5-6:雨に濡れるはカルミアの花
一週間目が終わる、最終日。
日曜日の朝のことである。
冒険者たちの寝泊まりする部屋に、軽いノックの音が響いた。
扉を開けた先にいたのは、小柄な金髪のルーンフォーク―――ナンディナだ。
ナンディナ : 「朝早くにすみません。少しご相談がありまして」
シエル : 「相談事と言うのは?」
ナンディナ : 「……『壁』の話なんです」
ソレル : 「あー、北西の見えない壁」
GM : はい。冒険者たちが聞き込みなどしていたこの一週間、騎士団でも調査を進めていたようです。分かったのは以下の通り。
・騎士団が来てからの数週間の間で、町の若者が何人か行方不明になっているらしい
・蛮族らしきものの足跡や痕跡はあるが、それがすべて、騎士団が立ち入ることのできない北西の壁の方に続いているらしい
・どうやら、街の住人は『壁』を問題なく超えられるらしい。
GM : 以上のことから騎士団は、この壁を蛮族の妨害と考えているようです。騎士団は今秋から壁の警戒網を強め、『壁』をどうにか出来ないか探るようですね。
ソレル : 「通り抜けられるかどうかは、『壁』を造った人が通したいか否かなんじゃない?」
ナンディナ : 「通したいと思ってるかどうか……?」
ソレル : 「鍵持ってる人は鍵のかかったドア通れるでしょ? 壁通れる人は壁の通行証持ってるみたいなものなんじゃ?」(欠伸をしながら)
ナンディナ : 「では、我々が『壁を作った人が通したい人』になればよい……? しかし、そんなこと、できるのでしょうか? 何が壁を作ってるのかもわかりませんし……」
ソレル : 「そうなのよね……行方不明者の足取りって追えてたりは?」
ナンディナ : 「……いえ。恥ずかしながら、そこまでは……」
リズ : 「順当に考えたら、その人を襲ってる蛮族が作った壁ですよね?」
アル : 「じゃあ、壊さないといけないですね……!」
『壁』の原因究明に向けて、奮起する一同。しかし、それを何処か冷めた目で見ているのは、ソレルとシエル―――前回のループを覚えている二人だ。
『壁』がルフラン信仰に関連していると睨んでいる二人としては、当然の反応だろう。
ナンディナ : 「……どうか、されましたか?」(おそるおそる)
シエル : 「……いえ、行方不明者がどのような扱いをされているのかを考えておりまして。聞き込みによると、この島土着の信仰には生贄―――成人したばかりの人が、聖域で神に祈りを捧げるという慣習があるらしく」
ナンディナ : 「い、生贄ですか。初めて聞きました」
シエル : 「ええ。なのでその行方不明事件も、蛮族の犯行がどうかは断定しきれないかと」
ソレル : 「壁の警備を固めるのはいいと思うけど、必ずしも蛮族が作った壁って決めつけるのも違うかなって思ったりしてさ」
アル : ソレルさんがほんとに大人で。頼りになります……!
ソレル : いいですか、こんな大人に騙されちゃダメですよ?(一同笑)
アル : ソレルさん裏切るってホントですか???
ソレル : (口笛)
シエル : 「一連の犯行が蛮族のモノと決めつけず、ルフラン教についても並行して調査したほうが良いかと」
GM : その説明を聞くと、ナンディナは絶句します。まさか、人族同士で行方不明者を出しているなんて。それも信仰絡みで。
リズ : この流れだと、ルフラン教=邪教に映るでしょうね。
アル : 蘇りの肯定とか、蛮族との融和とか、結構邪教要素ありますよね……。
ソレル : 人身御供とかにも理由があるんだろうけど、ティダンみたいな真っ当なトコと比べたら邪教だよね。
ナンディナ : 「……レイダー様に報告してきます!」
GM : そういって、ナンディナは急いで退出します。まぁその後、皆さんは朝の支度なんかもすると思うんですが……暫くして、別の人物がやってきます。青髪のプリースト、セルフィですね。彼女は、血相を変えて部屋に転がり込んできます。
セルフィ : 「皆さん、手を貸してください!」
アル : 「ど、どうしました!?」(びくっ)
セルフィ : 「イグナチオさんのご息女が、この建物の玄関前に倒れてたんです! どうやら、酷く弱ってるみたいで……!」
GM : セルフィの後ろから、ディナが誰かがを俵抱きしてやってきます。ソレルとシエルはわかるでしょう。彼が抱えているのは、この時間軸のカルミアです。
ソレル : 「カルミアちゃん!」
リズ : 「え、ちっさ!?」←(記憶がない)
アル : 「だ、大丈夫ですか!?」←(記憶がない)
担ぎ込まれた少女、カルミアは意識を失い震えている。びしょ濡れの身体は、冷えきっていることが容易に見て取れた。
セルフィ : 「あれ?皆さんお知り合いで―――いやいや、そんなことよりちょーっとお邪魔しますね!今、部屋空いてないので!」
シエル : 「先ずはお湯と毛布ですね、持ってきます」
ナンディナ : 「助かります、シエル殿……! ディナはレイダー様に報告を、セルフィは看病を頼む!」
GM : それだけ言い終えると、ナンディナはまたすぐに退場します。
ソレル : 「大丈夫……?」顔を触ってみたりする。
GM : 肌は氷のように冷たいですが、皆さんが看病してくれるなら、徐々に血の気も戻ってくるでしょう。
シエル : ……なあソレル。カルミアさんって確かシランって子に連れてかれてたよね?
ソレル : 今回もそうとは限らないけど、そうだった、と思う。
シエル : だよね。もしかして今回と前回のループで、何か違ったりするんだろうか?
ソレル : さぁ……。向こうは向こうで思惑があるんじゃない?
事情をある程度知る二人が小声で相談をしていると、ぱちり、とカルミアが目を開く。一瞬ぽかんとした表情のあと、彼女は、大声で泣き出した。
GM : (ころころ)……では、アルさんに飛びついてきます。
アル : 「だいじょ……えっ!?」え、えーと。とりあえず体もまだ冷えてるでしょうし抱きしめて撫でてあげます。
リズ : その上から毛布できゅーっとくるみます。
セルフィ : 「……何かあったのでしょうか。いえ、何事かはあったのでしょうが……ともあれ、一先ず大丈夫そうですね」
GM : えぐえぐ泣き続けたカルミアはアルさんにしがみついて……そのうち、泣きつかれたのか、寝てしまいます。
アル : 「この子、カルミアさん……ですよね?」
ソレル : 「そう。この頃の」
リズ : 「成人してるとか言ってませんでした? あ、いえ、エルフなので感覚がおいついてないだけかもしれませんが」
ソレル : 「……えっ、そうなの!?」指折り数えている。ひーふーみー。「30の15年前だから……15歳、か……そっか……」かるちゃーしょっく。
アル : 「15歳……ぼくより年上……」でも抱き着いてるの可愛いですね。なでなで。
ソレル : ……なんですかねこのジェラシー。まあいいんですけど!
カルミアはそれきり眠りこけてしまい、騎士団に預けられることになる。
イグナチオ家からも「騎士団の方々がいらっしゃる場所の方が安心」とのことだ。
少しばかりの騒動を経て、時計の針は進んでいく……。
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