どうしましたっ!?
「総司が女の子と手をつないで、あははうふふとショッピングモールをデートする日が来るとはねえ」
次の日、社食で総司は、同期の
思わず、箸を取り落としそうになる。
「いや、実家に遊びに来てた姉貴のとこの子にマンガ買いに連れてけって閉店間際に言われて、行ったんだよね、ショッピングモールの本屋に」
と理は言ってくる。
「あ、あれは花宮が好きな雑貨屋が閉まりそうだったからっ」
メスティンとキャンドルを買った話を理にすると、
「キャンドルはいいけど、キャンプ道具かあ。
いつもそういうのばっかりあげてるの?
たまには、なんか派手なものもあげたらいいと思うよ。
女の子が喜びそうなもの」
と言われた。
女子が喜びそうな派手なものってなんだ?
っていうか、一般的な女子が喜びそうなものを一般的な女子ではない花宮が喜ぶだろうか?
と総司は疑問に思う。
「ベタだけど、花束をいきなり渡すとかさ。
意外と喜ばれるみたいだよ。
でもまあ、花宮さんが喜んでるのなら、それでいいのかもね。
付き合いはじめの頃なんて、なにもらっても嬉しいからさ」
と理は言ってたが、総司はすでに聞いてはいなかった。
一般的な女子が喜ぶもので、花宮ですら喜びそうなものってなんだ?
実用的なものか?
実用的で喜ばれるもの、と言うと、海苔とか洗剤とかの中元歳暮な品が浮かんでしまう。
……海苔とか洗剤は違うな。
可愛らしくカルピスの詰め合わせとか。
……いや、絶対違うな。
さすがの総司にもそれはわかった。
社食から戻るとき、総司はエレベーターを待つ萌子に出会った。
少し早い時間だったので、他に誰もいなかった。
「課長ももう戻られるんですか?」
と言いながら、萌子は部署のあるフロアのボタンを押す。
花宮とふたりきりになってしまったぞ、と思いながら総司は萌子に呼びかけた。
「花宮」
はい? と萌子は総司を見上げる。
「……いつもキャンドルとかしか買わないから。
マンションか車でも買ってやろうか」
どうしました!?
という目で萌子に見られる。
「すまん。
そういう
いや、いい、忘れてくれ」
と言って、総司は着いてすぐエレベーターを降りた。
いや、柄ではないとかいう問題ではない……と思う萌子に見送られながら。
週末、その話を総司から聞いた司は、
「それは不器用なことだな」
と言ったあとで、ほれ、と家にあったキャンドルをひとつ持ってきた。
「萌子と隅の方でつけてみろ」
と司は言う。
総司は、祖父母と藤崎と共に、境内で話していた萌子を手招きする。
日が落ちかけた薄暗がりで、司に言われた通り、細長いガラスの器に入ったコーヒーミルク色のキャンドルに火をつけると、パチパチと薪が
芯に自然木を使っているので、このような音がするらしい。
揺れるオレンジ色の光に萌子の笑顔が照らし出された。
「わあ。
焚き火してるみたいですね」
……なんかすごい喜んでる。
マンション買ってやろうと言ったときは、全然、喜んでなかったのに。
花宮がもらって、ほんとうに嬉しい物はなんなのか。
してもらって、ほんとうに嬉しいことはなんなのか。
それを知ることは、マンションを買ってやることより、ずいぶん難しいことのような気がする。
でも……と総司が萌子を見つめると、萌子は、ふふふとこちらを見上げて笑ってくる。
……可愛い。
ウリ坊より。
そう思いながら、総司は振り返り、司に礼を言った。
「あ、ありがとうございます、司さ……」
司は上を見てなにか言っている。
……誰に? と見上げたそこには、ダイダラボッチがいた。
もしや、ダイダラボッチと話してる!?
俺でもまだ話せないのに。
やはり、神っ!?
と見上げていると、それに気づいた司がこちらを向いて言ってきた。
「いや、耳がいいだけだ」
「耳?」
「ずっと小さな声で話していたようだ、ダイダラボッチ」
と言うので、総司はバチバチ言っている萌子の側から離れ、静かな場所で耳を澄ましてみた。
いや、萌子がバチバチ言っているわけではないのだが……。
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