第69話/Step by Step
よっちゃんとの会議が終わり、私は今日はとても振り付けを考える気になれず、梨乃に中止にしようと伝えた。
梨乃に悲しそうな表情をされたけど、別に梨乃がドラマのヒロイン役を勝ち取ったのが悔しくて中止にするわけじゃない。
私はすぐにでも本屋に行き、漫画本を買いたいからだ。よっちゃんにオーディションが2日後と聞き、原作をちゃんと知らない私と由香里は美香より不利な位置にいる。
由香里も早速、原作の本を買いに行くらしく美香を連れ立って帰っていった。
「まだ振り付けの時間はあるし、オーディションが終わってからでいいかな?」
「分かった…」
私も早く着替えて本屋に行ってと考えながら会議室から出て行こうとすると、よっちゃんに「待って」と止められる。
よっちゃんが真剣な表情で「髪型にこだわりある?」と唐突に聞くからビックリした。
「別にないけど…」
「今日、漫画を買いに行くなら分かると思うけど鮎川早月は髪の長さが肩より少し長い髪型なの。まだ、受かるかなんて分からないのに髪を切るのは嫌だと思うけど、オーディションを受けるなら私は髪のイメージも合わせた方がいいと思ってる」
「そうだね。きっと、役柄に合わせて髪を切って受ける子も多そうだし」
役を掴み取るには何かしらの犠牲は必要だ。私は別に髪型にこだわりがないから髪を切るのは容易で気にしない。
今の長さにしていたのはアイドルらしいかなって思いだけで、こだわりなんてなかった。
だけど、小さい頃から髪が長かったから短くするのはほぼ初めてで、ドキドキはするけど気にしていられない。
私は鮎川早月役を勝ち取りたいし、これ以上梨乃に負けたくなかった。
「みのり、頑張ってね」
「うん、頑張る」
よっちゃんにエールを貰い、決心を固める。明日、美容室に行き、髪を切って、ずっと変わっていなかった私の日常を変えていく。
それに、隣にいる梨乃がずっと不安そうな表情をしている。梨乃は優しいから私のことを気にしているのだろう。
だからこそ、私も梨乃同様チャンスを掴み取り役を勝ち取る。私は今、グループの四番手にいる。一番下にいるからこれ以上下がることはない。
あとは上に上がるだけ。ここで頑張らなければ四番手から抜け出せない。
吉田夏樹.side
私はマネージャーなのにエコ贔屓をしている。美香や由香里にも髪を切った方がいいとアドバイスをした方がいいと分かっているのにみのりしか言わなかった。
でも、2人は髪型に強いこだわりがあるし、まだ受かるか分からないオーディションの段階では切らないだろう。
私は梨乃と一緒にオーディションに行き、見た目の重要さを知っている。やはり、審査する側は見た目もこの時点で審査する。
だからこそ、みのりに髪を切った方がいいとアドバイスした。みのりに受かってほしいし、梨乃の活力にもなる。
それに、もしかしたら奏多先生の後ろ盾があるかもしれない。もしそうなら、チャンスが目の前にぶら下がっている。
このチャンスをもぎ取らなければ、みのりは梨乃との格差にきっと悩むはずだ。同い年の格差は一番キツいことを私は知っている。
2人が帰っていく姿を見送ったあと、自分の席に移動しパソコンでドラマのキャストの画像を検索する。
主役の高橋賢人君は若い女の子に絶大な人気があるグループの男の子で、身長が高く、顔は可愛い系でもありクールな表情も似合うグループ一の演技派だ。
三番手役の森川愛ちゃんは若手女優の中で一番人気があり演技派で、オフィシャルHPで経歴を見ると、改めてこの年齢でのドラマや映画の出演数に驚く。
そして、一番情報を知りたい奏多みどり先生について調べる。やっぱり、簡単には情報は出てこない。
でも、ファンは画風的に女性ではないかと言っている人が多い。私も女性だと思っているけど、CLOVERのファンは8割が男性だ。
やはり、CLOVERのファンと考えると男性だろうか?確率的には男性の方が高いし梨乃のファンは男性が多い。
突然降ってきたチャンス。奏多先生がいなければ無名の梨乃にオーディションのオファーなんて来なかった。
奏多先生が誰なのか知りたい…
何でもいいから情報が欲しいと更に調べていると、まだ発表されていない情報が出回っている。これは、内部から漏れたのかな?
主役を演じるアイドルグループの高橋君が4月から人気漫画が原作のドラマの主役をやるとSNSに書かれていた。
高橋君のファンはその情報をめざとく見つけ、原作が何なのかと騒いでいる。
ドラマは恋愛系なのかと騒ぎ、ヒロインは誰だと必死に予想している。
きっと誰も当てられない。だって、梨乃を知っている人は少ないから。
テレビ局から正式に発表されたら事務所のHPはアクセスが集中しパンクするだろう。
社長に提言してみよう。ドラマが発表される前にCLOVERのアーティスト写真を新しくし、6月にメジャーデビューすることを大々的に宣伝するためのHPのリニューアル。
CLOVERは事務所で必ず一番のタレントになる。だからこそ、今のうちから動き、宣伝しなくてはいけない。
私はパソコンを閉じ立ち上がる。社長に一番提言したかったことを胸に社長室に向かう。
私はCLOVERの専属のマネージャーとしてやっていきたい。私がCLOVERを守り、最高のアイドルにするために。
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