ちっちゃいなにかがいるのかも……?
「もう夕食は食べてしまったが。
藤崎が来たので、せっかくだから、夜食をつくろうか」
と言ったあとで、おっと、と総司はテントの中に入り、携帯型電気調理器を持ち出してきた。
「火が駄目なんだったな。
これでやろう」
「課長っ」
と藤崎は感激していたが。
萌子は、
いや、あなた、どんだけキャンプグッズ買って、どんだけ持ってきてるんですか……と思っていた。
「でも、藤崎。
此処、キャンプ場なんで、あちこちで火を焚いてるけど、あれはいいの?」
と萌子は他のテントで暑いのに焚かれている焚き火を見た。
「いや、遠かったら別に。
でも、近くで火を焚かれたり、自分で火をつけようとしたりしたら、震えが来るんだ」
だから、煙草もやめた、という藤崎に、
「そこだけはよかったね」
と萌子は言ったが、
「いや、望まず強制的にやめる羽目になったから、煙草の禁断症状で震えが来て……」
と藤崎は言う。
火をつけてもつけなくても、結局、震えるんだな……、
と思う萌子の頭の中では、ゴツイ藤崎が何故か小さなフカフカの仔犬になり。
雨に濡れて、毛がフカフカでなくなり、震えていた。
「うーむ。
なんとかしてあげなければですね」
とその妄想のせいで、萌子は本気で悩む。
「……突然、そんな風になったということは。
突然、あやかしか霊にとり憑かれたという可能性もあるな」
藤崎は大真面目な顔で、あの課長があやかしだ、霊だという話をしているのを不思議そうに眺めていた。
「ウリは藤崎の後ろに激突してましたけど。
背後霊とかだったら、見えないですかね?」
いや、どうやって、と総司がこちらを見る。
「こうっ、素早く振り向くとかっ」
と萌子がやって見せると、藤崎も素早く後ろを振り向いてみている。
「見えないぞ、花宮っ」
「霊も一緒に振り向いてるからかなっ?」
とふたりでもう一度、やってみていたが、
「阿呆か」
と総司が呆れたように言ってきた。
「一緒に振り向いているとしても、霊の後頭部は見えるはずだろうが」
総司は、そう言ったあとで、真面目に検証したおのれを恥じるように、
「……いや、そうじゃなくて」
と仕切り直すように言う。
「藤崎は確かに振り向かないと見えないかもしれないが、俺たちはそんなことしなくても見えるはずだろう。
こうして見ていても、なにも見えてはこないんだが……」
と総司は目を細めて、藤崎の後ろを窺っている。
「ノミみたいに、ちっちゃいなにかがいるとかですかね?
小さいおっさんとか」
と萌子は藤崎の後ろに回り、藤崎の襟足の辺りを手で払ってみる。
「やめろっ。
くすぐったいだろうがっ」
と怒鳴られた。
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