……恐ろしいな、美形の威力
「せっかくお招きいただいたんですが、課長。
俺が課長にお教えできることなど、たいしてないんです。
自衛隊には長くいられなかったので」
と総司に勧められた椅子に腰掛け、藤崎は語り出す。
「なんでだ?」
と問う総司に、藤崎は困ったように言った。
「それが途中から猛烈に火が怖くなりまして」
「火?」
「野営の訓練中、突然、火が恐ろしくなって。
焚き火もできなくなってしまったんです」
「……何故だろうな」
と総司が呟いたとき、だだだだだ……と前方からウリがやって来たが。
自分たちの前で、急ブレーキを踏み、いなくなる。
「そういえば、ちょっと気になってたんですけど」
とUターンして逃げるウリを見ながら、萌子は言った。
「この間、ウリが藤崎に激突して、目を回してたんですよね。
普通、すり抜けてくのに」
ふむ、と総司は藤崎を見つめる。
ランタンの灯りに照らし出された美しい総司の瞳に真正面から見つめられ、何故か藤崎は恥ずかしげに俯いた。
……恐ろしいな、美形の威力。
同性さえも恥じらわせるとは……と思って眺める萌子の前で、総司が言う。
「前から思ってたんだが。
霊もあやかしも人間をすり抜けていくじゃないか。
彼らは人間とは構成されている物質が違うか。
違う次元に存在してるんじゃないかと思うんだよな。
見えはするけど。
だから、幽霊と幽霊とか、あやかしとあやかしなら、ぶつかって、おっと失礼、なんてこともあるんじゃないかと思ってたんだ。
いや、そんな現場は見たことないんだが」
萌子は想像してみた。
「おっと、ごめんなさいよ」
「いえいえ、こちらこそ」
と言い合う着物姿の幽霊たち。
まるでお化け屋敷の裏方さんたちのようだ。
ははは、と唐突に声に出して笑ってしまい、冷ややかに総司に見られる。
「……お前はいつも楽しそうだな」
……すみません、と思いながら、萌子は言った。
「え、えーと、つまり課長は、藤崎に霊かあやかしが憑いてると思ってらっしゃるんですよね?」
「それなら、ウリが激突するのも納得いくかなと思うんだが……」
うーん、と総司とふたり、藤崎を眺めたので、藤崎は居心地悪そうにしていた。
「何処にいるんですかね?
私、いまいち霊とか見えなくて」
「俺もだ。
そんなに見えるわけじゃない。
上にいるのかな」
と総司は上を見、
「周囲をぐるぐる回ってるのかもしれませんね」
と萌子は藤崎の周りを見る。
「それか背後霊ですかね。
ウリ、藤崎の後ろに激突してましたしね」
と言ったあとで、萌子は、うーん、と唸り、
「でも、藤崎、元自衛隊なんですよね。
背後に人とか立たれたら、
『俺の背後に立つな』とか言いそうですよね。
霊とかあやかしだと気にならないんですかね」
と呟いて、藤崎に、
「いや、お前の中の自衛隊員なんかおかしいからな。
それは別の職業の人だ……」
と言われてしまった。
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