第百五十話 策士
結局輝星はこの後、相方を変えつつもさらに五回ほどこのゲームに付き合わされることになった。毎度苦戦はするのだが。敵方よりもむしろ輝星と組んだ相方のほうが楽しんでいるのだから、ゲームとしての楽しみ方を間違えているとしか思えない。
「い、いい加減ちょっと疲れたんだけども……」
完全に開き直って守られることを前提に楽しんでいた輝星だったが、さすがに三十分以上も付き合わされると疲れてくる。実戦ではさらに長い時間戦い続けるのもザラなのだが、勝手の全く違うゲームとあって頭も体も慣れていないのである。
「あはは、すみません……ずいぶんと付き合わせちゃって」
へろへろになりながら筐体から出てきた輝星を、ご満悦な雰囲気を漂わせたシュレーアが苦笑しながら出迎える。念願の騎士プレイを楽しんだ彼女は、それはもう上機嫌な様子だった。
「楽しかったからいいよいいよ」
手をひらひらさせながら輝星は答えた。一種のごっこ遊びと思えば、まあ受け入れられないこともない。どうやらヴルド人女性にとって『男の子を守りながら戦う』というシチュエーションは非常にクるものがあるらしく、シュレーアのみならずサキやヴァレンティナもなかなかに楽しんでいた。みんなで楽しめたのなら、勝敗など大した問題ではないだろう。
「とはいえ、流石に飽きてきたのは事実デスね」
タオルで汗をぬぐいながら、ノラが言った。輝星がこのゲームをこれ以上プレイしないというのなら、彼を倒すことが目的のノラとしてもゲームを続ける理由はない。
「せっかくいろいろゲームがあるのだから、ほかの物もやってみなければ勿体ないのではないか?」
「それもそうデスねえ。だいたい、ストライカーに乗るなんて仕事中にいくらでもできるんデスよ。ゲームとはいえ、休暇中に乗るってのもヘンな話デス」
「言われてみりゃその通りだな。あたしら、全員パイロットなわけだし」
腕を組みながら、サキが頷く。先日も惑星センステラ・プライムで嫌になるほどストライカーに乗り続けたばかりだ。少し考えこみながら、彼女は周囲を見まわす。
「とはいえ、ほかのゲームっつってもなあ。これだけ人がいるのに、一人でメダルゲームちまちまやっても面白くないだろうし」
「ヴァーチャル競馬? とかいうのがあるようだが」
テルシスが指さした先には、疾走する馬の映像が流れ続ける大画面の液晶モニターがあった。たしかにあれなら大人数でも遊べるだろうが……。
「うーん、あたしは対戦系をやりたいんだが」
「ならば、これはどうだ? 貴様にしろテルシスらにしろ、身体を動かすのは好きだろう」
そう言いながら、ディアローズは卓球台のような形状の筐体に歩み寄る。
「なるほど、エアホッケーか。悪くないな」
ホバークラフトの要領で浮遊する樹脂製の円盤を打ち合う、大昔からある定番の競技がエアホッケーだ。温泉と言えばピンポンだが、ルールとしてはある程度似ているのでこちらでも良いだろう。サキは嬉しそうに頷いた。
「こいつはさすがに俺の動体視力じゃなんともならないな。観戦に回ることにするよ」
身体を使う競技に関しては、手加減してもらったところでヴルド人に勝ち目はない。輝星は苦笑しながら首を左右に振った。
「ふむ、では私が……」
そんな彼をチラリとみて、シュレーアは挑戦的な笑みを浮かべる。輝星に見られながらヴァレンティナやテルシス相手に対戦するのはなかなかおもしろそうだと考えたのだ。しかし、そんな彼女の袖を、ディアローズがそっと引く。
「えっ? 何を……」
ディアローズは答えず、無言で首を左右に振った。そして輝星の方に一瞬目をやり、視線をシュレーアの方に戻す。それだけで、シュレーアは彼女が何を言いたいのか察した。
「……なるほど、策士ですね」
そんな彼女らのやり取りに気付かないまま、サキたちは対戦を始めていた。二対二のダブルスだ。サキ・ノラとヴァレンティナ・テルシスの組み合わせ向き合い、
「……はっや、何が起こってるのか見えないんだけど……」
マシンガンのような連続した打撃音を聞いて、輝星が少し引いたような声を出した。当然打ち交わされる
「おい、ご主人様」
そんな輝星の後ろにいつも間にか回っていたディアローズが、そっと耳元でささやいた。熱い息を突然耳に吹きかけられた彼は、驚きのあまり身を強張らせた。
「ふふん」
その姿が可愛かったのか、ディアローズはぽんぽんと彼の頭を撫でた。そのまま、あえて吐息を感じさせるような艶っぽい声音で続ける。
「奴らは奴らで遊び始めたのだし、こちらは別で回ろうではないか。ん?」
「ええ? また、そんなことを」
呆れた目でディアローズを見る輝星だったが、シュレーアが彼の手首をそっと握ったため言葉を止めた。彼女は輝星の目をじっと見ながら、やや緊張した面持ちで言う。
「ま、まあそういわずに……一緒に、遊んでいただけませんか?」
「……ま、いっか」
うるんだ瞳でそんなことを言われてしまえば、男としては断りにくい。小さく笑って、輝星は頷いた。
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