第56話 東フロアの実情…カツオの母親。そして阿部は天国へ…
『失礼します。』『はい…。』
中へ入ると、そこには窓をガチャガチャと開けようとしている姿を発見。
『只野さん!何してるんですかっ!?』『あそこに息子が…』窓の外は何も無い。春を待つ桜の木が見えるだけ。
『初めまして、只野さん。』『息子…』『息子さん、いらっしゃるんですね。何歳なんですか?』
傾聴に入るあたし。只野さんは今、息子さん…カツオが見えている。「レビー小体型認知症」と言われるタイプの認知症だ。
興奮をさせてはいけない。落ち着いて話を聞いてあげる事が大事だ。
『息子さんは、何歳なんですか?』『21歳…あそこにいる。』『息子さんの名前は?』『カツオ。只野カツオ…』
ちゃんと覚えてる。
カツオ…あんた愛されてんじゃんか。顔出しに来なさいよね。
『あれー?阿部さんじゃないっすか?』『おー、チャラ男。』『なにしてんすか?…あ!おい!ババァ、また鍵開けようとしてんな!?』
チャラ男が只野さんに近付き、触っていた窓のから無理矢理手を引き離した。
『ちょっと!!』『こいつ、いつもなんすよ!他の利用者の部屋入ってくし、「風呂だ」とか言って突然服脱ぎ出すし。めんどくせー。』
こーゆー奴がいるからダメなんだ。
こいつみたいな奴が、利用者の行き場を失くしてく。
『しょうがないでしょ?それを介護するのがあんたの役目なんじゃないの!?』『安月給でここまでやってらんねっすわ。』『あっそ。んじゃ、あんたの親がここに入所したら、全く同じ扱いしてあげる。文句いうなよ!?』
利用者様を人間と扱わない職員もいる。
仕事だと割りきり、「ゴミ」同然の扱いをする職員だっている。
それが、主任や介護長の前となると豹変し、「頑張ってます
」感を突然出す奴が多すぎる。
こいつもその中の1人だ。
『俺の親はもっといい施設に入れますもん。こんな施設に入れませんよ。』『こんな施設にしてんのはお前だろーが。とにかく、只野さんはあたしの知り合いの親だから。』『えっ!?そうなんすか!?』『何か余計な事したら、ただじゃおかないから。宜しく。』
「只野さん、また遊びに来ますね。」
あたしはカツオのお母さんに挨拶をし、部屋を出ようとすると入り口に佐野さんが腕を組ながら立っていた。
『やべっ!さ、佐野さん!!お疲れ様です!!』『…お前、いつもこんな感じなわけ?』『いや、違いますよぉー(笑)』『只野さん、俺の知り合いでもあるから。他の利用者様同様、ちゃんと介護しろ!!』『は、はい…』
ナイスタイミング。
あたしは佐野さんに頭を下げ、部屋を出るとエレベーターの所で声を掛けられた。
『阿部!』『はい!?』『ありがとな。』『いえ、あたしは何も。それじゃぁ…』『大好きだ。』
壁ドンからの突然のキス。
しかも、施設内。
誰かに見られたら終わりって知ってるはずなのに…
『さ、佐野さん!!』『悪い。』
「好きすぎて我慢出来なかった。」
頭をポンと叩かれ、先に佐野さんがエレベーターで降りていった。
あたしの頭は天国へと行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます