ダイダラボッチはなんで課長に憑いてるんでしょうね


 後始末が悪く、焚き火台から出火した山火事をダイダラボッチが足で踏んで消してくれ。


「ありがとう、ありがとう、ダイダラボッチ!」

と人々がダイダラボッチを褒め称える夢を見て萌子は目を覚ました。


 よかったね、ダイダラボッチ……と夢なのに思う。


 枕が変わると寝られない、などということのない萌子は今日もテントで爆睡だった。


 朝、目覚めて意識が戻った瞬間。


 真新しいテントの匂いがしなければ、家で寝てたのかなと思ってしまうくらいだ。


「ダイダラボッチはなんで課長に憑いてるんでしょうね」


 朝食の支度をするとき、萌子は総司に訊いてみた。


「さあ、波長が合うんじゃないか?」


「波長かあ。

 そういうのあるかもしれませんね。


 チューニングを合わせるみたいに。


 私、最近、街中でもダイダラボッチが見えるようになったんですよ」


 何処でもダイダラボッチと波長が合わせられるようになったのだろう。


「……俺も霊と波長が合ってんのかな」

と電磁調理器でお湯を沸かしながら、藤崎は呟く。


「うーん。

 そうだねー。


 でも、あやかしは成仏しないけどさ。

 霊だったら、成仏するかもしれないから。


 霊の望みを訊いてみたらいいかもしれないよね。


 帰りにお兄ちゃんとこ寄って、話訊いてみようよ。

 お兄ちゃんにわかるかわからないけど」


「噂の司さんにか。

 ドキドキするな。


 でも、いろいろとまずいことまで見透かされそうで怖いな……」

と藤崎は怯える。


 いや、どんなヤバイ過去があるんだ……、

と苦笑いしながら、萌子も朝食作りを手伝った。





「いや~、しかし、山の朝は爽やかですよね~」

と言いながら、萌子はサイト内にある流しで洗ってきた野菜を木の器に盛り付けていた。


「すっと目が覚めますよ~」


「普段は寝起きが悪いのか?」

と電磁調理器でスープを煮ながら、総司が訊いてくる。


「普段は悪いです。

 いやあ、この間起きたときなんか、遅刻ギリギリで。


 なんで目覚ましならなかったんだろと思って見たら、目覚まし時計が布団に包んであったんです。


 そういえば、明け方、耳許でぴぴぴぴぴ……とずっと鳥が鳴いてたんですよね。


 それで、鳥だと思って、目覚ましを布団にくるんで抱いてたみたいなんですよ」


「いや、鳥、死ぬだろ……」

と総司が言う。


「でも、目覚ましって、いつも夢のいいところで鳴るんですよね~」

と総司が組み立ててくれたテーブルの上を拭きながら、萌子は語る。


「なんだかわからないけど、いよいよなにかの正体が明かされるっ!


 っていうところで、目覚ましが鳴ったりするんですよ」


「なんだかわからない、なにかの正体ってなんだ……」

と総司からツッコミが入ったが、とりあえず、スルーしてつづきを話す。


「で、その正体とやらが気になったので、目覚ましかけ直して、また寝たんですよ。


 でも、つづきはCMのあと、みたいな感じになっちゃって。


 あれって、CM明け、ちょっと話を巻き戻してからやるじゃないですか。


 あんな風にはじまっちゃって、なかなか正体にたどり着かなくて。


 いよいよ正体がっ!


 ってところで、目覚まし鳴って、また目が覚めちゃったんですよ。


 でも、やっぱり気になったので、また目覚ましかけて……」


「お前、よく何度も夢のつづきが見られるな」

と総司が呆れたように言ってきたが。


「いや、さすがに次は見られなかったんですよ。

 代わりに、遅刻しかける夢を見ました」

と萌子は言って、


「それ、夢じゃなかったんじゃないのか」

と総司に言われる。


「予知夢でしたね~」


 ははは、と笑ったあとで、萌子は総司の前の鍋を見て訊いた。


「ところで、課長。

 それ、スープですか?」


「そう。

 豆のスープだ。

 身体にいいぞ。


 そういえば、レンズマメは古代ギリシアでは媚薬だったんだそうだ」


 萌子は総司が炊いている鍋の中を見て言った。


「……これは、なんのスープですか?」


「ソラマメ」


 ……ですよね。


 蘊蓄言いたかっただけなんですね、課長。


 まあ、レンズマメより、ソラマメの方が好きかな~と萌子が思ったとき、鬱々とした表情で藤崎が言い出した。


「すみません。

 俺のせいで、課長まで火をつけられなくて。


 ……あ、花宮も」


 おまけのようにだが、私にも言ってくれてありがとう、と苦笑いして聞いていると、藤崎は更に謝りはじめた。


「そういえば、せっかく課長にお呼びいただいたのに、まだなにもサバイバル術をお教えできてないですね」


「そういえば、そうだな。

 じゃあ、なにかひとつ教えてもらおうか」

と総司は顔を上げて言ったのだが、藤崎は沈黙している。


「それが俺、不器用な人間なので、なにから教えたらいいのか思いつかないんです。

 今、ピンチになっていただければ、すぐに対処してみせられますが」


 課長、ピンチになってください、という顔で藤崎は総司を見ていた。


「……いや、そう言われても」

と困惑しながら、豆のスープを注ごうとして、総司は、

 

「そうだ。

 こいつなら、すぐにピンチになるぞ」

と萌子の方に視線を向ける。


「何故、そんなところにってところで、穴に落ちてたりするしな」


「いや~、あの穴、なんだったんですかね?」

と話していると、藤崎が、


「ありがたい神社の裏山なんだろ?

 なにか意味がある穴なんじゃないのか?」

と言ってきた。


「お前が言ってた島根の猪目洞窟みたいなものとか?」

と総司に言われ、


「いや、だったら、死に至ってしまうじゃないですか」

と言ったあとで、萌子はふと思う。


 実は私、あのとき、もう穴に落ちて死んでるんじゃ……。


「私、実は死んでるんですかねっ?

 じゃあ、きっと、これは死後の世界か、夢なんですよっ」


「待て。

 お前は死んでるのに夢を見るのか。


 いや、それ以前に、お前は死後の世界で、豆のスープを受け取り損ねて、辺りにぶちまけるのか」

という総司の言葉に下を見ると、総司がカップを渡そうとした瞬間に萌子が、


「死んでるんですかねっ?」

と言いながら、立ち上がったらしく、スープが少し土にこぼれていた。


 わああああっ、すみませんっ、と萌子は慌ててカップを受け取る。


 スープを飲み、

「あ、おいしい」

と言ったあとで、萌子は主張する。


「だって、

 課長と私がキャンプ友だちになるとか。


 現実にそんなことが起こるなんて、信じられないじゃないですかっ」


「いや、あやかしがそこ此処にいるのはいいのか……?」

と総司に言われ、藤崎には、


「俺とキャンプしてるのは、特になんの変哲もない日常なんだな……」

と言われ、いろいろと突っ込まれてしまったが。






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