5杯目 デアイとしろっぷ。
私達が出会ったのは丁度2年前くらいの事だった。
私の友人達がボードゲーム大会をする時に連れてきたのが彼だった。
「初めまして」
「あっ、はっ、初めまして!」
(うそうそ、こんなイケメン来るなんて聞いてないんですけど!)
思えば私は柄にもなく一目惚れだっただろう。というか私は人と付き合った経験がまず無かった。
「初めまして、君、名前は?」
挨拶すら覚束無い私にも彼は優しかった。
「えっ、とっ、伊豆木です!」
「伊豆木? 下の名前は?」
「凛です!」
「凛ちゃんかぁ。僕は茶畑隼人、よろしくね」
「はい、!」
はっきり言って今でもこの挨拶は後悔している。
挙動不審すぎてヤバい人みたいになっていたに違いない。
そんなこんなでボードゲーム大会が始まる。
私は料理を作る方に徹する。その方が好きだし何より友人から参加費を貰っているのだ。これも商売。
私がおつまみを作っていると彼がやってくる。
「参加しないの?」
参加しない私を心配してきてくれたのだ。
「私……こうやって何か作ってる方が好きなんですよね……それにあいつからお金も貰えるし!」
私はそう言って友人を指差す。
「だから参加費がどうこう言ってたのか……それで?今は何作ってるの?」
「今は……」
と話そうとした時
「おい隼人、始めるぞ〜」
という声が聞こえた。
(あっ……いっちゃうんだ)
と思っていたが、
「あー、僕凛ちゃんと話してたいからパス。どうせ次のゲームから僕が全部勝つからワンゲーム譲ってあげるよ」
(今なんと!?)
「お前がそんなこと言うの珍しいな……まぁ分かった、先やってるわ」
「うん、楽しみにしてるよ」
そう言って彼は再びこちらを向く。
「あっ、今作ろうとしてるのはカプレーゼとそれは……?」
彼は材料の中の1つのボトルを指差す。
「あっ、これは『カスカラシロップ』って言って珈琲の実から作られたシロップなんです」
「何それ苦そうだね」
「えへへ……舐めてみます?」
「じゃあお言葉に甘えて」
スプーンで少しシロップをすくって彼に持っていく。
彼はそれを口にするがその時の女性のような艶やかな唇にドキッとしてしまった。
「ん! 甘いんだね、さくらんぼみたいだ」
「でしょ! ……あっ、ですよね!」
「あはは、敬語やめてよ、同い年だよ?」
「あっ、あはは、どうしても緊張しちゃって……」
彼は男でも振り返るほどの美貌の持ち主だった。
そんな人を前にして緊張しない訳が無い。
「おい!隼人そろそろ来い!」
友人が彼を呼んだ。
「あっ、そろそろ行かなきゃ怒られるみたい。またね」
彼は手を振って友人達の所へ行った。
私も小さく手を振り返した。
一通りのゲームも終わったらしく全員寝てしまった後のこと。私は片付けを始める。
「ん……」
片付けをしていると彼が起きてしまった。
音で起きてしまったのだろうか。
「あっ、ごめんなさい起こしちゃった……?」
「んん……1人で片付けしてるの?」
「他にやる人もいないし、私の家だし……」
「じゃあ僕が手伝うよ……ふぁぁ」
彼はそう言って体を起こした。
「いや、大丈夫だから寝てて!」
「さすがに見ておいて寝れないでしょ」
「んん……申し訳ないです……」
「逆に何もしない方が申し訳ないから手伝わせてください、この食器はここ?」
「あっ、うんそこ」
彼はそう言って最後まで手伝ってくれた。
「て、手伝ってくれてありがとう!」
「どういたしまして」
私は彼に何かお礼をしようと思い考えた。
「あっ、珈琲って飲める?」
頭に思い浮かんだのは私が唯一、人より得意なことだった。
「珈琲? うん、インスタントは毎日飲んでるよ」
「良かった! じゃあ少し待っててくださいっ」
「う、うん?」
私はそう言って準備を始める。
珈琲豆を挽いてマシンに入れる。
「へぇ、凛ちゃん珈琲作るんだ。その機械はエスプレッソマシンだったんだね」
「これが私の仕事だからねっ」
「珈琲淹れる仕事してるの?」
「うん! 喫茶店営業をしてるの」
「だからあんなに料理も上手だったんだね」
「んえ……そうかな、なら良かった」
彼に褒められるのはとても気持ちが良かった。
私は彼の目の前でハートの形のラテアートを作った。
と、特にハートの意味は無い。
「おお、凄い……」
「どうぞ。ラテアートでございます」
「これは飲むの勿体なくなるね」
「えへへ、ラテアート最初に見た人は必ず言うよ」
「そう言えば何処にお店あるの?」
「えっと私のお店は……」
彼の隣に座ってスマホで場所を彼に教えた。
「へぇ! 意外と近いね、今度お邪魔するよ」
「うん、待ってる」
いつの間にか私は彼と打ち解けていた。
かなりの時間話した後に私は少し眠くなってしまった。
少し目を瞑って開くと。
私は彼の膝の上で寝てしまっていた。
「あ、起きた」
「うわぁっ!?」
「僕の顔を見た途端に化物を見たような顔をするのは少し傷付くなぁ」
彼はそう言って笑っていた。
「いや、ごめんなさい……さすがに驚いたもので……」
「凛ちゃん急に寝ちゃうからびっくりしたよ」
「今何時、?」
「まだ6時。3時間しか寝てないんだからもう少し寝たら?」
「はやとくんはどうするの?」
「僕は今日仕事だから早めに失礼するね」
「あっそうなの!? 遅くまで付き合わせてごめんね?」
「いやいや、楽しかったよ、ありがとう。また遊ぼうね。次は2人で」
「……!」
私は大きく頷いて答える。
「うん!」
彼はその後帰っていった。
凄く身体が熱かった。
その後は特に何か代わり映えがある訳ではなく
普通に2人でデートをしたりして……今に至る。
彼が珈琲にハマったのは最近の話だ。
「……というわけなんだけど、そこまで面白い話でもないでしょ?」
「うん! 凛の顔面偏差値が功を奏したんだな!」
「顔以外魅力無いみたいな言い方やめて」
「じゃあさじゃあさ……」
霞が何かを聞こうとした時にドアのベルが鳴った。
「いらっしゃいませ〜……今日はここまでっ」
「ええ〜」
「また来なさい」
「仕方ないなぁ……次は家に行くからな〜!」
霞はお代を置いて店から出ていった。
お店を閉じて家に帰ると彼が先に帰っていた。
霞に思い出話をしたから『いつも』以上に意識してしまう。
「あ、凛ちゃんおかえり」
彼はそう言って微笑む。
「たっ、ただいま!」
私は彼に聞きたかったことを聞くことにした。
「は、はやとくんっ!」
「うん?」
「はやとくんは、いつ私の事好きになったの……?」
「何で急に……?」
「知りたくなったからです!」
彼は少し困ったような顔をしてから答えた。
「実は友達に凛ちゃんの写真見せてもらった時に凄くタイプでどんな性格なんだろうって思って紹介してもらったんだ。その上に理想通りの性格だったから、恥ずかしくて言わなかったけど、一目惚れみたいなものかな」
そんな事があったとは知らなかった。
しかしとてつもなく私は嬉しくなった。
「凛ちゃんはいつ僕のこと好きになったの?」
彼は両手で私の顔を包んで聞いた。
「〜〜〜〜〜〜っ!」
私は逃げようとするが、彼が私を逃がさなかった。
「だめ。答えて」
「いじわるだ!」
「僕に答えさせておいてそれはないよね!?」
「一目惚れです! かっこよかったです! 愛してます!」
私はあの時以上に熱くなっている体をバタバタさせながら答えた。
「あはは、凛ちゃん顔真っ赤」
「う、うるさいうるさい! 私お風呂はいるー!」
「えー一緒に入ろうよ」
「今日はむりー!」
私は今日も幸せだった。
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