なんだかんだで楽しそう


「助けろよ、花宮~」

と戻った職場の廊下で藤崎が文句を言ってくる。


「いや、なんだかんだで、美女ふたりに囲まれて楽しそうだったから。

 藤崎も清水も呑み会来られることになってよかったじゃない」


「いや、開催が危ぶまれてる呑み会だろ?

 お前がまだ瀬尾さん、誘ってないから。


 あの人、もう支社に帰ると思うぞ」


「嘘ーっ。

 やばい、早く誘わないと、賀川さんに殺されるっ」

と行こうとしたが、腕をつかまれた。


「いいよ。

 俺が声かけてきてやるよ」


「えっ? ほんとにっ?」

と萌子は喜ぶ。





 ……花宮が誘って、瀬尾さんが花宮に興味を持ったらいけないからな、と萌子の腕をつかみ、藤崎は思っていた。


 いや、瀬尾が萌子みたいなタイプが好みかはわからないのだが。


 自分がたぶん、萌子に気があるせいか。


 みんなが萌子をいいと言い出しそうな気がしていた。


 早く問題の霊を祓わなければっ。


 花宮が木によじ登って、課長と恋に落ちるリンゴをもぎとりに行ってしまいそうだっ、と藤崎は焦っていた。




 藤崎が、瀬尾を見つけ、

「瀬尾さん、帰られる前に一杯どうですか?

 瀬尾さんのお話、聞きたいですし。


 営業の賀川さんや剣持も来ますよ」

と廊下で誘った。


「ああ、さっきキッチンカーのとこにいたメンツ。

 いいねえ、美女ぞろいで。


 あの子もいるの?」


「えっ?」


「ほら、例の総司の彼女っぽい子」


 藤崎は無意識のうちに、萌子の名前を外していた。


 モテモテの瀬尾に萌子に興味を持って欲しくなかったからだ。


 だが、すでに瀬尾の中では、萌子は総司の彼女的ポジションにいるらしい。


 瀬尾はそんな藤崎を見て、にやりと笑う。


「なるほど。

 藤崎も萌子ちゃんが好きなのか。


 総司と同じ相手を好きになるとは、いろんな意味で前途多難だねえ」


「い、いえ、俺は別に……」


「それで今、萌子ちゃんの名前は出さなかったんだね。


 大丈夫。

 俺は萌子ちゃんには興味ないよ。


 総司が彼女を好きらしいと聞いたときから、興味はないよ。


 俺も総司もモテるのに、女の子ひとり取り合って、同期の仲を壊すことないよね」


 ……すごい余裕だ。


 他の人が言ったら、嫌味っぽくなるかもしれないセリフだが。


 なにかこう、言動が突き抜けすぎてて腹が立たないっ。


 師匠と呼びたくなる感じだっ、と藤崎が、というより、藤崎に憑いているヘタレの霊が思っていた。


「なにそれ、俺も混ぜてよ」

さとしがやってくる。


「でもさ。

 今の発言、問題があるよ」

と理が瀬尾に言っていた。


「同期の仲を壊すのは、美女じゃなくて、先に昇進した総司に対するお前の嫌味だろ」


「総司だから言ってんだよ。

 他の奴なら言わないよ。


 あいつ、ああ見えて、人の話、なんにも聞いてないから、遠慮なく不満をぶつけられるんだよ。


 昨日だって、真面目な顔で俺の話に頷きながら、途中からたぶん、違うこと考えてたよ」


「キャンプのこととか考えてそうですよね」

と藤崎も苦笑いして同意した。


「まあ、心配するな。

 俺は萌子ちゃんには興味ない。


 だって、総司が気に入ってる子なんだろ?


 ちゃんと話したことないけど、絶対、変人に違いないって思ってるから」


 さすがっ、女性に対する洞察力、半端ないっ、と藤崎は理と目を合わせ、笑ってしまった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る