第145話/Desperate +++
私の胸には大きな穴がある。嫌な記憶や嫌なことを全て飲み込むブラックホール。
過去に囚われすぎて、おかしくなりそうだった私の打開策であり、私を保つ方法。
でもね、全てを飲み込むと楽になったんだ。ちゃんとLINEも返せたし。
絶対に遊ぶことはないけど、あの嫌な記憶を真っ暗闇に押し込むことができたよ。
お陰で、仕事が順調に進んでいる。勉強も再開できて全てが順調に進んでいるけど相変わらず美沙とは会えていない。
でも、これは仕方のないこと。私も美沙も忙しいから仕方のないことなのだ。
愛が芸能界に入って、仕事を得た代わりに色んなものを我慢して失ったと言っていた。
私の仕事の代償が美沙なのかもしれない。美沙との今まで通りの時間を失った。
でも、ここで落ち込んでいたら失墜する。仕事とプライベートは切り分けないといけないし愛もそうやって乗り越えてきた。
鮎川早月としてドラマに出演が決まった時、四番手を喜んだ。高橋君との映画ではヒロイン役で二番手を演じる。
少しずつ上がっていく数字。私もこの数字をもっと上げたい。数字の1が欲しいんだ。
私は高校生の時から数字に取り憑かれている。アイドルになりたいことをクラスメイトに馬鹿にさせないために必死に勉強をした。
一桁の数字が私のプライド。大学に行く人より上にいないと私は馬鹿にされる。
武器を増やすために英語も必死に覚えた。ネィティブではないけどある程度は話せるし、私に武器ができれば出来るほど私の価値が上がり誰も邪魔をしなくなる。私と美沙を放っておいてくれるから頑張ったんだ。
もっと、頑張らなきゃ。美沙との時間を失っても頑張りたいと思う世界にいるからこそ。
松本梨乃.side
今日はみのりと一緒の撮影だった。撮影の空き時間、普通に話したし…いつものみのりだったけど、最近のみのりは違和感がある。
虚無って言うのかな?そんな言葉が当てはまる表情をする時がある。
どこか遠くを見ている視線で、私と向き合って話しているのに私を見ていない。
今日は原作の漫画を読んで楽しみにしていたシーンだった。小春と早月の大事なシーン。
だから、楽しみにしていたのに…
撮影は順調に進んでいるけど、みのりの変化に戸惑い、何も出来ない自分がもどかしい。
みのりの瞳が真っ黒な時、私はどうしたらいいの?みのりの中で何が起きてるの?
みのりの心の中が分かったらいいのに。そしたら、私はみのりに寄り添い支える。
みのりの苦しみは私の苦しみ。みのりの喜びは私の喜び。みのりの幸せは私の幸せ…
恋をして、重い子になってしまったけどこれが私なんだ。恋に生きるのが私。
初恋を思い出にしたくないし、みのりがいなきゃ私が私じゃなくなる。だから、振り向いてよ。みのりの声を聞かせてよ…
みのりは何を背負っているの?
森川愛.side
最悪。私は恋愛なんてしてないのに、変な噂が立ち、私を不機嫌にさせる。
ハッキリ言ってやりたい。私は…恋愛未経験だと(嘘。絶対に言いたくないけど)
今日は新しく7月から始まるドラマの打ち合わせだった。マネージャーと色々これからののとを話しながら仕事をし、2時間ほどしてやっとの休憩なのに私のマネージャーが携帯を見て顔を顰めている。
何かあったのかな?と思いつつ、眠気覚ましも兼ねてブラックコーヒーを飲んでいると、マネージャーが「面倒だな」とため息を吐きながら呟いた。
「愛。前田櫂君と噂が立ってる」
「えっ、何で?」
「前田君が雑誌で語った理想の女の子が愛にピッタリらしくて、匂わせかって」
「はぁ?バカじゃないの!前田君とは一度も共演をしたことがないのに」
「分かってるよ。ただのこじつけだと。でも、まずいな。高橋賢人君と前田君は仲が良いから高橋君が橋渡しをして愛と前田君を繋げたって書かれてる」
「何それ!高橋君も可哀想じゃん。勝手に濡れ衣を被せられて」
「まぁ、デマだし勝手に噂は消えていくだろう。でも、粘着質のファンは付いたな」
腹が立つ。馬鹿みたいな妄想に取り憑かれて、探偵の真似事して真実じゃないことを真実と偽ろうとしている。
「愛。とりあえず、言動には気をつけて。揚げ足を取ろうとする輩もいるから」
「分かってるよ…」
くだらない。くだらない。マジでくだらない!そもそも、前田君に興味ないし男と女だからって勝手に妄想しないで!
「はぁ…愛のドラマの相手が前田君と同じグループだからざわついてるな」
「最悪…」
アイドルは恋愛禁止。だから、ファンが過剰になる。もし、恋愛禁止じゃなくてもこれだけお金を落としているのにとか、こんなにも応援しているのにとか言って騒ぎ出す。
何で、一度も会ったこともない人と噂になって私が叩かれないといけないの?
ありもしないストーリーを作り、勝手に悲劇のヒロインになるなんて馬鹿みたい。
私の方が悲劇のヒロインだ。身勝手な妄想に取り憑かれた人達に攻撃される。
本当…最悪。マジで疲れる。
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