旅行でファルナと甘々生活
軽井沢に来た。
都会の喧騒から離れたこの場所は、僕たちの小さな逃避行にぴったりだ。チェックインを済ませたコテージは、木々の緑に囲まれた静かで可愛らしい一軒家。窓を開けると、涼しい風と森の匂いが流れ込んできた。
ファルナはもうソワソワしている。
ファルナは飯を作りたいようだ。
「ねえ、今日の夜ご飯は私が作るね!」
軽やかな足取りでキッチンへ向かうファルナの背中には、白いエプロンがよく似合っている。僕が「せっかくの旅行なんだから、外で食べてもいいのに」と言うと、ファルナはふわりと振り返って笑った。
「旅先で、二人で、こうしてご飯を作るのが楽しいんじゃない。それに、ね? 特別な、甘いご飯にするんだから」
そう言ってウィンクをするファルナに、僕の心臓はきゅん、と音を立てる。その「甘い」が、料理の味だけを指しているのではないことは、僕にはよく分かっていた。
カレーを作った。
カントリー調のキッチンで、僕が玉ねぎを切り、ファルナが肉を炒める。共同作業は、ただそれだけで幸せな時間だ。ファルナは時折鼻歌を歌いながら、ルーの鍋を優しくかき混ぜている。
「できたよ、クウタ。ファルナ特製、愛のスパイスがたっぷり効いたカレー!」
湯気の立つ、深みのある茶色のカレーライス。ファルナが僕の分だけ、ライスをハート型に盛り付けてくれたのが甘い。
「ありがとう。いただきます」
スプーンで一口すくって口に入れると、玉ねぎの甘さと、トマトの酸味、そしてファルナらしい優しいスパイスの香りが広がった。美味しい。素直な感想が口からこぼれる。
「どう?どう?」
期待に輝くファルナの瞳が、僕を覗き込む。彼女は、僕の感想を誰よりも心待ちにしている。
「すごく美味しいよ、ファルナ。特に、この隠し味は何?何か甘いものを入れた?」
そう聞くと、ファルナは僕の隣に座り、身を乗り出してきた。
「ふふ、さすがクウタ。よく分かったね。その隠し味はね――」
そう言いかけたファルナは、言葉を止め、代わりに少し照れたように僕の頬にキスをした。
「――これ。私の、『とくべつ』だよ」
顔が熱くなる。軽井沢の涼しい夜だというのに、僕の体温はぐんぐん上昇している。ファルナは満足そうに笑い、僕の隣で自分のカレーを食べ始めた。僕たちは二人、木々のざわめきだけが聞こえる静かなコテージで、甘い隠し味のカレーを食べながら、静かに、そして深く愛を確かめ合ったのだった。
幼女魔王様はグルメ好き!!! 仮実谷 望 @Karimin
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