全然、ソロでないソロキャンプがはじまりました


「俺が山に来なければならない理由は、これだ!」

と総司は空を指差した。


 いや、どれだ、と思いながら、萌子はまだ日が照っているので眩しい夏空を見上げる。


「これだ!」


 だから、どれだ……、と思いながら萌子は言った。


「兄と同じことをおっしゃいますね」


「そうか。

 おにいさんには見えていたのか。


 いや、おにいさんに見えてて、何故、お前には見えないんだ。

 そんな素早いあやかしつけてて」

と総司に言われる。


「素早い関係ありますか……?」


 むしろ素早く落ち着きがないモノをつけているから、こっちも落ち着きがなくなって見えないのでは、と萌子は思っていた。





「見えないのなら仕方ない。

 なにしに来たのかわからなくなったが。


 まあ、夕食でも作ろうか」

と総司は言い出した。


 そうですね、とふたりで煮炊きをはじめる。


「キャンプって、ほぼ野外炊事がメインな気がしますね」


「まあ、そこは人それぞれかな。

 何処に力を入れるかも自由だから」

と言いながら、総司は黒く重そうな金属の蓋付き鍋を出してきた。


「俺はとりあえず、このダッチオーブンを使いたい」


 なにを作りたい、とかじゃないんだ……。


 男の人、結構道具から入るよな、と思っていると、総司はクーラーボックスから、どん、と丸鶏を出してくる。


「やはり、此処はローストチキンだろう」


「ローストチキンですよね、やっぱりっ。

 ニンニクたっぷり入れて、皮パリパリのローストチキンですよっ」

と意見が一致する。


 鶏と一緒に、じゃがいもやニンジンやニンニクをゴロゴロ入れて、ローストチキンを作ることになった。


「ほら」

と総司がクーラーボックスに入っているビールや缶チューハイを見せてくる。


「好きなの、とれ。

 いいのがなかったら、受付前の売店でも売ってるぞ」


「あ、じゃあ、これ、グレープフルーツのを」

と萌子は缶チューハイを一本もらう。


「あとでお金割ってくださいね」

と言うと、


「いや、いい。

 俺が誘ったんだから」

と総司は言うが。


「いえいえ。

 私が課長に憑いてるなんだかわからないモノを知りたくて付いてきたんですから、払います」

と萌子は言った。


 萌子が缶を置いて、調理の手伝いをしようとすると、総司が、

「呑みながら作れよ。

 美味いぞ」

と言ってくる。


 はい、と缶を開け、吹き渡る山の風に髪をあおられながら、持ってる手が痛くなるほど冷えているチューハイを呑んだ。


「サイコーですねっ」


「最高だろう」

と総司も機嫌がいい。


 まだ料理は出来上がっていないが、ニンニクの匂いだけで、そこに美味しいツマミがある感じだった。


「ほんとうはパンも焼いてみたかったんだが。

 初心者なんで、一度にふたつはな」

と総司はビニール袋に入ったロールパンを見せてくる。


「さすが課長、職場以外でも慎重ですねっ」

とすばしこいあやかしと見えないあやかしに囲まれ、全然ソロでないキャンプがはじまった。








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