33 騒ぎ
ジンたち4人がダンジョンに入ってからしばらくして。
タルバンの町はかつてないほどの大騒ぎになっていた。
理由はもちろんジンが返り討ちにした襲撃者たちなのだが……先んじてタルバンという町の特徴を改めて説明しておく。
タルバンは世界有数難度のダンジョンを町の中に持ち、そこから
それは必然的に有力な冒険者、すなわち腕に覚えがありこれまで力で我を通してきた人間たちが集まるということだ。
そうなれば当然のように、殴り合いの喧嘩などは往々にして起こっている。それがタルバンの日常だ。
だが、今回は喧嘩の域を明らかに超えていた。
一夜にしておよそ20名の
加えて、彼ら全員が低くないレベルの持ち主であることもすぐに知れ渡った。死んでいたとしても、相手の状態を知る“観察”や“アナライズ”は適用できるためだ。
そして最初に死体が発見されてから間も無く、ルミオン家の兵士によって襲撃現場は封鎖された。これもまた、騒ぎを大きくする原因の一つとなった。
というのもルミオン家の兵士は基本、タルバンの住民が事件に遭わない限り動かないからだ。これは別に彼らが薄情であるからとかそういう話ではなく——冒険者たちにどう思われているかは別にして——伯爵家の方針としてそう決めているからだ。
先ほど述べたように、タルバンには腕っ節で成り上がった冒険者たちが集まる。それも世界各地から。
そうなれば必然、冒険者や商人の護衛が兵士たちのレベルを超えてくることもある。というかさほど珍しいことでもない。
それでもある程度の秩序が保たれているのは、兵士の中でも高いレベルの者が存在していることと、住民を巻き込む犯罪を犯した場合はその経歴だけでなく、恒久的な出入り禁止を言い渡されるからだ。
さてそんなわけで、大量殺人と兵士の速やかな動き。この2つの前代未聞が重なった事件に、噂好きの冒険者や商人たちは喜んで食いついた。
(おいおい、面倒ごとを嫌う門番どもがこんなにも早く動くなんてことあるのか?)
(実は市民だったとか? だとしたらこれをやった奴はこの町から追放だな)
(にしても早すぎる。俺は朝からいるけどよ、巡回が来る前に門番たちが来た)
(なんじゃそりゃ。たまたま門番どもの遠征にでもかぶったとか?)
(それより、レベル2桁の奴が20人も殺されるのは意味わからなさすぎるだろ)
(2桁のやつが20人……そんな冒険者パーティなんて居たっけか?)
(……さあ? 最近タルバンに来たとか?)
(それでこんな路地裏で返り討ちとか……どんだけ恨み買ってたんだこいつら)
(いやいやそれよりーー)
とまあこんな感じで、殺された側の素性、殺した側の素性や争いのきっかけに至るまで、多数の噂が飛び交い、それらの噂が人を呼び込み、さらなる噂を拡散させる、という循環を生み出していた。
そしてここにも、その噂に焚きつけられて動き出そうとしている2人組の冒険者がいた。
彼らが歩いているのは宿屋が多く集まっている地域。これまでの経験から、にわかに活気付き始める時間帯であるはずだが、既に普段の倍以上は騒がしい通りを歩きつつ、片割れの背が高い冒険者が呟く。
「んだよ、なんで皆走って南の方に向かってるんだ?」
その発言に、もう片割れの男が目を見開いて答える。
「知らないのか!? 南西の壁の近くでとんでもない数の冒険者が死んでるんだってよ! 耳ざといお前なら知ってるもんだとてっきり……」
「昨日俺が飲みまくったことくらい知ってるだろ? ……んで殺されたって、何人くらいよ??」
「俺も噂で聞いたくらいなんだが、30人とか言われているらしいぜ!」
「30っておい、大手パーティーもいいところじゃねえか! なんてパーティ名だよ?」
「知らん! でもみんな一目見ようと祭りみたいな状態らしいんだ、俺たちも行こうぜ!!」
「まあ昨日は馬鹿みたいに稼げてやることもないし? 気分転換に行ってみるのもーー」
と言っていると突然、男の肩に誰かにぶつかった。
すぐに男が向き直るが、肩にぶつかった人物たちは急いでいるらしく、先頭の青年だけが男に軽く会釈だけするとあっという間に遠ざかっていった。
「おい気を付けろよ! ……ったく、こっちは二日酔いで調子が悪いってのに」
「気にするなよ、それより俺らも行こうぜ。というか二日酔いとか珍しいな?」
「うるせえ」
そんな馬鹿みたいなやりとりをしながら、男たちは走り去った人物とは
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