2 人間(ヒューマン)とスケルトンと次の町
ジンがジェフ達の元を離れ、アンドレが加わってから3日。現在ジンは荷馬車の台車で揺られている。
『鉄槌』たちによる『華』への襲撃を退けたジン達は、次の町、タルバンに向かうことにした。
目的はタルバンにあるダンジョン。アンドレ曰く、そこに生息する魔物の平均レベルは15。
一方でジンとアンドレのレベルはそれぞれ14と19。強さを考えればちょうどいい塩梅だ、とジンはアンドレの提案を受け入れた形である。
「アンドレ、あとどのくらいだ?」
『もう間もなくの筈だ、の』
馬車をのどかに操るアンドレの、特徴的なモザイク声で返事が来た。
怪しい仮面と肌を見せない服装も相まって、ジンの転生前の世界では通報待ったなしだが、この世界ではどうなのだろうか。
(あまり考えてなかったが、アンドレをこの格好で町に出すことが不安になってきたな。かと言って仮面の下を見せるのは……)
アンドレの種族はスケルトン。仮面や服の下には真っ白な骨格しか残っていない。
EWOでスケルトンは比較的メジャーな
しかし、この世界に来てからはスケルトンをはじめとした
ジンはソルから以前
『ジンよ、進路に魔物が居る。頼むぞ』
「ん、ほいきた」
声をかけられたジンは一度思考を切り、荷台から飛び降りて馬車の前に走る。すれ違いざまにアンドレが馬車を止めたことを確認した。
街道の先、ジンの“気配探知”範囲外にはぴょんぴょん飛び跳ねてくる赤色のぷるぷる。スライムの上位種、レッドスライムだ。それが4匹馬車に迫っていた。
レッドスライムの戦闘スタイルは、基本的にスライムと同じで体当たり主体の肉弾戦。ただし赤色の体は火属性に傾いており、戦いの中で3回まで攻撃魔法の“ファイア”を使うことができる。
ジンも当然知っているが、最初に出会った時は遠近両方の攻撃を使い分けられる彼らに苦戦を強いられた。
ジンはそんなことを思い出しつつも、短剣を抜いて呟く。
「もう戦い慣れたが、油断はしない」
戦い慣れた理由は至極単純。
モルモから街道を進むとレッドスライムとは嫌というほど遭遇し、消耗を避けるためには否応にも彼らとの戦い方をマスターせざるを得なかった。
ついでに通常ドロップもレアドロップも回収済みであり戦う旨味は薄いのだが、進路を塞がれている以上やり合わなくてはならない。
「ふっ!」
まずは群れの先頭の1匹に一閃。綺麗に斬撃が命中し、レッドスライムは間もなく動かなくなった。
続いてもう1匹がジンに迫るが、ジンはそれの対応より先に残る2匹の位置を確認する。
街道から外れ、お互いに固まってその場から動かずにぷるぷるとしていた。見慣れた動きにジンは心の中で舌打ちをする。
(ファイアの準備か! ……でもこの距離ならなんとか!)
レッドスライムの魔法準備はEWOと同じモーションをするようで、ジンはそこからファイアが来ると判断。
ジンの目測で、彼らとの距離は10メートル前後。だが“気配探知”に反応がないことから、効果範囲の10メートルよりも外側であると考えた。
レッドスライムのファイア発動までにかかる時間は3.5秒。
投げナイフでも攻撃はできるが今のジンでは攻撃力が足りないようで、無傷のレッドスライムを撃破できた試しはない。
そしてファイアなどの魔法を有効に防ぐ手立てがジンにはない。
よって被ダメージを減らすためには遠距離で魔法を使おうとするレッドスライムに近づいて速攻で倒す、というのが長旅で学んだ対レッドスライムの戦法だった。
どすっ、と目の前のレッドスライムが体当たりをかましてきたことで思考が遮断されるが、ジンは務めて無視。一気に加速してもう2匹のレッドスライムに詰め寄った。
「おりゃ!」
走り抜けつつ、足元のレッドスライムを
(あと1匹もファイアに切り替えたっぽいな)
ジンは“気配探知”で、最後の1匹が足を止めたことを感じ取っていた。
そのままスキルを頼りに向き直って突撃。両短剣でしっかりと仕留めた。
『見事だ』
「相当狩ったからな」
アンドレは再び馬車を動かし、ジンにゆっくり近づいてきていた。戦いが終わる前にスタートしていたようだとジンは感じ取った。
ジンはレッドスライムの買取素材である核を素早く拾い上げ、よっ、と先ほど座っていた場所に飛び乗った。
「それにしても昨日から貸してくれたこの短剣、買い取りたくなるくらいしっくり来るな」
『我も貸した甲斐がある。とはいえそいつはなんの変哲もないドロップ品だ。運が良ければタルバンのダンジョンで取れるかもしれぬぞ……まあジンのことだ、運が悪くとも取れるまでダンジョンには潜り続けるのだろうな』
「当然だ。この短剣は名前の通り俺の
ニヤリ、とジンはアンドレの背中を見つめながら宣言する。
ジンの持つ短剣の名前は“シーフダガー”。手に装備した際、各種“ぬすむ”の成功率が上昇する物だ。また微量ながら器用さを上げる効果もついている。
“ぬすむ”系を覚えるのは
「ますますタルバンのダンジョンが楽しみだ」
『我もジンと共に強くなれることが楽しみだ。……見えてきたぞ、あれがタルバンだ』
「まじか! ……ほう、当たり前だがハクタよりも大きいな」
『ハクタの町本来の持ち主であるルミオン伯爵の、直轄領の1つであるからな』
ジンはまたも荷台から飛び降り、アンドレと並ぶように立つ。
彼らのいる場所は小高い丘の上。そこから見下ろす形で、街道の先に二重円の城壁とハクタのものよりも高い建物がいくつも見える。
「なんというか、防御力の高そうな都市だな」
『その通りなのだが、本来の目的はダンジョンやその関連施設と、居住区の分離にある。タルバンの城壁はダンジョンの入り口が外側と内側の壁の間に位置するように作られておる。それより内側が居住区だ』
「なるほど。確かに街中にダンジョンがあるというのは治安的にも居住者の気持ち的にもよろしくないな。……ちなみに伯爵の屋敷はどれだ?」
『わざわざ言わずとも分かると思うが、二重城壁の中心だ』
「だよなあ……俺のイメージがよくなかったのかもしれないが、屋敷というより城だよな」
中心に聳え立つのは高さ10数メートルはあると思われる巨大な城。ジンたちからでは見えないが、堀や門なども存在すると思われる。
二重の城壁も相まって、仮に町の外から攻略をしようものなら侵入することさえも至難の業だろう。
(伯爵って、貴族制が中世ヨーロッパと同じなら確か5段階中3番目の位だったよな? それであの財力と家の規模ってマジかよ……ソルの計画に便乗するべきではなかったか?)
「まあ後悔しても今更だな、最悪何も噛まなければいいんだし。行こう」
『あいわかった』
アンドレは返事と共に、馬車を動かし始める。
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