第二百二十四話 ウィベル猟犬団(4 )
ウィベル猟犬団は突進する"エクス=カリバーン"を追跡しなかったため、敵部隊との距離はかなり開いている。このチャンスを逃す輝星ではない。右手にブラスターライフル、左手にメガブラスターライフルという攻撃的な構えで、敵機を睨みつける。
「これを凌ぐか、それでこそ"凶星"だッ!」
一方、必殺の攻撃を防がれたマキナはといえば、動揺するどころか顔に獰猛な笑みを浮かべていた。彼女らは輝星の異様な戦闘力をよく研究しているようだ。策が破られる可能性も考慮していたに違いない。
「フォーメーションをCへ変更! 一撃離脱を警戒しろ!」
「了解!」
統率の取れた動きで迎撃態勢を整えるウィベル猟犬団。その遥か彼方先で、輝星はスロットルを押し込んだ。同時に青いスラスター噴射炎が弾け、敵集団に向けて反転加速する。
「一発じゃ避けられるってんなら!」
叫びと共に放たれたライフルのビームは、やはり寸でのところで回避されてしまう。しかし一拍置いて発射されたメガライフルのビームが、今度こそ"ヴァローナ"のエンジンを撃ち抜いた。
帝国軍謹製の高出力ビーム砲を腹に喰らった"ヴァローナ"は、上半身と下半身に分かたれて各々勝手な方向へと吹っ飛んでいく。明らかなオーバーキル火力だ。
「旧式に乗っててもとても勝てない相手なのに、誰だあんな化け物ストライカーを"凶星"に渡したのは!」
猟犬団の団員が一人、引きつった顔でぼやいた。被弾した機体のコックピットは無事なようだが、あんな狂った火力の武器を向けられているというだけで背筋が背筋が寒くなってくる。
「怯むな! 最後に一機でも残っていれば我らの勝ちだ!」
ウィベル猟犬団側としては回避運動のために散開したいところだったが、味方から離れれば援護が届かなくなる。そうなれば、あとは各個撃破されるだけだ。密集隊形を崩すわけにはいかなかった。
「うむ、狙うならアウトレンジ攻撃よな。ちくちく削り取ってしまえ」
安全に戦えそうだとふんだのか、ディアローズはふんすと鼻息荒くそう言った。先ほどまでのうろたえようはなんだったのかと、輝星は思わず苦笑する。
「勝ち筋としては確かにそれが一番だが……さて、そう易々とやらせてくれるかね」
とはいえ、敵も単なるマトではない。それどころか、明らかに精鋭部隊だ。油断すれば足をすくわれそうだが……そんなことを考えつつも、同じ手口で"ヴァローナ"を二機三機と撃墜していく。
敵部隊はなんとか距離を詰めようともがくが、輝星は巧みにスラスターを吹かし、向こうの射程内に入らないよう動いていた。"ヴァローナ"は高性能な機体だが、流石に"エクス=カリバーン"ほどの推力はない。強引な突破は不可能だ。
「むっ」
そこへ、マキナの"ラーストチカ"が突っ込んでくる。ゼニスだけあって、そのスピードは"エクス=カリバーン"にも匹敵するものだ。これはさすがに振り切れない。
「破れかぶれの突撃か? くく……連中も焦れて来たな! 叩き落してやれ!」
「いや、これは……」
輝星の直感が告げていた。これは捨て身の特攻などではない。"ラーストチカ"から放たれる気配は、驚くほど冷静なものだ。
「何か策があるな?」
唸る輝星。そこへ、"ラーストチカ"がライフルを発砲する。電磁力で猛烈に加速された徹甲弾が、驚くほどの精度で"エクス=カリバーン"を襲った。紙一重で、輝星はそれを回避する。反射的に放った反撃のブラスターライフルはマキナ機を捉えたものの、シールドでたやすく弾かれた。
「ふっ!」
さらに、追撃のメガブラスターはひらりと回避する。さすがにこの大出力砲はシールドでは耐えきれないからだ。そしてこの一瞬の攻防の隙を狙いすますように、"ヴァローナ"部隊が前進してきた。前衛部隊がマシンガンを撃ち込んでくる。
「く、そうか……こやつら、団長を囮にしているのか!」
飛来してくる曳光弾を憎々しげに睨みつつ、ディアローズが叫ぶ。唯一"エクス=カリバーン"に単騎で対抗可能な"ラーストチカ"で時間稼ぎをし、その隙に"ヴァローナ"部隊が接近するという作戦らしい。
マキナ自身はあくまで時間稼ぎに徹するつもりらしく、牽制射撃以上の攻撃はしてこない。しかしそれでも、その射撃精度は極めて高く、隙を見せれば被弾してしまいそうだ。
「くっ!」
このまま"ヴァローナ"部隊に包囲されれば、また同じように四方八方から袋叩きにされてしまう。流石の輝星も、それは避けたい。急いでスラスターを吹かし、"ヴァローナ"部隊から距離を取る。その進路をふさぐようにして、マキナはライフルを撃ち込んできた。
「厄介だな、これは!」
歯をむき出しにして、輝星は唸った。砲弾をギリギリで回避しつつ、スラスターを焚き続ける。マキナ機はそれを執拗に追跡し、攻撃を仕掛けつづけた。まさに猟犬のような執念だ。
「どうだ、"凶星"! これが進化したウィベル猟犬団の実力だ!」
誇らしげに語るマキナに、輝星は小さく息を吐いた。
「本当にやるじゃないか……!」
長丁場の戦いになりそうだ。輝星はちらりと、残弾を確認した。
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