第46話 シスコンに至る迄の経緯。でも、やはりシスコンはシスコン。

『部屋広っ!!!!』

シンプルな部屋。余計な物は一切置いてなく、ぼんやりとした間接照明がリビングの隅でひっそりと照らされている。


『適当に座って。』『あ、はい。』『おい!どこいくんだよ!』『え?寝室に・・・』『ふざけんな(笑)』


おっと。少し早かった様だ。

あたしは仕方なくふっかふかのソファーに埋もれ、側にあったクッションを抱き抱えながら、佐野さんの行動を目で追い続けた。


『安部、何飲む?』『何でもいいです。』『ワインでいい?』


ワインなんて飲んだ事ねーーっ!!

お母さんがたまに料理で使ってんの見た事ある位で、あたしは本当にお酒に関しては無頓着。


『ワインでいいです。因みに何年ものですか?』


嫌われるタイプNo.1。

『知らない奴に限って調子こく。』


『何だ、安部ワインに詳しいの?』『はい。全然。』『どっちだよっ(笑)』


ガラステーブルに並べられるワイングラス2つと、お洒落なおつまみ達。

・・・そして、最終的にはあたしもつままれる。(アホ)


『お疲れ。』『お疲れ様です。』カチンと音を立て、佐野さんは一気にワインを飲み干した。


『一気に飲んで大丈夫なんですか!?』『飲まなきゃやってらんねーよ。』『・・・ですよね。』『安部も飲め飲め!!』


「今日はとことん佐野さんの話を聞いてあげたい。」

「あわよくば、生まれたままの姿を見たい。」

そんなピュアな想いが募り、佐野さんをグダグタに酔わせる為、あたしの手は佐野さんのワイングラスへと次々注いでいく。


『まぁまぁ、佐野さん飲んで下さい。』『安部ぇー、俺はさ、美香を親父代わり、母親代わりとして育てて来た訳!!』『・・・え?佐野さんってご両親・・・』『俺が高校の時に交通事故で死んだのっ!』


「すぐに帰ってくるから。」


そう言って家を出た両親は、親戚の出産祝いを持ちながら車を走らせた。

・・・昼間の見通しが良い交差点。

歩行者信号は「赤」、佐野さんの両親は車両用信号が「青」だった為スピードを緩める事なくアクセルを踏み続けた。


その時だった。

対向車線の車が縁石を乗り上げ佐野さんの両親が乗っている車目掛けて・・・。

両方共に「即死」だったという。

相手は、80歳を越えた独り暮らしの御高齢。軽度の認知があり、病院へ向かう途中だったのだと後に知った。


両親を突然失ってしまった佐野さんは、妹の為にバイトを掛け持ちし、両親が佐野さんの達の為に残してくれていた貯金を使いながら高校、介護専門学校を卒業。

続いて美香さんも佐野さんの後を追い、介護の道を選んだという。


『そんな事があったなんて・・・』『俺には責任があるんだよ。美香をちゃんと嫁に出して、幸せにさせる責任がっ!!』


胸が締め付けられるように苦しい。

何も分からず、ただ「シスコン」とバカにしていた自分が情けない。

・・・いや、重度のシスコンには代わりない。

でも、佐野さんはやっぱり「凄い人」なのだと、改めて実感した。


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