第57話/トキメキの音符
1月が怒涛のように過ぎていく。メジャーデビューに向けての動きが活発になり、個人としても大学受験への勉強を本格的に始めた。
今日はデビュー曲の衣装が出来上がり、仕上がりをみんなで楽しみにしていた。
やっぱりデビューは違うと思い知る。今まで着てきた衣装とは華やかさが違い、衣装を着た私はデビューと地下の違いを実感した。
みんな、嬉しそうだ。まだ、この衣装を着てファンの前に出るのは先だけど嬉しさが込み上げてきてワクワクが止まらない。
「みーちゃん。似合う〜?」
「うん。似合うよ」
「でしょう〜」
美香はいつも通り自信満々にでしょう〜と言い、もっと言ってとばかりに私の前でくるりと回り、衣装を煌びやかせる。
「みんなー、衣装の問題はない?」
「大丈夫ー!」
衣装のサイズはもう決定しているから太るのは厳禁で、これからMV撮影も控えているからダンスにもっと磨きをかけないといけない。
「みのり、似合ってるよ」
「ありがとう。梨乃も似合ってるよ」
「へへ、ありがとう」
梨乃と衣装の素材や華やかさについて凄いよねと話し合う。しっかりとした生地は形が綺麗に仕上がるし、見た目から違う。
「あっ、一緒に写真を撮ろうよ」
「そうだね」
梨乃に写真を撮ろうと言われ、携帯を取り出していると、よっちゃんが大きな声で「あっ、みんな!写真は撮ってもいいけどSNSに写真を載せるのダメだからねー」と言う。
流石にそれはしないよっと思っていると美香が「危ない、載せる所だった!」と言うから、梨乃と笑ってしまった。
由香里も「セーフ」って言うし、楽しい現場は笑顔と笑いが絶えない。
私はあきら君の件があって以来、梨乃を見る目が変わっている。梨乃は大人しい部分はあるけどちゃんと芯がありしっかりしている。
でも、本当に不思議だ。梨乃が今まで彼氏がいなかったなんて…絶対モテたはずなのに。
「ジッと見られると恥ずかしいよ…」
「あっ、ごめん」
「どうしたの?」
「何で彼氏がいなかったのかなって」
「それは…好きな人がいなかったから」
私は梨乃の言葉に苦笑いする。私は好きではない人と付き合ってきた。
梨乃と話していると過去の私は馬鹿ばっかりしている。でも、それが逃げ道だった。
「みのり?」
「えっ?あっ、何?」
「急に黙るから」
「ごめん。私は恋愛とかに興味がなくて適当に過ごしていたからさ。梨乃は真面目だなって思って。それに、梨乃の制服姿を想像してた。私達さ、いつも私服で会ってたから梨乃の制服姿を見れてないんだよね」
「そうだね」
「見たかったな。絶対、可愛いもん」
あれ?梨乃が急に下を向き、手で腕を摩っている。なぜか、よっちゃんと目が合うと、ため息を吐かれた。なぜ?と思ったけど、このあと美香と由香里に何度も「可愛い?」と聞かれ、10回以上も可愛いと言う羽目になる。
松本梨乃.side
みのりは、平気で可愛いと言う。誰にでも言うから気にしないようにしたいけど真っ直ぐな目で言うから本気で照れてしまう。
今日もみのりに可愛いと言われ、恥ずかしくてみのりを見れなくなった。
でも、美香や由香里に何度も可愛いと言う姿を見て、モヤモヤが溜まり拗ねたくなる。
みのりは元々口が軽く、本人は否定しそうだけどチャラさがあり、だから簡単に可愛いと言う単語を使うのかもしれない。
みのりを好きになって以来、本気で可愛くなりたいと思っているけど自分磨きが難しい。
リップの色を変えたり、化粧の仕方を勉強したりしているけど美沙ちゃんみたいな華やかさが私にはない。もっと自分に自信が持てたら、みのりに想いを伝えられるのに…
でもね、最近のみのりは一緒に写真を撮ろうと言ってくれたり、距離が前よりも近くてドキドキすることが増えた。
ほら、今も…みのりから腕を組まれ、みのりとの距離が縮まり私の心臓は破裂寸前だ。
「梨乃、写真撮ろう」
美香と由香里に捕まっていたみのりが私の所に戻ってきてくれて、嬉しさで感情が爆発しそうになる。
前だったら由香里や美香に取られたままだったのに、今はみのりが自分から戻ってくる。
大好きな顔が近くて、みのりの匂いが私を包む。腕を組む行為なんて、みのりにとっては普通のスキンシップかもしれないけど、私にとっては好きな人からされる強烈なスキンシップで体の熱がどんどん上がっていく。
お願いだから…私に笑顔でこれ以上近づかないで。みのりの距離が近すぎて、今も弾けそうな感情を抑えきれなくなる。
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