第二百四十一話 戦艦の対処法

「で……我々の任務はなんだ? 艦隊の直掩か?」


 休憩を切り上げてストライカー母艦から出撃してきた輝星たちだが、具体的な作戦は聞いていなかった。シュレーアが自ら出てきたことを見るに、何かしらの思惑があるのだろう。


「エレノールさんとテルシスさんは、そうです」


「……というと、我が主は別に動くというわけか」


 テルシスが聞き返した。当然、輝星だけではなく彼女らも出撃命令は出ている。とはいえ、どうやら別行動させられるようだ。彼女の声音は、不満であることがありありとうかがわれるものだった。


「輝星と私たちは、敵の戦艦部隊を叩きます。なにしろ、敵の数はかなり多いですからね。こちらの主力と接触する前に、少しでも弱体化させる必要があります」


「対艦戦か……目つぶしを狙うわけだな?」


 唸るディアローズ。脳裏に浮かぶのは、ルボーア星系の戦いだ。輝星の奮戦により、彼女はそこで多くの戦艦を失った。輝星は射撃用のレーダーを潰し、射撃精度を著しく下げたのだ。いかに強力な戦艦でも、砲が当たらなければたんなるマトと化してしまう。


「ええ。敵艦隊に突入し、戦艦クラスの射撃管制レーダーを狙い撃ちます。なんどか反復攻撃をかければ、かなりの弱体化が狙えるでしょう」


 分厚い装甲を誇る戦艦だが、流石にレーダーまではカバーできない。対艦兵装を用いずとも、破壊は可能だ。もっとも、レーダーの設置場所の近くは大量の対空砲が配置されているため、そう簡単に攻撃は仕掛けられないが……そこは腕で何とかするほかない。


「そして、私の機体はこういった任務にはうってつけです。士気高揚を図るためにも、大将自ら出陣するべきだと判断しました」


「なるほど、それはわかりますわ」


 頷くのはエレノールだ。しかし彼女は、厳しい目つきを近くを飛ぶ"コールブランド"に向けた。"カリバーン・リヴァイブ"とそっくりな見た目の、漆黒のゼニス・タイプだ。愛機"オルトクラッツァー"を失ったヴァレンティナのために用意された機体である。


「しかし、ならば同コンセプトの機体に乗っているわたくしもその任務には適任のハズ。ヴァレンティナ様の代わりにわたくしが参りましょう」


 ヴァレンティナは決して技量が低いわけではないが、流石に四天には劣る。おまけに、乗機は四天専用機と比べれば性能的にかなり劣る"コールブランド"と来ている。そうそう輝星が後れを取るとも思えないが、護衛としてはやや不安を覚えるというのがエレノールの本音だった。


「わたしとシュレーアがともに出るということが大きな意味を持つのさ。なにしろ、この作戦には皇国兵だけではなく、わたしについて帝国を離反した兵士たちも大勢参加しているからね」


 しかし、反論されるのはヴァレンティナとしても予想のうちらしい。澄ました声で、そう説明した。


「というか、ここにいる全員で向かえば良いだけなのではないか?」


 難しい表情で、テルシスが提案した。なにしろ、彼女は剣しか装備していない特異な機体に乗っている。対ストライカー戦なら大活躍できるが、対艦戦ではやることがない。

 だからこそ、自分も連れて行ってくれとは言いにくいのだが……敵陣に少数で突っ込むような任務は、テルシスの大好物だった。できれば同行したいのである。


「そういう訳にもいきません。皇国主力艦隊のほうにも、敵のストライカーや小型艦による襲撃が来るでしょう。一応、ノラさんも残していきますが……エースも一人だけでは、万一の場合に対応しきれませんから」


 現状の直掩部隊だけでは艦隊の防空力に不安があることは、先ほどの戦闘で痛感していた。しかし、敵の主力艦隊にはストライカー母艦なども同行しているだろう。敵ストライカーの攻撃が激しくなるのは確実だと思われる。

 そこで出てくるのが、四天だ。ノラ、テルシス、エレノールの三人がいれば、少々敵が多くともどうとでもなるだろう。


「むぅ……」


「すまないね」


 勝ち誇るでもなく、真摯そうな声でヴァレンティナはテルシスらに謝った。部下の忠誠に不安がある現状では、兵士たちの尊敬を集める四天たちの不興を買うのはよろしくない。ただでさえ、最近の四天はヴァレンティナではなく皇国に従っている様子を見せているのだ。


「この機体にもずいぶんと慣れてきた。大丈夫、無様は晒さないさ」


 ヴァレンティナは敵が来襲してくるギリギリまで、機体の慣熟訓練を続けていた。元の愛機と比べれば多少性能は劣るとはいえ、素性的には決して悪い機体ではない。彼女の声には、確かな自信があった。


「そこまで言うのならば、信頼しよう。任せたぞ、ヴァレンティナ卿」


 やや無念そうな様子だが、テルシスは納得したようだ。スラスターを焚き、編隊を離脱する。エレノールもそれに続いた。皇国主力艦隊の方へ向かったのだろう。


「では、我々も参りましょう」


 そう告げるシュレーアの声には、戦意が満ち溢れていた。

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