第百三十一話 奮戦、ディアローズ(2)
鮮やかな青に染まる南洋にて、激しい戦いが始まった。強烈なビームと質量弾が撃ち交わされ、撃墜されたストライカーが轟音を立てながら小島に激突する。
「またこいつらか! あたしらに在庫処分をさせようってハラか?」
二線級の旧式機、"ジィロ"を電磁居合刀で真っ二つにしながらサキが叫んだ。ルボーア会戦でも一度戦った相手ではあるが、やはり前線に出すにはツライ性能であると言わざるを得ない。
サキは愛機である"ダインスレイフ"の修理がまだ完了していないため、今は皇国主力機である"クレイモア"に搭乗している。ヴァレンティナ派にしろ皇国軍にしろ、前回の作戦で主力のゼニスをほとんど失ってしまっている。だからこそ敵ストライカー隊との戦闘にはやや不安があったが、今のところ戦況は皇国優位で進んでいた。
「ハッ! あのクソ女もこんな戦力しか出せないようじゃ終わりデスね!」
嘲笑とともに、ノラは"ジィロ"の一群にブラスターマグナムを撃ち込んだ。二機が同時に吹き飛ばされて沈黙し、その僚機がたじろぐ。即座に追撃を仕掛けようとするノラだったが、耳障りな警告音が鳴った。
『エネルギー不足! エネルギー不足! 該当火器は発砲不能!』
電子音声ががなり立てる。ゼニス用の武装を一般量産機の"ジェッタ"で運用しているため、発射に必要な電力の供給が間に合わなかったのだ。"ジェッタ"のエンジン性能では、マグナムは二連射が限界だ。余剰電力がチャージされるまで、少々の時間が必要だった。
「ちぃっ!」
「ふっ……悪いが獲物は頂くぞ、ノラ卿」
ノラが墜としそこねた"ジィロ"の部隊に、テルシスが斬りかかる。彼女も乗機は"ジェッタ"だが、その動きは極めて鋭い。陽光を受けてギラリと輝く長剣が閃くと、"ジィロ"は上半身と下半身を泣き別れにされて墜落した。大きな水柱が上がり、水面に作動油の黒いしみが広がる。
「弱い者をいたぶるようで申し訳ないが……拙者もスコアが入用でな!」
「う、うわあああ、来ないで!」
恐慌をきたした"ジィロ"がショートマシンガンをやみくもに乱射したが、そんなものに当たるテルシスではない。でたらめな射線を巧みに避けつつスラスターを短く吹かし、急迫。そのエンジンを長剣で一突きした。力が抜けて落下し始める"ジィロ"を蹴り飛ばし、その反動でさらに別の"ジィロ"に接近すると飛燕のごとき速度で両断した。
「……っく、やらせないデスよ!」
表情を強張らせたノラがぐっと歯を食いしばり、味方を援護しようと接近して来た"ジェッタ"を撃ち抜いた。その隙を突くかのように"ジィロ"が銃剣付きのブラスターライフルを構えて乱射しながら突撃してくる。ノラは射撃を軽快な動きで回避し、一瞬遅れて襲い掛かってきた銃剣の刺突を右手のマグナムで払いのける。姿勢を崩した"ジィロ"の腹に、お返しとばかりに左手のマグナムの銃剣を突き刺した。
「このワタシに白兵を挑もうなんて、百年早いんデスよッ!」
ノラとテルシス、この二人の戦いぶりはまさに鬼神といえるほどのものだった。その獅子奮迅の活躍に、帝国兵たちの戦意が鈍る。
「こ、この武器と戦い方……まさかテルシスさまとノラさまじゃ!?」
「反乱軍に参加したっていうのは本当だったの!? に、逃げなきゃ……勝てるわけがない……」
たまらず逃げ腰になる帝国兵だったが、四天の二人は容赦なくその背中にも攻撃を仕掛ける。死体……ならぬスクラップの山が、彼女らの足元に築かれつつあった。
「ずいぶんと気合が入っているようだね……いや、有難いことだが」
そんな二人の様子を見ながら、ヴァレンティナが冷や汗を垂らす。輝星相手には敗北を喫したとはいえ、やはり四天の実力は隔絶したものがある。たとえ味方でも、その活躍ぶりには背筋が寒くなるほどのものがあった。
「……ふー。こんなのを相手に、輝星さんは勝ったわけですか。まったく、ハードルが高くて困りますね」
シュレーアもそれは同感であるようで、彼女は深く息を吐いた。しかし、いかに二人が大活躍をしているといっても、後ろでのんびりと観戦しているわけにもいかない。他に敵がいないかとレーダーを確認すると、猛スピードで接近してくる二機のストライカーの反応があった。
「この速度は……ゼニス? まさか、もうディアローズが?」
これまでの戦術を考えるに、ディアローズならば一般機を用いてこちらに消耗を強いた後に攻撃を仕掛けてくるはずだ。交戦が始まってまだ三十分とたっていない。総大将が出てくるには、まだあまりにも早いタイミングなのだが……。
「輝星は……北斗輝星はどこだ!」
が、シュレーアの勘は間違っていなかった。ぞっとするような深い情念の籠った声が無線の共通回線から聞こえてくると同時に、皇族専用機を表す黒金の機体がスラスターを全開にしながらこちらに飛来してくる。その後ろには、これまた見覚えのあるマゼンタ・カラーのゼニス・タイプが追従している。
「うっ、あれは……"パーフィール"! もう修理が終わったのか……」
ヴァレンティナの顔色がさっと蒼くなった。そう、ディアローズの元に残留した四天、エレノールの専用機……"パーフィール"だ。ノラやテルシスの機体と同じく、前回の戦いで輝星によって撃破されていたハズなのだが……。
「雑兵しかおらぬではないか! おい、そこのデブゼニス! 確か、皇国の姫の……シュレーアとかいうヤツだったな!?」
現れるなり、ディアローズはシュレーアの"ミストルティン"を指さして叫んだ。ずいぶんと鬼気迫る声音だった。
「……いかにも。シュレーア・ハインレッタです」
「貴様、北斗輝星をどこにやった!」
「開口一番それですか! 盗人猛々しい!!」
ディアローズの詰問に、シュレーアは額に青筋を浮かべながら叫び返す。まるで自分の所有物を不当に奪われたかのような言い草だ。もともと輝星を奪ったのはディアローズの方だろうと、シュレーアは怒りをあらわにする。
「輝星さんなら……」
「救出直後、容体が急変して……それっきりです」
突然、ヴァレンティナがシュレーアの言葉を遮ってそう言った。妙に悲しげな声音だ。いったいこの女は何を言う気なのだと、シュレーアは口をへの字に曲げながら彼女の方を見る。
「姉上、すべてはあなたの責任です」
「な、な、な、なにーッ!?!?」
まるで輝星が死んだかのような言い草に、シュレーアは開いた口がふさがらなくなった。どういうつもりか真意をただそうと、個別回線をヴァレンティナの"ジェッタ"に繋げる。
「あ、あなた、いったい何を……」
「精神攻撃だ。"ゼンティス"は強力なストライカーだし、姉自身パイロットとしてもそこそこやるからね……ブラフでもなんでも使って、動揺を誘う」
どこか自慢げなヴァレンティナだったが、確かに彼女の言うように効果はてきめんだった。
「う、嘘を吐くな! 貴様らを薙ぎ払えば、心配してどこぞからノコノコ現れるのではないか!? ええい、そこに直れ! この
「で、殿下! すこし落ち着いてくださいまし!?」
気炎を吐きながら、フルオートショットガンの砲口を"ミストルティン"に向けるディアローズ。後ろのエレノールが慌てて制止したが、彼女は止まらない。
「黙れ! 貴様はそこらの雑兵でも刈っておればいいのだ! とにかく、
そう叫ぶなり、ディアローズはスラスターを全開にして突っ込んできた。戦術家・指揮官としての仮面など投げ捨てたかのような彼女の様子に、シュレーアは目を剥く。
「精神攻撃というより火に油を注いだのでは……?」
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