9 無職vs騎士
攻撃力に劣る
積極的に狙っていけば戦えるが、
(EWOと同じならダメージはあるはずだが、全く効いてなさそうだな)
テレンスの様子を見てそう判断する。
さて、どうしたものか。
テレンスがどう判断するかはわからないが、今のような力任せの攻撃はもうしてこないと考えたほうがいい。それ即ち、カウンターが狙いにくくなるということだ。
(それでも経験値のために、簡単にはやられてやらないぞ)
ジンが思い浮かべた対剣&盾の戦術は、中距離の魔法攻撃で盾の防御力を無視してダメージを与えるか、至近距離の打ち合いに持ち込んで剣と盾のメリットを打ち消すか、の2つだった。
勿論ジンにできるのは後者で、それゆえに短剣の選択は有利に働いた。もっとも、他の武器は現実に握ったことがなく包丁と似通っている短剣ならまだ扱いやすいだろうと考えたのが本音だが。
戦術の話に戻る。
ジンがこれから行う至近距離での戦いなのだが、EWOの中では事情が少し変わる。距離が足りないために当たらない、というのは当たり前なのだが現実における“速度”や“姿勢”が全く反映されていない。
武器の攻撃の出し始め、出し終わり、近すぎる距離でも同じダメージになっていたし、武器ごとのプログラム通りの攻撃モーションしかなかったために姿勢が変わることもなかった。パターン通りであるがゆえにカウンターも簡単にとることができた。
(現実のこの世界ではそうもいかないんだろうな、多分。
負けても殺されることはないだろうしな、とジンは思う。
テレンスも今後の攻め方を考えているのか、盾を前に構えてジンをにらみつけたまま動こうとしない。
ジンはジンで、いつでもカウンターを取れるように身構えつつテレンスの観察を続けた。
模擬戦が始まって5分ほどが経過したが、ジンとテレンスはお互いに倒れていないし降参もしていない。
「シアン君、どう思う?」
「何がでしょうか」
「ジン君のことだよ。君から
先ほどの魔物に対する的確な情報といい、今の戦闘の様子といい、ジンが有能な冒険者であるとクラインは感じざるをえなかった。
今この瞬間は膠着状態だが、模擬戦自体は大抵はテレンスが先に攻撃をし、ジンがそれに対応するという図式で成り立っている。
訓練場に向かう前にシアンに確認をしたが、彼の能力に特筆すべき点や特別な魔道具の類はなく、本当にただの
テレンスの攻撃はことごとく回避され、反対にジンが攻撃する際には攻撃はほぼ毎回テレンスを吹き飛ばしていた。
(一体なんなのだ。“超反撃”をあそこまで的確に使いこなす冒険者を見たことがない!)
ジンが“カウンター”と呼ぶ現象は、この世界では“超反撃”と呼ばれていて、的確に出すことは上級の冒険者でも難しいというのが常識だ。
ここでEWOでの“カウンター”の発動条件をおさらいすると、『敵が自分に向かって攻撃をしたときにそれを回避し、かつ敵の攻撃モーションが終了する前に自分の攻撃が命中すること』だ。
……ジンはEWOと同じ感覚のため意識してはいないが、ただ攻撃中に反撃をしてもこうはならない。
この世界の人々の中に無い概念、それは“攻撃モーション”だ。
攻撃モーション=攻撃の姿勢、と言ってしまえばその通りなのだが、“カウンター”を成功させるには防御や受け流しを含め、攻撃側の動きに対して一切の邪魔をしてはならない。
EWOではそもそもプログラム通りにしか動かない関係で、攻撃が当たろうとも防ごうともモーション自体に変化はなかったのだ。
加えて、“自分に向かって”というのも少し問題がある。
戦争のように大規模な乱戦になる場合などは、自分が誰に向かって攻撃しているか明確に意識することは少ない。
これは魔物の群れに対しても言えることで、効率的にやろうとすればするほど、範囲的な攻撃をしようとするほど“カウンター”にはなりにくい。
そんなことはつゆ知らず、クラインは感動しながらも思う。
この戦いはどこまで続くのだろうと。
確かにジンの超反撃は脅威といえる。ただジンも感じていることだが、テレンスにダメージがほとんど入っていない。この状況であればいつかジンは根負けする。それはいったいいつになるのだろう……と。
だが、クラインがこの先の戦いを想像してから間もない時、終わりは意外な形で早く訪れた。
疲労による集中力の低下によるものか、それとも偶然か。
ジンが何度目かもわからないテレンスの攻撃を回避する際に、姿勢を大きく崩してしまった。
この好機を逃すほどテレンスは甘くない。振り下ろした剣をそのまま横に薙ぎ、ジンを剣の腹で叩くように突き飛ばした。
これまでテレンスの身に起こっていたのと同様に、大きく吹き飛んでいくジン。
違いは、ジンが全く起き上がってこないことだろう。
クラインはすぐに模擬戦を終了させ、隣の部屋に控えているギルド付きの
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