5 次なる魔物のターゲット
その後もジンは黙々と開墾を行い、日がかなり高くなる頃にはおよそ2人分の土地を耕し終えることができた。
もちろんプチヒールもほどほどに使っているが、今は非戦闘状態。MPは使いながらも徐々に回復している。
正確な数値はわからないが、今なら恐らく1回は使うことができるだろう。
(ここまでの進捗を一度確認してもらうのがいいか)
そう判断したジンは、説明時に兵士が入っていった小屋に向かって叫ぶ。
「すまない! 開墾した農地の確認をお願いしたい!!」
兵士はジンが呼ぶとすぐに出てきた。その手には紐が巻きつけられた小さな杭の束を持っている。
「お疲れさん。……お、土の耕し加減はいい感じだな」
「それなら良かった。今まで耕した農地の量は大体2人分だと思うんだが」
「確かにそれくらいだな。よし分かった、測量をするから少し待っててもらえるか?終わるまで俺の居た小屋で休んでていいぞ」
「ありがたい。お言葉に甘えさせてもらおう」
(プチヒールで身体的な疲労はある程度軽減できているものの、精神的な休息は取っておきたい。測量にどれくらい時間がかかるかはわからないが頭も休めておこう)
小屋の中は簡単なテーブル1つと椅子が2脚、あとは農具などを置く棚が1つある。先ほどの小さな杭たちもここにしまわれていたのだろう。農地の監視をするには十分な環境といえる。
ただ掃除は行き届いていないのか非常に埃っぽく、ジンは小屋に入るなりくしゃみをしてしまった。
(ううむ、俺はノーマン町長に登用されたとしてもこういうところでの仕事はできそうもないな……)
日本に居たころは工場作業員のジンだったが、埃っぽい環境で作業に従事していたわけではない。どちらかというと、きちんとに綺麗にしておかないと上がうるさいタイプの工場だった。
(まあ今更転生前のことなんてどうでもいい。今は休まないとな)
ジンが埃っぽい部屋を嫌い、小屋の外壁を背もたれにしつつ待っていると、兵士が戻ってきた。
「測量終わったぞ。確かに2人分の開墾が終わったことを確認した。もうそろそろ昼食の時間だろうが、作業は続けるか?」
兵士の質問に、ジンは首を振って答える。
「いや、今日はもう止めにして町に戻ろうと思う。昼食用の弁当とかは持っていないしな。依頼の清算に関してはどうしたらいい?」
「わかった。じゃあ2人分の農地開墾完了ということで達成報告をさせてもらう」
そう言うと、兵士はジンから貰った依頼書に何かを記入してジンに返した。
「この依頼書をギルドに提出すれば、報酬として1000クルスが貰える。…無くすんじゃないぞ? 無くしたら依頼は未達成ってことになって冒険者ランクの昇格に響いてくるらしいからな」
「わかった、わざわざ親切にありがとう」
ジンが受け取った依頼書を大切に腰のポーチに仕舞ったところで、兵士から声をかけられた。
「町に戻る前に俺から1つ質問なんだが、作業前に聞いてきた魔法を使っていいかってやつ、あれは何だったんだ? 見たところ作業中に魔法を使ってはいなかったようだが」
「ただのプチヒールだよ。問題はないと思ったが、何かあるといけないから一応確認をしただけだ」
「プチヒールってお前、まさか
そうだ、とうなずくジンを見て、兵士は驚いたように目を見張り言葉を続けた。
「そうか
恐らく稼ぎのいい街の外での依頼を受けられないことを心配しているのだろう。確かに1日で2000クルスは最低でも得ないとといけないため、心配は当たってはいるのだが……
(この後魔物素材で何とかするってことは言わなくてもいいな)
ジンはそう考えると、わかった、とだけ返事をしてハクタの町に戻った。
ギルドにて1000クルスを受け取り、併設の酒場兼食事処で腹を満たしたところで、次は懐を満たそうとやる気十分で町を出た。
狙いは勿論、昨日に引き続きスライムなのだが、
(そろそろレベルが4に上がりそうなんだよな……)
立ち止まってジンは考える。今は命がかかっているとはいえ、スライムは移動速度が遅い。時折背後と地面を警戒していれば死ぬほどの不意打ちは受けないだろうとの考えだ。
さて、とジンは考えに耽る。昨日までの戦果を考えると、EWO通りであれば残り126匹のスライムを倒せばレベルアップする。
問題はその後で、それ以上スライムを倒してもレベルが上がらなくなるはずなのだ。
これはEWOのシステム上“経験値キャップ”と呼ばれ、自分より格下の相手からは経験値がもらえなくなるという仕様だ。
現実に無理やり置き換えて考えれば、数学ができるようになりたいのに、いつまでも1+1=2、を繰り返すようなものだろう、とプレイヤーとしてのジンは考えていた。
経験値キャップが生きているなら次のターゲットを決める必要がある。
EWOであれば土もぐらが相手としては最適なのだが、森に住処を移しているらしい。
事実ジンは土もぐらに遭遇しておらず、昨日から戦いの合間合間、気が付いた時に植生を観察してもいるが、確かにナナシ草が生えている場所は、少なくとも群生、という大きなくくりでは見つけていなかった。
(困ったな。森の入り口近くで戦って撤退、を繰り返せば何とかなるかもしれないが……
森の恐ろしさを本格的に味わったわけではないが、初日のことを考えると索敵のしづらさが一番の問題だろうとジンは考えていた。
どこから現れるかわからない、仮に茂みの音がわかってもどんな魔物が出てくるかわからない、そんな緊張感をずっと持ち続けるのは想像以上に疲弊するだろう。
(索敵力を上げるためには
ジンはああでもないこうでもないと悩み続ける。
もちろん魔物を倒す以外での経験値獲得法が無いわけではないが、転生2日目のジンにそんな当てなぞありはしない。
そう考えていると、街道の先から2人の人間と、その2人を追ってか、もっと小さな人型の魔物の群れがやってくるのが見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます