次のステップに進みなさいっ


 やっぱり、課長、私のことなんて、なんとも思ってないような、と思いながら、萌子は藤崎のあとにアパートまで送ってもらう。


 来週はまた、神社近くのキャンプ場に行くので、キャンプの荷物は祖父母の家の納屋に置いていた。


 アパートに持って入ると、かさばるからだ。


「ありがとうございました」

と萌子は頭を下げたが、総司はすぐにはスタートせずに、ちょっと黙ったあとで、


「……別にお前のことを蚊やハエと同列に扱ってるわけじゃないからな」

と言ってきた。


 もうその話題、忘れてましたけどっ。


 もしかして、ちょっと例えが悪かったかな、とずっと思ってくれていたのだろうか、と思い、嬉しくなる。


 まあ、同列に扱ってるわけじゃないからな、とわざわざフォローされると、余計、同列に扱われている気がしなくもないのだが……。


 だが、わざわざ悩んでそう言ってくれたことが嬉しく、萌子は手を振り、総司を見送った。


「今週もお世話になりました~」





「お世話になりましたじゃないでしょっ」


 社食で多英にいきなり怒られ、萌子は、ひっ、と身を縮める。


「次のステップに進まなきゃっ」

と言う多英の横で、めぐたちも、うんうん、と肯いている。


 次のステップ……?

と考えた萌子は、


「ら、来週もよろしくお願いします?」

と言ったが、


「次の意味が違うっ」

と多英にスマホで軽く頭を小突かれた。


 あーっ、と叫んだ多英が早口にまくし立ててくる。


「なんでこんなぼうっとしてて。

 あんなイケメンの出世頭が捕まえられるわけっ?


 可愛いからっ?

 

 いやっ、私の方が美人よねっ?


 スタイルがいいからっ?


 私もいいわよっ。

 しかも、私の方が出るとこ出てるわよっ!


 でもま、なんだかわかんないけど、課長にとっては、あんたの方が優れたところがあるんでしょうよっ。


 あんた、そこで言うセリフは、

『どうぞおあがりください』よっ!」


 多英は散々文句を言いながら、流れるようにアドバイスまでしてくれる。


「いや~、でも、キャンプの日は朝バタバタで出てるんで、課長におあがりいただけるような部屋じゃないんですけど……」

と萌子が苦笑いして言うと、


「じゃあ、平日に誘いなさいよっ」

と多英が言ってきた。


「いやあ、平日は朝、ドタバタで出てるんで、課長におあがりいただけるような部屋じゃな……」


「あんたの部屋、いつ、男をあげられるのよっ!」

と多英がキレはじめる。


「萌子、いっそのこと、家片付けたまま、家に住まないでスタンバイしてたら?」


 笑って、めぐがそう言い出した。


 ええっ?


「普段はホテルとかに住んでて。

 課長に送ってもらうときだけ、アパート帰ったらいいじゃん。


 そしたら、どうぞ、おあがりくださいって言えるでしょ?」


 そんなめぐの無茶な提案に、多英が、


「いやそれ。

 最初から、ホテルに呼んだらいいんじゃないの?」

と冷静なことを言ってきた。


 いや、なんでですか……と思いながら、萌子は先に肉だけ食べてしまった肉ソバをすする。





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