おかしな意味じゃないからな


「……愉快な友だちだな」

と駐車場に向かって歩きながら、総司は言ってきた。


「は、はい、すみません」


 いや、楽しそうでなによりだ、と言う総司の横顔を見ながら、なんだか申し訳ないな、と萌子は思っていた。


「すみません。

 課長、呑めなかったですよね」


「いや、ノンアルは呑んでた。

 でも……」


 でも? と見上げたが、総司はこちらを見ないまま言ってくる。


「魚何匹かは焼いて食べたんだが。

 うまかったが、なにかちょっと物足りなかったんだ。


 お前がいて、なにかやらかしたり、大騒ぎしたりしながらじゃないと、パンチが足りないと思うようになってしまったようだ。


 ……おかしなものだな。


 俺はひとりが好きなはずなのに。

 キャンプもソロではじめたはずなのに。


 今は、お前がいないと、なんだか物足りないんだ」


 そう言ったあとで、総司は気づいたようにこちらを振り返り、

「……おかしな意味じゃないぞ」

と言ってきた。


 いや、おかしな意味ってなんですかね……とちょっと照れながら、萌子は言った。


「今はソログルキャンプも流行りらしいからいいじゃないですか」


 それぞれがソロでやりながら、料理だけ、とか焚き火だけ、とか気が向いたところだけ、みんなでやる。


 ソロの人たちがグループでやるキャンプが流行りはじめているらしい。


「ソロキャンと普通のキャンプのいいとこどりでいいですよね」

と萌子は笑った。


「明日は私も釣ってみたいです」


 などと話しながら、キャンブ場に着くと、藤崎が揺れる炎を瞳に映しながら、焚き火の前で膝を抱え、ふふふ……と笑っていた。

 

 どうしよう。

 妄想通りだ……。




「極端なやつだな。

 今度は火の好きな霊でも憑いたんだろうかな」


 暑いのに火の側から離れない藤崎を見ながら、総司が言ってくる。


 だが、そこから漂ってくる、串刺しになった魚の焼ける匂いがも言われぬ香ばしさで、たまらない。


 焚き火台の周りに刺してある魚を見ながら萌子は言った。


「おいしそうですね。

 でも、こうして並んで刺さっていると、残虐な処刑場に見えてきますね~」


「……食べる気なくすだろうが」

と総司に言われながらも、みんなでおいしくいただいた。




 焼き魚を食べたあと、まだ呑みながら、萌子は藤崎と流しで後片付けをし、総司は火の始末をしていた。


 総司の方をチラと振り返りながら、萌子は思い出していた。


「俺はひとりが好きなはずなのに。

 キャンプもソロではじめたはずなのに。


 今は、お前がいないと、なんだか物足りないんだ」


 そう言った総司の言葉を。


 ……なんだろう。

 照れますね。


 いや、おかしな意味で言ったのではない、と言われたので、そういう意味ではないのでしょうが。


 いつもいるメンツがいないと寂しいってだけですよね?


 私も、課長がいないキャンプだと味気ない気がするし。


 って、そもそも、課長がいない状態では、まだ、なにもまともにできないんですけどね……と思いながら、萌子は、せっせと食器を洗う。










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