第38話/溢れ出るエレジー

携帯のアラームで目を覚ます。隣には昨日、私の家に泊まった美沙がおり、今も気持ちよさそうに寝ている。

結局、私は今年のクリスマスも美沙と過ごしている。なぜか、美沙に恋人がいない期間と被るのだ(私もだけど)


美沙を起こすため、美沙の額を軽く叩く。ペシっと音が鳴り、寝ていた美沙が「うぅん」と声を出しながら目を覚ました。

目が合うと「おはよう」と言われ、おはようと返すと目尻を下げて美沙が微笑む。


「そろそろ起きるよ」


「もう、そんな時間か…」


今も眠そうに顔を枕に埋め、二度寝をしようとする美沙の体を揺らす。

きっと、このまま放置すると美沙はまた寝るだろう。それでは私が困る。美沙は大学が休みでも私は仕事なのだ。


「揺らさないでー」


「じゃ、起きて」


ベッドの上で駄々をこね、なかなか起きようとしない美沙に遅刻するからと腕を引っ張り、無理やり起き上がらせた。


「ほら、着替えよう」


「うん…」


「こら、立ったまま寝ようとしないで」


美沙といると私が保護者で親みたいになる。美沙も分かってて甘えてくる。


「へへ、温かい」


「私を布団代わりにしないの」


「少しぐらいいいじゃん」


私の背中に抱きついてきたと思ったら、私を布団の代わりにする美沙。結局は私が負けてしまう。美沙が満足するまでジッとして…

だからかな、、一度、クラスメイトに「美沙に弱みでも握られているの?」と聞かれたことがある。


私は呆れてすぐに否定したけど、クラスメイトからは私と美沙の関係がそんな風に見られているのかとショックだった。

ただ、私は美沙にだけ異常に優しいらしい。でも、それは美沙が私の一番の親友で、唯一の味方だったからだ。


「美沙、そろそろ着替えよう。仕事に遅刻しちゃうよ」


「分かった」


そういえば、昔…美沙に友達について聞いたことがあった。美沙は誰とでも話すけど私以外の人と遊ぶことをしなかった。


ずっと、私とばかりで…


その時に美沙に他の人と遊びに行かないの?と聞いたら「みのりがいいの」と言われ、美沙は外見と違う部分が多い。


大学生になっても美沙は私とばかり遊ぶ。勿論、美沙には友達はいるけど泊まりも遊ぶのも私だけ。ただ、唯一私が行かない飲み会的なものだけは私以外の人達と遊ぶ。

美沙は不思議な子だ。時々、何を考えているのか分からない時があるし読み取れない。





谷口美沙.side


みのりは昔から、ちょっと変わっている。私に甘くて、優しくて、みんなの王子様。

そして、距離感バカで自分自身のことを何一つ分かっていない。みのりは同性相手になると何も考えなくなるのだ。


どれだけ肌同士が触れ合っても、みのりの中には【女同士】だからがあり、意味を考えようとしない。これが普通と認識する。


私はみのりの毒牙にかかった。うーん、これでは流石に言葉が悪いかな?

でも、意味合い的には合っているし、良い意味で言うならみのりに囚われてしまった。


私の全てを受け入れ、さりげなく守り…私はみのり無しでは生きれなくなった。

私には友達がみのりしかいない。みのり以外はただ話すだけの人。あとは、暇つぶし。



高校2年生の時、初めてみのりと同じクラスになり私達はすぐに仲良くなった。ずっと一緒にいるようになり、私は初めて自分が周りからどう思われているか知る。


私は嫌われ者だった。恋愛に対して猪突猛進だったから悪い子だったみたい。

裏では煙たがれ、陰口を言われ、優等生ばかり集まる学校だったから表立ってのイジメはなかったけど知った時はショックだった。


唯一の味方がみのりで、みのりは常に私の隣にいてくれて、私を守ってくれた。

学校は暗黙のカーストがある。みのりは成績上位で運動神経も良く、顔も可愛いから人気が高くクラスメイトの憧れの的だった。


だから、みのりの親友の私にも優しくする。みのりの隣を奪いたいと思いつつ、表面上平穏に接し、裏で文句を言う。


そんな私の人生はみのりに依存している。もし、彼氏と一緒にいてもみのりから「会いたい」と言われたら会いにいくし、約束もドタキャンする。私の一番はみのりだから。


「みのり、ハグしたい」


「えっ?」


「早くー」


「仕方ないな」


みのりは本当に不思議な子だよ。私の我儘を全て受け入れ、断らない。

でも、ダメな子でもある。だけど、そんなみのりが大好きだ。私の前では、ずっとダメな子でいてほしい。


私とみのりは共存関係。

みのりは私を求め≒私もみのりを求める。

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