第52話/Loveit
梨乃の家から一度、自分の家に戻る。洋服を着替え終わった後、また急いで家を出て美沙の家まで向かった。
新年の街並みは華やかで、人が沢山歩いている。電車の中も神社にお参りに行く人達で溢れ、今日が改めて1月1日なんだと思った。
新たな年が今日から始まる。今年の私はどんな私でいるかな?どんな私で入れるのかな?
地下アイドルから早く抜け出したい。早く人気アイドルになりたいよ。
今年も初夢を見なかった。いつも通りの朝を迎え、目が覚めるだけ。
初夢は今年1年を占うものだ。何も夢を見ないのは何も変わらない暗示なのかな?
なんてことを考え…苦笑いする。余りにも幼稚だし、夢に縋りすぎだ。
◇私の夢はアイドル
◇私の夢は女優
この2つの夢を叶えるために、いつも何が足りないのかなと落ち込みながら考える。
そして、街中に飾ってある大好きなアイドルの看板を見るたび絶望的な差を感じる。
私は10代ではなくなるが怖い。時間のタイマーが動き、私のアイドルとしての時間制限が発動したみたいな気持ちになるから。
ダメだな。やっとメジャーデビューするのに全く前向きな気持ちになれてない。
梨乃に負け、他のアイドル達に負け、私の人生は負けっぱなしだ。いつも敗者組。
冬は寒すぎる。私の心は一年中真冬で、私の心を冷やし凍らせる。
松本梨乃.side
あまりにも幸せの時間は短い。みのりは朝になるとすぐに帰り、取り残された私はずっとベッドの上から動かず、天井を見上げる。
昨日はみのりが私を選んでくれたことが嬉しかったけど、今日のみのりは谷口さんの方へ行き、寂しい気持ちに押しつぶされそうだ。
また私を選んでほしい、私と一緒にいてほしいと言ってしまうと私は我儘な子でみのりのことを何も考えていない子になる。
だから、言えるはずもなくみのりを送り出したけど、みのりとずっと一緒にいたかった。
今日は元旦で、お母さん達は神社にお参りに行き、娘の私はパジャマのまま自室に閉じこもり現実逃避をする。
最近の私は情緒不安定で、喜怒哀楽がおかしい。自分をコントロールできなくて、みのりに迷惑ばかりかけている。
誰かにこの苦しみを相談できたら楽になるのかもしれない。でも、みのりへの恋心は誰にも言えずにいる。どう相談したらいいか分からないし、誰に相談したらいいのかも分からなくて、モヤモヤだけが溜まっていく。
情緒がおかしい私は自然と涙を流す。感情をコントロール出来なくて止められない。
前途多難すぎる恋。恋がこんなにも難しくて大変だと初めて知った。
私とみのりの関係は変わるのだろうか?このままだと時間だけが過ぎていきそうだ。
どうやったら、みのりを振り向かせることが出来るの?どうやったら意識してもらえる?
私が女の子だからダメなのかな?みのりが女の子だからダメなの?マイノリティーとか同性と私にはどうでもいいのに。
好きな人は変えられない。それが恋だし、簡単に変えられる恋は恋じゃない。
私はみのりと恋人になれるなら何でも出来るし、アイドルだって…辞められる。
いつのまにか寝ていた私は外が暗くなっていることに気づき、ため息を吐く。
寝正月をし、きっと親にはだらけていると思われていそうだ。でも、考えすぎると脳が疲れ、眠気が襲ってくる。
カーテンを開け、窓を開けると気持ちのいい風が入ってきた。まだ気温は寒いけど頭を冷やしたい私には丁度いい。
明日は今年初めのライブの日だ。目は腫れてはないと思うけど、一応あとで確認をしよう。みんなに心配をさせてしまう。
下に降りるとお母さん達がいて、私はお腹空いたーと言う。お母さんに「いい加減、着替えなさい」と言われ、どうせ着替えるならとお風呂に入ることにした。
シャワーを浴びると更に頭がスッキリする。
私は変わると決めている。もう、昔のように我慢するだけの日々から脱却する。
昔は昔、今は今
私は中学生の時、クラスメイトに虐められた。理由は分からない。根暗だったからかな?でも、今はそんなのどうでもいい。
アイドルに出会い、アイドルに勇気をもらい、人生の楽しみを覚え、憧れのアイドルになり、大好きなみのりに出会えた。
人生は自分次第で変わる。恋もきっと自分次第で変わるはずで初恋を実らせたい。
だって、みのりが悪いんだもん。優しくて、頼り甲斐があって、可愛くて、みのりは私が憧れていたものを全て持っている。だから、みのりの周りには人が集まる。
タオルで髪を拭き、リビングに行くとご飯が出来ており、私は早速椅子に座った。
お腹が減っては戦はできぬって言うように力を蓄えないといけない。
恋は私を図太くさせ、強くさせる。悪い部分もあり、良い部分もあるけど気にしない。
猪突猛進に進まないと何も変わらないと知ったし、何も変わらない方が嫌だ。
ご飯を食べ、お腹を満たしていく。朝も昼も食べてなかったからお腹が空いていた。
今日は体重を気にせず食欲を解禁し、力を蓄えるためにいっぱい食べる。
みのりへの恋は持久戦だ。みのりに振り向いてもらえるまで私は攻めていく。
この恋は後ろに下がることはない。初恋で私を変えてくれた恋だから諦めきれない。
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