第十四話 実力差

「へっ、そう来なくっちゃな! 行くぜ"ダインスレイフ"! 男にストライカー戦なんぞ無理だとわからせてやる!」


 叫ぶなり、"ダインスレイフ"が"カリヴァーン・リヴァイブ"に向かって全力の加速をした。全身にまとった八枚のマント状の追加装甲からもスラスター炎が見える。防御と同時に高機動ユニットとしても機能するタイプの装備だろう。

 

「来たな、かかってこい!」


 侮辱に等しい言葉を投げかけられてなお、輝星の顔に浮かんでいたのは怒りではなく喜色だった。ブラスターライフルを構え、即座に発砲する。実際にビームは発射されていないが、両者のモニターには訓練プログラムによって合成されたCGのビーム光が描写される。

 

「うおっ、ロックオンなしでだぁ!?」


 "ダインスレイフ"のコックピットでは、ロックオン警告音は鳴らなかった。アクティブセンサーを使わず、パッシブセンサーのみで手動で射撃したということだ。

 にもかかわらず、狙いは正確極まりなかった。ビームは吸い込まれるように"ダインスレイフ"の腹部へ。しかし……

 

「だが、効かなけりゃあな!」


 ビームはマント装甲によって弾かれる。低出力ビームなどでは貫けないとプログラムが判断したのだろう。

 

「他愛ねえ、そらっ!」


 すさまじい加速を見せた"ダインスレイフ"は一瞬で目と鼻の先まで肉薄した。その手は腰のカタナに添えられている。

 

「喰らえっ!電磁━━」


「喰らうのはお前なんだよなァ! これが!」


 カタナが鞘のリニア機構で射出される直前、"カリバーン・リヴァイブ"の頭部に据え付けられた二挺の機銃が吠えた。ペイント弾が"ダインスレイフ"の右手に降り注ぐ。

 

「なっ……!」


 ストライカーの正面装甲を抜くにはあまりに威力不足な小口径機銃ではあるが、繊細なマニピュレーターを破壊するには十分だ。訓練プログラムが右手の作動を強制停止させる。

 

「くっ……させるかよっ!」


 その隙に放たれた蹴りを、何とかマント装甲でガードするサキ。だが、"カリバーン・リヴァイブ"は防がれた蹴りの勢いを利用して宙返りをした。背中にマウントされた対艦ガンランチャーの砲口が"ダインスレイフ"に向く。

 

「うそだろ!?」


 しかし現実は無情であった。対艦ガンランチャーから模擬ミサイルが発射される。サキにこれを避けるすべはなく、マント装甲に着弾。

 

「ぐ……」


 訓練弾だ。当然爆発など起きないが、サキの機体のモニターには撃墜判定の文字が流れる。さしもの追加装甲も、艦艇の破壊を主眼とした大型ミサイルを防ぐのは不可能だ。

 

「じょ、冗談だろ……」


 鎧袖一触、そう形容するしかない完敗だった。サキの操縦桿を握る手が震える。

 

「一回墜ちた程度で呆けるな! 演習だぞ!」


 そんな彼女の耳朶を輝星の声がたたく。

 

「これは実戦じゃない。お前が俺をわからせるか、俺がお前をわからせるかの勝負だろ? 違うか、ええっ!?」


「ああ!? 上等だよ、やってやんよ!!」


 生来気の短いサキはこの挑発に対し、即座に撃発した。目に闘志を燃え上がらせ、訓練プログラムを再起動させる。

 

「後悔すんじゃねーぞ、お前!!」


 するりと距離を取っていた輝星に、再びスラスターを吹かせて接近。再びカタナの柄を握った。同じ轍は踏まぬよう、ギリギリまでマント装甲で機銃の射線をふさぐのを忘れない。

 

「今度こそだ、電磁抜刀ッ!」


 紫電と共に、鞘から白銀の刀身が露になる。文字通り弾丸のような速度で放たれた一閃は、まさに神速。ゼニス・タイプであれキル・ゾーンに入っていれば一太刀で両断できる威力を誇る。

 

「いくら速かろうが当たらなきゃあさあ!」 


 が、輝星は最低限の動きでこれを交わしていた。カタナの切っ先が、"カリバーン・リヴァイブ"の装甲を削るギリギリの距離を通過する。

 

「チィッ!」


 その威力から、電磁抜刀直後は身動きを取るのは難しい。それでも、独立可動するマント装甲のスラスターを使ってなんとか距離を取ろうとする。しかし、輝星がこの隙を逃すはずもない。ブラスターライフルの砲口が、マント装甲の隙間に差し込まれた。そして、発砲。

 

「くっ……そぉッ!」


 無慈悲な撃墜判定に、サキは歯を食いしばった。即座に訓練プログラムを再起動させる。

 

「せめて剣を抜きやがれ! 馬鹿にしてんのかッ!?」


「チャンバラがしたいか? 付き合ってやるよ!」


 ブラスターライフルを腰のハードポイントへマウントし、胸部に埋め込まれたシースからフォトンセイバーを抜く輝星。

 

「舐めやがって!」


 抜いたままのカタナを構え、サキは突撃した。最上段からの唐竹割りで斬りかかる。輝星はこれを正面からフォトンセイバーで受け止めた。実体刃とビーム刃がぶつかり合い、スパークを飛ばす。フォトン光粒子を磁界に封じ込めて剣状に成型した武器と、刀身を高速振動させて斬撃力を高めた武器だ。双方強烈な磁力を発するため反発しあい、つばぜり合いが発生する。

 

「いいパワーだ!」


 が、押し負けたのは"カリバーン・リヴァイブ"だ。新型とはいえ相手は近接特化機。全身を高トルクモーターで駆動させる瞬発力に優れた機体だ。汎用機の"カリバーン・リヴァイブ"では瞬間的なパワーでは勝てないようだった。

 

「余裕ぶっこくからだ、馬鹿めっ!」


 姿勢を崩した輝星に即座に二の太刀を叩き込むサキ。が、フォトンセイバーが閃きカタナの軌道がたやすく受け流される。今度姿勢を崩したのは"ダインスレイフ"だった。

 

「だが、パワーだけが勝負の決め手じゃあないッ!」


 即座にフットペダルを踏み、一気に距離を詰める輝星。


「ぐっ……」

 

 何とか逃れようとするサキだったが、それより早く拳打めいて突き出されたパイルバンカーが"ダインスレイフ"の腹部装甲を叩く。

 三たび表示される撃墜判定。サキは歯を食いしばり、そして大声で叫んだ。

 

「畜生、もう一回だ!」

 

「いいぜ、付き合ってやる!」

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