第124話/サカサマな感情
谷口美沙.side
みのりに久しぶりに会った。でも、突然だから驚いたし私がバイト中だからみのりとは周りを気にして会話をする事ができなかった。
でも、忙しいみのりが会いにきてくれた事が嬉しい。会うのを我慢していたから。
そんな中、苦手な大学の先輩に偶然会い…思わず舌打ちしたいぐらい嫌だった。みのりに迷惑だけは絶対にかけたくない。
何とか逃げられたけど、これから気をつけないといけない。もし、またこんな風に声を掛けられたらみのりに迷惑がかかるし、みのりがCLOVERの藍田みのりだと分かったらしつこく紹介してよと言ってくるはずだ。
私はみのりがアイドルとして女優として成功することをずっと応援してきた。時々、みのりが遠くに行くみたいで寂しいけど応援する気持ちは永遠に変わらない。
でも、みのりが成功すればするほど代償が付きまとう。みのりと普通に歩けなくなる。
「美沙、もう少しゆっくり歩こう」
「あっ…ごめん」
早く、先輩から遠くに離れたくて私はずっと早歩きでみのりを引っ張り歩いていた。
「美沙」
「何…?」
「会えて嬉しい」
「えっ…」
「美沙と会うの久しぶりだから、ゆっくり会えた時間を楽しみたい」
みのりは前に会った時より痩せている。仕事が忙しくて、寝る時間もないんじゃないかと心配になるぐらい。
なのに…私に会いにきてくれて私に嬉しい言葉をくれる。幸せをくれる。
だからこそ、みのりの負担になりたくないと思ってしまう。でも、我慢の連続もかなりキツくて本音が出そうだ。
本当はみのりとずっといたい。でも、みのりの邪魔だけはしたくない。
そして、一番を絶対に望んではいけない。
みのりは明るくて、誰とでも友達になれるタイプで、真面目で、面白くて、可愛くて、頭も良くて、運動神経抜群で…でも、ふと見せる瞳の奥には真っ暗な闇がある。
みのりは悩みなど周りに相談をしないタイプで自己解決型だ。私がみのりに相談することあってもみのりは私に悩みを相談しない。
別に…寂しいとか私に頼ってよとかは思わない。人それぞれだし。だけど、人に触れることは好きなくせにある一定のラインを越えるとみのりは距離を置き出す。
直感だけど、みのりは【女の子】に嫌悪感を抱いている。別に嫌いとかではなく、ボーダーラインを越えた人に対してだ。
みのりにベタベタと引っ付く人。それなら私は?となるけど私は大丈夫みたいで…
誰とでも仲良くなれるみのり。クラスメイトに人気があって、成績も常に上位で、完璧なみのりに時折見える黒い影。
この影の正体は何だろう?でも…きっと、みのりは私に教えてくれない。
美味しそうにご飯を食べるみのりはいつものみのりだ。私の知っているみのり。
でも、バイトに行く前…駅で見たみのりは知らないみのり。駅の外にある大きな画面にみのりが映っていて私は驚いた。
衣装を着たみのりがいて…隣には松本梨乃ちゃん、友永由香里ちゃん、上野美香ちゃんがいてCLOVERというアイドルがいた。
6月にメジャーデビューするCLOVERを応援したいのに胸がジンジンと痛む。
私の知らないみのりが増えていくせいで、私の感情はぐちゃぐちゃだ。
吉田夏樹.side
私はわざわざ用事もないのに駅に行き、大きな画面の前に立つ。今日から駅の大きな画面に6月にメジャーデビューするCLOVERの曲の宣伝用の映像が流れる。
これもドラマのお陰だ。まだ始まってもないのに、ドラマの影響力のお陰でCLOVERの認知度が上がり、注目されている。
このチャンスを逃すことなく事務所と社長はCLOVERにお金を掛け宣伝を始めた。
ドラマがなければきっと事務所はCLOVERにこんなにもお金をかけてくれなかった。
これがチャンスを掴んだ証。新人が2人もいるドラマなのに雑誌の新ドラマの期待度ランキングで「彼女はちょっと変わっている」は一位にもなったし既に盛り上がっている。
主役が人気アイドルグループの高橋賢人君
三番手が若手人気女優の森川愛ちゃん
これほどの恵まれた環境はない。それにSNSを駆使した宣伝効果で梨乃とみのりの人気が思っていた以上に上がっている。
最近の社長は鼻息が荒く、CLOVERを人気アイドルにするぞ!って言ってる。
私の事務所は俳優部門が弱く、事務所としてもずっと伸び悩んでいた。そんな時、まだデビューをしていないCLOVERが注目され、アイドル・女優として事務所総出でCLOVERの売り出しが始まるのは当然だ。
もうすぐ梨乃とみのりが出演するドラマが始まる。原作者の奏多先生のプッシュも凄いし、監督からの2人の評価も上々だ。
由香里は6月に初めてのグラビアを飾る雑誌が出るし、美香も単独で雑誌の出演が決まっている。相乗効果も最高の形だ。
あとは、ドラマの評価だけ。きっと、ドラマは成功する。そして、CLOVERはアイドルとしてスターダムに向けてスタートを切る。
早くドラマが始まってほしい。CLOVERは勝ち組に変革する。
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