのだ。


 薫は、姿を現した3体の従魔に対して魔物調教スキルを使用し、なんとかテイムに成功した。


 このまま、下着姿の美少女たちを見続けていては、薫の理性が持ちそうにないので、シーツを3つ購入してそれぞれに裸体を隠して貰った。ちょっぴり残念に思った薫であった。


「うん、大丈夫。これなら我慢できる。1人ずつ名前を教えて欲しい」


「「「名前はない」」」


 答えがハモるとか、協調性があるのか? それに、可愛い声で心地いい。

 しかし、名前はないのか。


「僕が名付けても良いのかな?」


「「「……」」」


 黙って頷く従魔たち。そこは言葉に出していいんだよ。

 薫は、これまで何度も従魔たちを見ている中で、それぞれに名前を付けていたのだ。だから、名付けに時間は全く掛からなかった。


 薫は、猫娘の前に立つと、そっと両手を握り瞳を見つめて告げた。


「お前の名前は、今からタマだ。気に入らなければ、別に考えるけど」


「……タマ、タマ、タマ。ぬしさま気に入った。わらわはこれからタマじゃ」


 目の前の猫娘は、どうやらタマと言う名前を気に入ってくれたみたいで、笑顔で答える。どさくさ紛れに両手を握るボディタッチをした薫は、内心ドキドキしていたものの、猫娘の反応に心がほっこりした。


 しかし、タマの肉球の触り心地がプニュプニュして不思議な感触だ。おっと、タマが首を傾げてこちらを見ている。今は、これ以上のスキンシップは止めておこう。


 それから、鬼娘にはサクラと名付け、淫魔娘にはリリスと名付けた薫。どちらの名前も気に入ってもらえた薫は、とても嬉しかった。


 いつまでもシーツに身をくるませているのも主人として恰好悪いので、頼りになる所を見せなければと、それぞれに上限1万SPまでの買い物を許可した薫である。

 何しろ、シーツを取れば下着姿の美少女たちである。このままでは、薫の精神というか理性が本当に危ない。


 売買システムの画面もステータス画面同様、他者には見れないものであるが、相手の了承があれば見る事が出来る。そして、従魔は主の画面が見れるし買い物も出来るようである。もちろん、主の許可は必要である。

 3体の従魔のお小遣いも考えておこうと思った薫である。



 一見すると、サクラ以外はエロい服にしか見えないが、きちんと防具として役に立つようで、彼女たちの魅力を損なうことなく、寧ろ魅力を引き出す服装となっている。


 タマの獣耳や、チャイナドレス風のスリットから腰まで伸びて捲きついた尻尾が薫を誘惑し、リリスの煽情的な大きく開いた胸元と超ミニスカートからの芸術的な色と艶と形を備えた白い生足。


 サクラも十分可愛いのだが、鎧姿なのでタマやリリスと比べると残念感が半端ない。


 薫が阿呆な事を考えていると、従魔たちが服従の証としてピンポン玉サイズの宝玉を渡してきた。


 3つの宝玉の色はそれぞれ異なっているものの、中心に陽炎のような揺らめきが見てとれる。

 従魔たちの言う事が正しければ、従魔の命そのものだそうだ。

 今後、従魔たちが成長していけば、同様に宝玉も大きく奇麗になっていくそうだ。


 薫は、3つの宝玉を大切に空間収納へと仕舞った。




    タマ(0)


 【種族】 猫人族

 【Lv】 1

 【職業】 仙狸ランク1

 【状態】 健康

 ・HP  55/55

 ・MP  60/60

 ・腕力  20

 ・頑丈  16

 ・器用  15

 ・俊敏  30

 ・賢力  30

 ・精神力 20

 ・運   25


 【スキル】

 ・爪術レベル1      ・猫パンチレベル1

 ・仙術レベル1      ・変化レベル1

 ・招き猫レベル1     ・猫足レベル1


 【固有スキル】

 ・仙力解放レベル1



 猫娘のタマは、艶のある黒い毛並みと豊かな双丘を持つ美少女だ。

 尻尾は、腰にベルトのように巻き付けている。

 ちなみに、会話時に語尾に「にゃ」とか「にゃん」をつけていなかったので、努力してつけるようにお願いした。

 耳に触れるのを嫌がられたが、耳はとても触り心地が良かった。

 尻尾へのお触りは、断固拒否された。

 今後、親密になれば触らせて貰える様になるだろうと、薫は考えている。



   サクラ(0)


 【種族】 鬼神族

 【Lv】 1

 【職業】 羅刹天ランク1

 【状態】 健康

 ・HP  66/66

 ・MP  50/50

 ・腕力  33

 ・頑丈  30

 ・器用  15

 ・俊敏  20

 ・賢力  18

 ・精神力 20

 ・運   20


 【スキル】

 ・剣術レベル1      ・槍術レベル1

 ・全身強化レベル1    ・霊弾レベル1

 ・聖気レベル1      ・霊感レベル1


 【固有スキル】

 ・神力解放レベル1



 鬼娘のサクラは、ピンク髪のポニーテイルでアジア系というか、日本人に近い面立ちをしている美少女だ。

 引き締まった体躯であるが、女性特有の柔らかさは健在である。

 お乳のボリュームは、平均的と言える。



   リリス(0)


 【種族】 淫魔族

 【Lv】 1

 【職業】 上級淫魔ランク1

 【状態】 健康

 ・HP  50/50

 ・MP  64/64

 ・腕力  20

 ・頑丈  20

 ・器用  20

 ・俊敏  20

 ・賢力  30

 ・精神力 26

 ・運   20


 【スキル】

 ・格闘術レベル1     ・火魔法レベル1

 ・水魔法レベル1     ・風魔法レベル1

 ・闇魔法レベル1     ・吸生レベル1

 ・吸魔レベル1      ・飛行レベル1


 【固有スキル】

 ・幻影術レベル1



 淫魔娘のリリスは、煌くような金髪ツインテールの美白で爆乳くびれ美尻の持ち主だ。

 タマも立派だけど、リリスはさらに上である。

 お触りは拒否された薫であった。


 従魔は、売買システム画面で【預り】を使えば、1体180日3,000SPで預かってもらえることがわかった。

 従魔召喚スキルを取ろうかとも思ったが、【預り】で出し入れ出来るので、習得はしなかった。


 高級車を3台まとめ買いした感のある薫であるが、SPということであまり実感がないから従魔の購入に踏み切れたのだ。

 本来ならば、タマの購入費用でさえ、8800万円も必要なのだから。

 薫の残りSPは、36,434SPとなった。手持ちが10分の1にまで減ってしまった薫であるが、ダンジョンコア1つで10万SPも入手できるので、全く不安など感じていなかった。

 ほんの数日前、ラノベ本が高く売れた事に一喜一憂していた薫は、一体何処へいってしまったのか。

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